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作者: 当前章节:15358 字 更新时间:2026-6-23 00:32

「みせて。高田さんもみせて」

 高田がまえに垂らしているタオルを、直子は払いのけた。

 男性が力をみなぎらせて突っ立っている。直子の目が一瞬光った。

「ひゃあ、立派。エリートはおちんちんも立派やね。入社試験のとき、おちんちんの検査もあるのとちがうの」

 笑い声が浴室の内部にひびきわたる。

 直子はタイルのうえにおりた。酔いがさめてきた気配《けはい》である。

 4

 向かいあって二人は湯につかった。

 ひろい湯ぶねだった。ゆっくりと足をのばせるスペースがある。

「ああいい気持。久しぶりで人といっしょにお風呂へ入った。いつもは一人やねん。庭に犬がいるだけ。孤独な生活なのよ」

 直子は晴ればれした顔だった。

 顔を洗ったせいか、さっぱりした表情である。飲んだくれていたときとは別人のようだ。多少、緊張もしているらしい。

「そんなにご主人、出張が多いんですか。可愛い奥さんをのこして、もったいない」

「きょうは出張なの。けど、いつもはちがうわ。女のとこ。ようある話よ」

「そんな——。水商売の女ですか」

「むかしはね。いまはマンションに入ってるみたい。ブスやねん。どこがいいのかと思うわ。主人、趣味がわるいの」

「美人の妻をもつと、ブスの愛人がほしくなるもんやそうですよ。そうやってバランスをとるんでしょうね」

「ブスでも向うはつよいわ。子供がいるの。主人、まんまとハメられよった。まあ離婚はしとうないいうてるけど」

 たのしい話のような口調だった。目をほそくして直子はタオルをみつめる。

 高田はだまりこんだ。欲望が消えた。深刻すぎる話をきいてしまった。どう返事していいかわからない。酔いどれている人妻には、やはりそれだけの理由があるのだ。

「ごめん。仕様もない話をして。高田さんになんの関係もないことやのに」

 湯をかきわけて直子は近づいてきた。

 手をのばして、親指で高田の顔をごしごしこすった。人なつこく笑いかける。

 立って。直子は注文をつけた。うなずいて高田は立ちあがった。なんでもいい、深刻な沈黙からぬけだしてしまいたい。

「なんや。元気なくなってるやないの。若い人がこれではいけませんね」

 直子は高田の男性にさわった。それは、なかば勢いをなくしている。

 指で直子はしばらく男性をもてあそんだ。ふいに真剣な顔になった。背すじをのばして男性を口にふくんだ。眉根を寄せて頬ばる。ゆっくり頭を動かしはじめた。

 湯のなかに直子は両ひざをついている。片手で男性の根もとをささえていた。目をとじて頭を動かしている。双つの乳房が水面上で揺れていた。心もち、張りをなくした感じの乳房だった。乳首の色は濃いほうだ。美しいだけの乳房よりも、やや難点のあるほうが淫《みだ》らでいい。高田はそう思った。

 直子の頭の動きがはやくなった。小さく揺れて快感が流れこんでくる。体の奥からうねりのおしよせるのを高田は感じた。男性が固く、熱くなる。高田は歯をくいしばった。酔っているにしては、快感があざやかだ。

 急に快感の性質が複雑になった。直子が口で奉仕をつづけながら、右手で下方の袋を揉《も》んでいる。しゃぶられる快感に、揉まれる快感がかさなりあった。高田は呼吸がみだれてくる。年上の女はやはりすごい。

 高田は思わず声をあげた。おくりこまれる快感がさらに複雑になった。口と手を直子は相変らず使っている。手の動きに変化があった。小指でかるくアヌスを掻《か》いてくる。高田のはじめて経験するテクニックだった。

「終ってもいいのよ。私、飲んであげる。遠慮せんといてね」

 あおむいて直子は微笑んだ。手は動いている。

「まだがんばるよ。おれだけいったらわるいやないか。いくときはいっしょや」

 とたんに高田は呻き声をあげた。

 直子の小指がアヌスにもぐりこんできた。男性の裏側をなかから突いてくる。口と手の奉仕はつづいている。二種の快感がまじりあって熱くなった。男性が脈打った。耐えきれなくなりそうだ。

