想いを寄せていた吉村裕子と、念力のおかげで恋人どうしになった。これで超能力を信じなかったら、罰が当るだろう。
洛セラの会長、山森道男の精神主義に心から共鳴できるようになった。
「あらゆる事象は人の心の反映である。純粋な心でひたすら念じつづければ、たいていのことは成就する」
山森会長のそんな信念を、小沢は自分のものにする決心をした。掛値なしに全身全霊をこめて、仕事に取組みはじめた。
街の電器店、デパートなどへセールスにゆく。洛セラは音響機器の市場では後発である。CDプレーヤー、アンプリファイアーなど、すぐれた性能がまだ一般に認識されていない。電器店もデパート側も、かんたんには仕入れに応じてくれなかった。
以前なら小沢は、堅い壁にぶつかると尻ごみした。技術や宣伝に問題がある。営業マンの努力ではどうにもならないと考えた。
だが、いまはちがう。胸のうちで懸命に念じながら先方の担当者へ食いついてゆく。
「あんたはいまにうちのCDプレーヤーのファンになる。そうなる運命なんだ。うちの製品は性能がナンバーワンである。あんたにすすめられて買ったユーザーは、まちがいなくあんたに感謝する。うちの製品のおかげであんたは出世するんだ。こんな製品を仕入れずにいられるものか」
念じていると、小沢自身がまずその気になる。信じる者はつよい。小沢のセールストークには大きな説得力がつくようになった。
成績があがりはじめた。仕事がおもしろくなる。毎日夜おそくまで、小沢は社のクルマで得意先をとびまわるようになった。
「かならずノルマを達成する。先月比三十パーセント増。是が非でも売ってみせる」
念じながら京阪神を走った。
毎週の営業会議がもう恐くなくなった。部長や課長に、どやしつけられる心配が消えたからだ。
「小沢くんはいま絶好調だな。迷いがふっ切れた顔をしている。ほんものの洛セラマンになった。いい恋人でもできたのか」
ある日、部長にいわれた。
小沢は照れて頭をかいた。吉村裕子のことはまだ発表していない。正式に婚約がきまったら、部長に仲人をたのむつもりである。
裕子とは週に一、二度ずつ会っていた。
デートしたくなると、小沢はデスクワークしながら、裕子に向かって念力を送る。裕子の女の部分を愛撫するつもりで、デスクの下でもやもやと指を動かすのだ。
裕子の体はまだじゅうぶん成熟していない。なかに指をいれても、快感がないという。小沢はだから、いつも人差指と中指で彼女の敏感な真珠の粒を刺戟してやるのだ。机に向かって事務をとる裕子をじっとみつめながら、ひそかに二本の指を動かす。
「おれとやりたいだろう。今夜会おうよ。おれたちは愛しあっているんだ」
空想のなかで愛撫しながら念力をこめる。
二、三分もすれば効き目が出てくる。裕子は顔をあげてこちらをみる。目がうるんでいる。上気していることもあった。
小沢は席を立って廊下へ出る。階段の下あたりで待っていると、裕子がやってくる。
「今晩デートしよう。残業、なるべくはやく切りあげるよ。九時にどうだ」
「いつもの場所ね。待ち遠しいわ。きょうあたり会いたいと思うてたとこやねん」
切なそうに裕子はため息をつく。すばやく小沢の手を握って去っていった。
愛情で小沢はいっぱいになる。脚のきれいな裕子のうしろ姿を、息をつめて見送った。どんな苦労をしても、裕子を幸福にしてやるつもりである。その自信はあった。一心に念じて実行すれば、すべて成就するのだ。
九月のその日、小沢弘明は裕子を抱きたい気持だった。仕事がいそがしくて、一週間以上もデートしていない。やっと夕刻、仕事から解放されるだろう状態になった。
いつものように彼は裕子に念力を送った。廊下の階段の下で二人は顔をあわせた。
「かんにん。きょうはあかんの。夕方から予定があって——」
苦しそうに裕子はことわった。事情のありそうな顔だった。
「予定って、どんな予定。おれをフッてまで行かなくてはならないのか」
「仕方ないのよ。じつはお見合なの」
「見合——。冗談じゃないぞ。本気か」
小沢は頭に血がのぼった。まったく最近のギャルはなにを考えているのか。
「そんな恐い顔せんといて。親の顔を立ててするだけなんやから」
裕子には結婚を約束した相手がいた。だが、最近小沢が好きになった。
相手に詫《わ》びて結婚の約束を取消した。裕子の母親が口添えしてくれた。小沢のことを裕子はそのとき両親に話した。
だが、最近知人をつうじて縁談があった。相手は外科医だった。父親は京都で大きな病院を経営している。この話がまとまれば、裕子は将来、院長夫人になるわけだ。
「小沢さんという人に反対やないのよ。けど、あんまり惜しい縁談やないの。見合だけでもしてみて。お母さんのためやと思うて」
母のたのみを裕子は拒否できなかった。