 待ってくれ。終りそうだ。体をくねらせながら、高田は呼びかけた。

 直子はかぶりをふった。男性を頬ばったままである。きまじめな表情である。なにかの魔術のように指をつかっている。ほんとうに終らせてしまう気らしい。

「待ってくれ。まだ終りたくないんや。一人で終りたくない」

 両手を直子の肩においた。男性からひきはなそうとする。一瞬、痛みを感じた。口を直子があけないので、男性が前後にひっぱられてしまったのだ。

 直子は男性をはなした。目じりのさがった笑顔で高田をみあげる。

「終ってもいいのに。私、飲んであげたかった。オンザロックスよりおいしいはずよ。高田さんの、きっとそうやわ」

 急に湯をはじいて直子は立ちあがった。

 熱い。熱いわ。彼女はタイルのうえへとびだした。湯のなかでうずくまっていたのだ。熱くて当然である。ひたいに汗が光っていた。全身の肌が赤みをおびている。大きな、仄《ほの》赤い照明のような裸身だった。

 そのまま直子は脱衣場へ出た。バスタオルで体を拭きはじめる。

 高田も湯からあがった。直子とならんでバスタオルをつかった。

 直子はバスタオルで裸身をくるんだ。高田のタオルをとって体を拭いてくれる。上体を拭いたあと、その場に両ひざをついた。下半身をていねいに拭きにかかる。

「私、弟が一人いたの。三人きょうだいのいちばん下。男はその子だけやったわ」

 問わず語りを直子ははじめた。突き立っている男性は無視していた。

 弟は一流大学の経済学部へいっていた。三陽ウイスキー株式会社に就職したがっていた。ちょうど三陽ウイスキーが、学生間で人気ナンバーワンになったころだった。

「ところが四年のとき、弟は死んでしもた。バイクの事故やったの。アホなのよ。来年は就職の審査があるいうときに、バイクで九州旅行にいって。トラックにぶつかって。ほんまにアホやわ」

 私、あの子に希望をかけてたの。うちのきょうだいのホープやったわ。

 直子はつぶやいた。弟にそうするように、高田の体を拭き終った。

 高田ははげしい感情に揺さぶられていた。直子を立たせて、抱きしめた。彼女の体からタオルをむしりとった。乳房に吸いつく。右手を直子の下腹部へのばした。草むらに覆《おお》われた、ふっくらした肉を指でひらいた。

 熱い液がそこにはあふれていた。なかに指が吸いこまれる。やわらかくて厚い肉が指にまとわりついてくる。高田はかきまわした。遮二無二《しやにむに》、快楽をおくりこんだ。彼が直子にしてやれることは、それしかなかった。

 しばらく指を動かした。直子は体をくねらせて快感に耐えていた。ベッドルームへいこう。あえぎながら彼女はいいだした。抱きあったまま二人はあるきだした。

 居間へ入った。畳をみると、高田は欲望をおさえきれなくなった。直子をおし倒した。直子は這ってヒップを突きだしてきた。ひどくあわてている。一刻もはやく、すべてをわすれたがっていた。

 直子のうしろに高田はうずくまった。丸いゆたかなヒップを両掌でかかえた。畳の感触をひざで味わいながら侵入してゆく。

 大きな声をあげて直子はのけぞった。愛情をこめて高田は動きだした。

 5

 目ざまし時計の音で高田正彦は眠りからさめた。自分がどこにいるのか、一瞬見当がつかなかった。

 贅沢なベッドルームに高田は寝ていた。セミダブルのベッドが二つならんでいる。

 部屋は暗い。淡いグリーンの厚いカーテンが、右手の窓を覆っていた。

 サイドボードがある。ウイスキーやブランデーのボトルにグラス、水差しなどがならんでいた。そばの電気スタンドの豆電球がともっている。

 やっと思いだした。人妻の小畑直子の家に泊ったのだ。夫が留守なのをさいわい、あがりこんで飲んだ。昨夜のうち二度セックスをした。疲れきって眠りこんだ。夢のような夜だった。

 時計をみた。七時四十五分だった。そういえば昨夜ベッドのうえで、アラームを何時にセットしようかと直子は訊いていた。九時には会社へ入らねばならない。ここからの所要時間を考えて、この時刻を指定したのだ。

 直子の姿はなかった。高田は起きてベッドルームを出た。廊下をゆくとキッチンだった。味噌汁の香りがする。セーターにスカート、エプロンがけで直子は流し台に向かっていた。いかにも目がさめた感じで、うしろ姿がシャンとしている。ゆうべ、だらしなく酔っていた女にはみえない。