見合することにした。外科医がどんな男性なのか、好奇心もあるらしい。
「大丈夫って。私、小沢さんが好きよ。どんな人に会うても気持は変らへんわ」
真剣な面持で裕子は誓った。
小沢は信じきれなかった。結婚を約束した相手がいたのに、裕子は小沢の念力に負けたのだ。もし外科医がより強力な念力の持主だったら、裕子を奪われるかもしれない。
内心の動揺をかくして、小沢は見合の場所と時間を訊いた。午後六時、Mホテルのロビーで会う予定だという。ホテルのレストランで食事するらしい。
「わかったよ。いってこいよ。でも、おれのことをわすれるなよ。世界中でいちばんきみを愛しているのは、おれなんだからな」
うわべはさりげなくわかれた。不安で胸が焦《こ》げるようだった。
6
午後六時、小沢弘明は目立たぬようにMホテルのロビーへ入った。
外回りから直接ここへきた。アタッシェケースをさげている。
ロビーの奥の席に裕子がいた。両親につきそわれている。先方も両親がいっしょだった。仲介者らしい夫婦もいる。外科医は三十歳前後。長身でハンサムだった。一同はなごやかに談笑している。
裕子のうしろ側の席に小沢は腰をおろした。裕子には気づかれていない。念のため小沢は新聞をひらいて顔をかくした。
裕子のうしろ姿に向かって念をこらした。彼女のヒップの下へ手をいれて、敏感な箇所を愛撫しているつもりになる。もやもやと指を動かして、彼は祈った。
「きみは小沢弘明がわすれられない。医者なんか問題じゃない。きみは小沢の妻になる運命なんだ。それがきみのしあわせさ」
かたちのよい、白いヒップを小沢は思い描いていた。
合せ目の下方に指をすべりこませてかきまわしている。あたたかいぬかるみの感触がある。真珠へ指がとどくと、想像のなかの裕子の裸身が揺れはじめた。ロビーで談笑する現実の裕子のうしろ姿も、おちつかなくなっている。愛想よく話しながら、上の空でいる様子だった。念力が効いているのだ。
見合の一行は、やがて腰をあげた。エレベーターのほうへあるきだした。レストランへゆくのだ。ひらいた新聞紙の陰で、小沢は一行を観察する。
一行の姿が消えてから、小沢もエレベーターに乗った。レストランのあるフロアでおりる。一行がテーブルをかこんで腰をおろすのを確認した。
近くにベンチがある。小沢は腰をおろして新聞で顔をかくした。指をもやもや動かしながら、裕子に念力を送った。
「出ておいで裕子。きみは小沢弘明に会いたがっている。ここへくれば望みがかなうぞ」
十分ばかりひたすら念じた。気持が裕子に伝わらないはずがない。
足音がきこえた。裕子が廊下へ出てきた。トイレへゆくふりで席を立ったのだろう。
「小沢さん。どうして——」
裕子はぱっとあかるい顔になった。不安が小沢は消えてしまった。
「心配できてみたんだ。でも、もういいよ。部屋で待っている。はやく済ませて、会いにきてくれ」
「わかったわ。何号室なの」
「これから部屋をとるんだ。フロントで部屋番号をきいてくれ」
手をふって小沢は退散した。
エレベーターで一階へおりた。フロントでダブルベッドの部屋へチェックインする。部屋は七階だった。小沢は部屋へ入った。
風呂へ入ってさっぱりした。ルームサービスでステーキをとる。ビールを飲みながら食事をした。やがて裕子がここへくる。考えると、一人でとる食事も味気なくなかった。ゆっくり時間をかけて、彼はたのしんだ。
裕子はなかなかあらわれなかった。
無理もない。見合の食事なのだ。当事者だけでなく、親どうしも話がはずんでいるにきまっている。フルコースをたいらげるのに、二時間はかかるだろう。
事情はわかっているのだが、一時間もたつと小沢はいらいらしてきた。不安になった。裕子は案外見合の相手と意気投合しているのかもしれない。なんといっても向うは外科医である。病院の御曹子《おんぞうし》でもある。裕子が心を奪われてもふしぎではない。
「いや、そうはさせないぞ。裕子はおれの恋人なんだ。絶対他人にはわたさない」
小沢は、念力で裕子を部屋へ招きよせることにした。
彼女のいるレストランは、はるか遠い場所にある。ここから念力をおくっても、とどかないかもしれない。だが、全身全霊をこめて実行すれば、すこしは効果があるはずだ。
小沢はベッドにあおむけになった。食事している裕子の姿を思いうかべた。
手で裕子のふとももをスカートのうえからなでさすった。ゆっくりとくりかえした。やがて、スカートのなかへ手をいれる。指さきで女の部分をさぐる。あたたかく湿ったその部分の感触を、じっくりとたしかめる。
小沢は空想のなかで、裕子のパンストと下着をひきおろした。女の部分に、じかにさわった。指を動かしていると、そこには熱い液が湧きだしてくる。やわらかな肉が、あえぎながら指にまとわりつく。