「おはよう。よう眠れた? 寝たのが午前二時やったから、ちょっと睡眠不足やろね」

 ふりかえって直子は微笑んだ。みちたりた、さわやかな表情だった。

 洗面所とトイレの場所を直子に教わった。高田は朝の雑用をすませた。身支度してキッチンへもどる。直子はテーブルのまえで待っている。シジミの味噌汁、アジの干物《ひもの》、生卵、ほうれん草のおひたしがならんでいる。家庭の香りを高田は吸いこんだ。

「若い人はいつもパンでしょ。たまに和風のほうがいいやろと思うて」

 目をふせて直子は味噌汁をついだ。

 昨夜のことが面映《おもは》ゆいのだろう。じっさい直子は積極的だった。寝るまえに抱きあったときなど、高田の体液を飲むといってきかなかった。いつまでもフェラチオをつづけた。

「奥さん、けさはじつに若々しくみえますよ。新鮮です。新婚の人妻みたいに」

 箸《はし》をつかいながら、高田正彦は遠慮なく直子をみつめた。

 お世辞ではなかった。直子はうす化粧である。白のVネックのセーターの襟もとから肌がのぞいていた。白と桜色の溶けあったような肌だった。情熱の残り香が、そこから立ちのぼってくるようだ。

「恥ずかしいわ。ゆうべはすっかり酔うてしもて。あきれたでしょ。オンザロックスが効《き》きすぎたわ。こんどは気をつけよう」

「いや、ぼくはうれしかったです。夜は大胆になってくれるほうがいい。朝、こうしてシャンとしている奥さんをみると、またうれしくなる。両方ともぼくは好きです」

「洋酒メーカーの社員はお酒に寛大なのね。私、安心した。高田さんとお会いするときは、安心してロックスが飲めるわ。滅茶滅茶にリラックスできて、うれしい」

 一夜の情事で終らせる気は、直子にはないらしかった。

 高田も望むところだった。不倫におぼれてしまわぬ程度に、適当に間隔をあけて会うことにした。ここでまた会うのは危険である。ゆうべのスナックバーも、直子の友達が働いているのでまずい。デートの日時と場所はそのつど電話で打合せする約束になった。

 食事が終った。八時十分だった。高田が腰をあげると、直子も立った。二人はその場で抱きあってくちづけをかわした。

 直子のヒップとふとももに高田はさわった。はずんで重い肉の感触に欲望をかき立てられる。遅刻してもいい。この場へ直子をおし倒したくなった。

 高田は右手を直子の下腹部へまわした。スカートごしに、彼女の敏感な部分にふれた。掌がぴたりとそこへ吸いついた。直子はため息をついて腰をくねらせる。

「ほしくなったよ、いま。いいだろう」

 高田はささやいた。スカートのなかへ手をいれようとする。

 あかるいキッチンでのセックス。考えただけで、昂奮で息がつまりそうになる。

「私もほしいわ。けど、我慢して。もうじきお客が来るの。午後からパーティに出るのでいろいろいそがしいのよ」

 午後一時から、ある都市ホテルの落成慰労パーティがある。

 そのホテルはまだ建物が完成したところだった。パーティもホテル側と建築関係者だけの内輪の催《もよお》しだという。直子の夫の小畑はホテルの建設に参加した。パーティに招待されている。だが、出張中なので、代って直子が出席することになっている。

 小畑の会社からは、専務夫妻もいっしょに出席する予定だった。準備のため直子は夫人とともに美容院へゆく約束をしている。九時に専務夫人が迎えにくるのだ。

「Qホテルのパーティか。それなら内輪でも出席者は多いんだろう」

 直子の体をはなして高田は訊いた。営業マン魂が入道雲のように盛りあがってくる。

「五百人ぐらいやて。あれだけのホテルになると、内輪のパーティでも盛大らしいわ」

「そうか。いいことを教えてくれた。きょうはこれでかえるよ。また会おう。ひょっとしたら、またすぐ会えるかもしれない」

 高田はおちつきをなくした。あらためて直子にキスしてから居間へ入った。

 電話でタクシーを呼んだ。つづいて会社へ電話をいれた。

 早出の女の子が応答した。

「Qホテルの事務所へ寄ってから出勤する。シャンペン十ケースとビール三十ケース、ウイスキー二十ケースを手配してくれ。午後からパーティなんや。くわしいことはあとで」

 話が終った。ものの三分とたたないうちにタクシーがきた。

 近所の目を気にして、顔をかくして高田はタクシーに乗った。大阪駅のそばのQホテルの建築現場目がけて走りだした。

 6

 午後一時にパーティははじまった。

 Qホテルは一階、二階だけがほぼ体裁《ていさい》をととのえたところだった。三階から上の客室はまだ内装もできていない。営業開始まであと一ヵ月。突貫工事がおこなわれるという。

 パーティ会場は二階の大ホールだった。工事の完成したそこには、五百名近くの人々があつまった。建築関係者のほかテナント、銀行、旅行代理店の関係者をあつめて慰労と激励をやろうということらしい。会場はなごやかだった。ボーイやホステスが三陽ウイスキーの水割りをくばってまわっている。

 Qホテルチェーンのオーナーがまずステージで挨拶した。つぎにQホテル社長がスピーチした。つづいて元請けの建築会社の社長や銀行の代表らがステージに立った。

 高田正彦はホールの横の出入口のそばで会の模様をながめていた。十数名のボーイが廊下で待機している。高田は時間に注意しながら、目の端で会場の左すみをみていた。

 小畑直子がそこにいた。クリーム色の地に牡丹《ぼたん》の花を配した着物をきている。専務夫人らしい女といっしょに立って、スピーチに耳をかたむけていた。ゲストのスピーチに真剣にききいる人はすくない。ほとんどの客はタンブラーを手に小声で談笑したり、挨拶をかわしたりしていた。

 直子もときおり近くの人と口をきいた。タンブラーは手にしていない。女の客がすくないせいもあって、際立《きわだ》って直子は美しくみえた。男の客の地味なスーツの群れを背景に、着物姿があざやかに彫りだされている。

 あれはおれの女なのだ。みていて高田はひそかに得意だった。けさ彼女を抱く時間のなかったことが残念だった。埋めあわせをしたい。着物姿の直子を抱きたい。盛装して、おおやけの場にいる彼女をみると、いっそう欲望をそそられた。

 ゲストのスピーチが終りに近づいた。支配人に高田は合図をおくった。

 ボーイたちがいっせいに調理場へ消えた。すぐにシャンペンのボトルを手にもどってきた。ホステスたちと手分けして彼らは会場の要所要所へ散った。一時二十五分。高田の計算とぴったりのタイミングだった。

 スピーチが終った。司会者がステージに出て、乾盃の音頭とりの指名をする。

「なお、本日ここでみなさまにお飲みいただきますお酒は、すべて、三陽ウイスキー株式会社の寄贈によるものであります」

 司会者がさけんだ。この一言をいってもらうのが、寄贈の条件だった。

 小畑直子の家をでて、高田はQホテルの事務所へ向かった。パーティの責任者に会って酒類の寄贈を申しいれた。

 責任者ははんぶんめいわくそうな表情だった。寄贈はもちろんありがたい。だが、あとが恐い。Qホテルで今後利用する酒類は、三陽製品を優先してほしいなどと、条件をつけられかねないのだ。

「そんな野暮《やぼ》は申しません。きょうは純粋にお祝いの意味でおもちします。もちろん今後ご贔屓《ひいき》にねがいたいのは山々ですが——」

 三陽ウイスキーの社風は積極果敢である。

 失敗をおそれず、まず実行してみろである。その精神が徹底している。一介の営業マンにすぎない高田でも、商談を前提にこの程度の啖呵《たんか》を切ることはゆるされている。

 先方はよろこんで話に乗った。高田はいそいで準備をすませ、待機していたのだ。

 シャンペンをぬく音が、ホールの各所できこえた。乾盃になった。五百のグラスがかかげられ、大量のシャンペンが人々の胃に落下してゆく。拍手が湧いた。

 高田はまた支配人に合図をおくった。ボーイたちが調理場へ消えた。こんどはビールをはこんでもどってきた。この時刻にあわせて冷やしておいたビールである。ぬるくなく、冷たすぎず、適温に保たれた黄金色の液体がほうぼうでビヤグラスに注がれてゆく。