「裕子、きみはおれと結婚するんだ。そのほうがきみは幸福になる。きみを世界中でいちばん愛しているのはおれなんだから。おれと結婚するのが、きみはベストだ」
小沢は指を動かしながら念じた。
汗ばむくらい神経を集中させる。指の動きを複雑にする。椅子にかけて食事する裕子の姿が、下半身だけ裸で目にうかんでいた。
小沢自身が昂奮してくる。自慰をしたくてたまらなくなった。だが、一人で終ってしまうのもつまらない。なんとしても裕子を呼びよせて、あの裸身を抱きしめたい。
どのくらい時間がたったかわからない。夢中で小沢は念を送りつづけた。
部屋のチャイムが鳴った。小沢はわれにかえってベッドからとびおりた。走って扉をあけにいった。裕子が入ってくる。息をはずませて、抱きついてきた。
「ああ、しんどかった。あせったわ。なかなか解放してくれへんのやから。頭が痛うなったいうて、やっと逃げだしてきた」
裕子はくちづけにきた。むさぼるように二人は舌をからませあった。
急に裕子は体をはなした。小沢の下腹部に目をやった。悲鳴のような笑い声をあげた。
「なによ、これ。大砲みたいやんか」
小沢の浴衣の合せ目から男性が顔をだしている。威勢よく上方を睨《にら》んでいた。
念を送りつづけた昂奮がまだおさまらない。じっさいの裕子の体をそばにして、いっそうそれは硬直している。
「きみのことをずっと考えていたんだ。一時間も勃起しっぱなしなんだぞ」
「そうやったの。私もお食事しながら、なんかムズムズして仕方なかったわ。小沢さんに会いとうて、たまらんかった。相手の人とろくに話もせんと逃げてきたの」
外科医はエリート意識のかたまりのような男だった。
偉そうな態度がちらちらみえた。裕子のいちばんきらいなタイプだったという。
「ムズムズしてたのか。どのへんがそうなったんだ、おっぱいか、下のほうか」
小沢は裕子の胸と、女の部分にさわった。
つりこまれたように裕子は男性を握ってくる。表情がみだれていた。
「きまってるやん、下のほうよ」
「そうか。濡れてきたのか」
「すこしね。なんでかしら。小沢さんのことが気になって、気になって」
「おれの気持がつうじたんだ。ずっときみのことを想っていたからな。ほんとうだよ」
「小沢さんに会うたらすごく濡れてきた。もうビショビショ。すごいわ」
男性を手にしたまま裕子は抱きついてくる。手を動かしはじめた。
小沢は裕子のスカートのなかへ手をいれた。パンストとショーツをひきずりおろした。ビショビショ。裕子のことばに刺戟されている。たかぶっていた。服をぬがせる時間も惜しい。女の部分へさわりにゆく。
熱い液がそこにはあふれていた。小沢はかきまわした。裕子は声をあげて腹をつきだしてくる。体をくねらせた。男性をとらえた手が動かなくなる。快楽をうけいれる側に専念する気のようだ。
「ほんとうによく濡れているな。おれのこと、やっぱり好きなんだな」
「なんでかしら。だんだん好きになっていくわ。わすれられんようになる。私もう完全に小沢さんのもの——」
裕子はあえぎはじめた。
小沢は人差指と中指で敏感な真珠をとらえ、ぐるぐる回している。裕子はぴくん、ぴくんと反応する。下半身をくねらせる。あふれでる液はますます多量になる。
小沢はベッドに裕子を腰かけさせる。となりに自分も腰をおろした。
指の動きをつづける。スカートを腰までまくりあげてやる。白い美しい脚がむきだしになった。裕子は裸足である。指さきを折り曲げて、絨毯《じゆうたん》に食いこませていた。
裕子は声をあげた。ベッドにあおむけになった。小沢は添い寝をする。右手で真珠の粒をさぐり、左手でヒップを愛撫してやる。
やがて、ヒップの合せ目の下方へ左手をすべりこませた。濡れたやわらかな肉のなかへ指をすべりこませる。ぐるぐる回した。右手は真珠の粒をさぐりつづけている。
裕子は声をあげた。そりかえる。両手で胸をかきむしった。自分で服をぬぎはじめる。下半身を小沢にあずけたまま、全裸になった。小沢も浴衣をぬぎすてる。
小沢は裕子を左向きに寝かせた。右脚で裕子の両脚のなかへ割りこんでゆく。そのまま結合した。男性がななめの角度で、裕子のなかへぐいと突き立ってゆく。
「ああ、わかってきた。感じてきた。小沢さん、私、女になってきたみたい」
裕子はあえいだ。男性をうけいれる快感がわかってきたらしい。
「裕子はもう立派な女だよ。すぐに良くなる。気の遠くなるほど良くなるからね」
小沢はささやいた。力づよく、大きく動きはじめる。
すぐにわかる。わからせてやる。ほんもののオルガスムスがいまにくるぞ。念じながら小沢は動きつづける。
裕子はやがてさけび声をあげた。
(第十一話 了)
初出誌=「週刊現代」一九八七年一月三十一日号〜九月十九日号連載。
本書は、一九八八年一月、講談社ノベルス「不倫の戦士たち」として刊行されました。