「ええ具合に冷えとるなあ。さすが三陽さんはやることが憎い」

「気くばり満点やな。たいしたもんや。うちも見習わなあかんなあ」

 料理を突っつきながら人々が話している。会心の笑みを高田はうかべた。

 会場のすみへ高田はいった。用意してあるウイスキーと氷でオンザロックスを二つつくった。両手にもって小畑直子のそばへいった。数人の人々と直子は談笑している。背中を突いて、人垣の外へつれだした。

「酒豪のマダムにはこれでないと物足りないでしょう。乾盃しましょう」

 グラスを一つ直子に手わたした。

 二人は乾盃した。直子は上気して、かるくしなをつくった。甘い香りがする。着物を透《す》かして白い裸像がうかびあがるようだった。

「十五分後に正面玄関へでてきてください。けさのつづきをしましょう」

 高田はささやいた。冷たい酒を飲みほしてから、直子をはなれた。

 新入社員の課員が三人、手つだいにきている。あとのことを高田は彼らにたのんだ。会場を出て近くのRホテルへ電話をいれる。ダブルベッドの部屋をとった。

 正面玄関へ直子がでてきた。高田をみるとぱっと赧《あか》くなって笑いかける。

 だまって高田は直子の手をとった。Rホテルのほうへあるきだした。徒歩五分もかからない。キタには高層ホテルが乱立している。

 Rホテルへ入った。二十三階の部屋のキーをもらった。二人は一言もいわずに身を寄せあってエレベーターに乗りこんだ。

 部屋に着いた。二人きりになると、静寂が全身にしみこんでくるようだった。直子の体が急に大きく感じられる。着物につつまれた裸身から雌《めす》の気配が匂い立った。抱きよせると、直子はみだれた表情になった。

「ありがとう。おかげで一仕事できた。Qホテルはこれでうちのものだ」

「高田さん、さすがやり手やわ。ちゃんと仕事をして、その上私をこんなとこへつれてきて。わるい人ですね。可愛いワル」

 二人はくちびるをあわせた。両手に力をこめて高田は直子の体の起伏をたしかめる。

 甘美な感覚が高田の下半身へ流れこんできた。直子の手がズボンのまえへのびてきていた。指を動かしている。高田はベルトをゆるめた。ズボンが靴のうえに落ちる。勢いこんで直子の手は高田のトランクスをひきおろした。男性に指をからませてくる。

「若いわ。ほんまに若いわ。ゆうべのきょうやのにもうこんなになって」

「奥さんが美しいからです。奥さんはどうなの。反応がおこっている?」

「当然よ。さっきのオンザロックスのせいやわ。お昼のお酒ってほんまによう効く」

「昼のウイスキーはたしかに効きます。それから昼のセックスも」

 直子の着物のすそに高田は手をかけた。

 ふともものあたりを左右にわけてゆく。一枚、二枚、三枚——。思ったより着ているものの数が多い。やっとふとももにたどりついた。すべすべして、厚い。内へゆくほど熱くなっている。

 直子は甘い声をもらした。男性をとらえた手の動きがあわただしくなった。

 右手で高田は直子の内ももをさかのぼった。奥へたどりついた。胸のうちで歓声をあげた。ショーツを直子はつけていない。高田の指は直接草むらとやわらかな肉にさわった。

「すごい。なにもはいてないのか」

「こうなりそうな予感がしたの。このほうが刺戟されるでしょ、高田さんも」

 やわらかな肉を高田は指でひらいた。

 あたたかいぬかるみがあらわれた。指でさぐりにゆく。人差指と中指が、深みへなめらかに吸いこまれた。声をあげて直子はかるくひざを折るようにする。草むらに覆われたやわらかな部分や内ももの一部が、高田の右掌へおしつけられる。

 吸いこまれた指を、高田は上向きに折り曲げた。そのまま動かしてみる。直子の草むらを裏側から刺戟する要領である。

 直子は大きな声をあげた。のけぞった。高田の男性をとらえた指に力がこもる。すぐに手をはなした。かじりついてくる。

「ああ、はじめてよ。こんなんはじめて。きついわ。きつい。ああ、なんで——」

 その部分に直子は強力な性感帯をもっていた。いままで知らなかったらしい。

 勢いづいて高田は指を動かした。しだいに荒っぽくなった。そうなるほど直子のよろこびは大きくなるようだ。声が大きくなる。両手で高田の首にかじりついて体をくねらせた。やがて揺すりはじめる。高田の指は熱くなった。呻いて直子は体をふるわせる。高田に抱きついたまま床へくずれ落ちた。

 両手を直子の脇にいれて抱きおこした。ベッドへつれてゆく。うつぶせにおし倒した。直子はベッドと直角の向きに這った。床に立ったまま高田は直子の着物のすそをまくりあげる。思いきって下肢をむきだしにする。

 白いヒップが突きだされた。光沢をおびた双つの丘が着物をおしのけて出現した。双つの丘はいっぱいに盛りあがり、たがいに圧しあっている。下から秘密の花がのぞいていた。濡れてふるえている。

 両掌で高田はヒップをかかえた。位置をきめて侵入した。ぐいぐいと突いた。呻き声をあげて直子はベッドに顔を埋める。両手で毛布にしがみついた。しだいに丸くなった。

 すぐに直子は頂上にたっした。休まずに高田は動きつづけた。できるだけ持続しなければならない。このあとのセールスのスケジュールを彼は頭で立てはじめた。

(第二話 了)

第三話 旅のチョコレート

 1

 夕刻六時まえ、田上夏夫は社のビルへもどった。正面玄関のシャッターは、まだおりていなかった。

 綜合商社丸藤商事のビルの一階ホールはひろびろとしている。天井は吹きぬけである。家路につく男女社員の足音が、コンクリートの巨大な壁や、高い天井に反響もせず吸いこまれてゆく。

 ここへ入ると、いかにも自分たちの城へかえりついた実感があった。苦しい仕事をしたあとは、なおさらだった。社員七千五百名、売上高十五兆円の巨大企業の一員であるよろこび、誇り、それに安心感がわいてくる。田上はまだ三十二歳だが、毎月何十億円もの取引をまかされている。おなじ綜合商社でも、これだけ大きな商権を若手社員にあずけているところはないはずだった。

 田上は正面の受付へいった。もうクローズになっている。裏の控え室をのぞいてみた。人影はなかった。北野陽子はもうかえってしまったらしい。どこか喫茶店あたりで田上を待っているのだろう。

 田上はエレベーターに乗った。機械事業部のある七階でおりる。二十人ばかりの男女がエレベーター待ちをしていた。丸藤商事はいまが事実上の退社時刻である。五時きっかりにオフィスをでる社員など、ほとんどいない。一時間の残業なんか、恥ずかしくて申告できない。田上もきょうは、七時すぎまで残業になるはずである。

 田上は機械第二営業部のオフィスへもどった。そこの一課に彼の席がある。八人の男子課員のうち、五人が机に向かっていた。課長は席にいない。きっと部課長会ではっぱをかけられているのだろう。

「やあ、おかえり。さっき受付の美女がきてラブレターおいていきよったぞ。今晩、ホテル北の虹でお待ちしますいうて」

 右どなりの席の平井が声をかけてきた。田上の机のうえの茶色の封筒を指さした。

 田上はギクリとした。「北の虹」は十三《じゆうそう》大橋のそばの有名なラブホテルだ。北野陽子と何度か利用したことがある。

「またまた。そんないい話は夢の夢ですよ。つぶれかけた問屋の尻ぬぐいに半日走りまわってきたのに」

 田上夏夫は茶色の封筒を手にとった。

 宛名は書いていない。裏にはきいたこともない会社の名前が印刷してあった。取引先の人がきて受付に手紙をあずけていった——そんな口実で、陽子は田上の机にそれをとどけにきたらしかった。

 冷やかしたものの、平井はそれがラブレターだとは思っていない。受話器をとって、どこかと商談をはじめた。彼も多忙である。

 田上は手紙の封を切った。社用箋に、丸っこい字がならんでいる。

「きょうもおいそがしいようですね。七時半にビビアンへいっています。なるべくはやくきてください」

「ビビアン」は北新地にあるスナックバーだ。二人のいきつけの店である。

 きょうは金曜日だ。週一度のデートの日である。五時になっても田上から連絡がないので、しびれを切らして陽子は置手紙をしたのだ。仲間と食事したあと「ビビアン」へゆく気なのだろう。

 いいカンをしている。あと一時間もあれば仕事が終るはずだ。七時半というのは、ぴったりのタイミングである。

 田上は気をよくして手紙をやぶった。すぐに家へ電話をいれた。残業と接待で帰宅がおそくなる。そう妻の和江に告げた。めずらしくもないことである。すぐに話がついた。

「さっきのラブレターの子、えらいべっぴんやったなあ。田上さんのお席はどちらですかって鈴の鳴るような声で訊《き》きよった。ゾクッとしたなあ。あんな子が相手やったら、敢然とオフィスラブにふみこめるんやが——」

 電話を終えて平井が話しかけてきた。

 彼は田上より三年先輩。課長補佐だ。丸藤商事では、入社十二年たつと課長補佐になる資格が得られる。ご多分にもれずこの課も高齢化している。課長をのぞく八名の男子のうち四人が課長代理か補佐である。

「さあ、どの子がきたのかな、受付の子はみんな美人やけど、名前は知らないから」

 田上はとぼけた。まちがってもスキャンダルになってはならない。

「ほら、目のぱっちりしたキョンキョンみたいな子がおるやないか。ああいう子にゾクッとくるようでは、わしもトシかいな」

「そんなに気にいったんなら、決然とアプローチしたらどうです。あの子らは別会社の所属やからオフィスラブにはなりませんよ」

 丸藤商事大阪本社の一階や、十階の役員室、秘書室などの受付には約十名の受付ガールがいる。みんな美人で応対が親切である。来客の評判が非常によかった。

 彼女らは丸藤商事の社員ではない。コンパニオン会社から派遣された人材である。受付、展示会、パーティなどの要員用に専門教育をうけている。ミスなんとかの肩書をもつ者が多い。北野陽子も一昨年のミスQ市だ。

「アプローチしたいけど、顔と金に自信ないからなあ。なによりも、じっくり口説《くど》く時間の余裕がない。なんぼ今日びの若い子でも口説いてすぐやらせてはくれんやろし」

 じっさい時間の余裕がない。平井のむだ口をきき流して田上は仕事にとりかかった。

 陽子に会えると思うと能率があがる。すぐに田上は仕事に没頭した。

 田上くん、K商事のほうかたづいたか。呼ばれて田上は顔をあげた。課長が席について、こちらをみている。きびしい表情である。会議が終ったらしい。午後七時だった。

「九分どおり終りました。あとはP造船の六百万円だけです」

 こたえて田上は席を立った。課長のそばできょうのいきさつを説明した。

 船舶機器の専門商社K商事が経営危機に直面している。今月末に不渡りをだしそうだ。そんな情報が昼まえに審査部からもたらされた。K商事はここ三年ばかり不定期に取引のあった相手である。田上が担当者だった。

 最近の取引でK商事から二千万円ちょっとの手形をうけとっている。あれが不渡りになれば、保証金をさしひいても、丸藤商事は約一千五百万円の不良債権をかかえこまねばならない。えらいことである。課の月次利益が吹っとんでしまう。いそいで田上はK商事へ駈けつけた。売りわたした小型船舶用エンジン七基のうち、さいわい五基はまだK商事の倉庫に保管されていた。

 社長へ談じこんで、田上は五基についての売買契約を破棄してもらった。経営危機のニュースを内密にすることが条件だった。手つづきをすませ、ぶじに五基を回収した。一基の価格は三百万円。焦《こ》げつきをだす危険は、とりあえず回避できたのである。

 エンジンのあとの二基はK商事をつうじて和歌山のP造船へわたっていた。代金の決済はまだ済んでいない。田上はK商事の社長の了解を得てP造船へ電話をいれた。K商事とP造船の売買契約を肩替りしたいと申しいれる。手形の期日を一ヵ月ひきのばす条件である。P造船側には異存がなかった。

 あす田上は和歌山へゆき、P造船と売買契約をする。P造船は小企業だが、内容はわるくない。直接取引をしても、危険な相手ではなかった。

 焦げつきを回避できたことは、すでに出先から課長へ報告してある。さらに詳細を課長は知りたがっていたわけだ。

「あす和歌山へ発《た》つとなると、P造船へ着くのは十一時ごろやな。あかんぞ田上くん、今夜発て。朝いちばんにP造船へ入るんや」

 きびしい顔で課長は命じた。

 丸藤商事はことし一月、これまで役員会できめていた課の新設や統廃合を、各部長の判断にまかせる決定をした。円高不況で不要な課がでてきている。現場の長である部長が、よぶんな課を好きなように処理できる仕組みに変えたわけだ。これまでは各事業部が一つの企業のように活動していたが、以後は部が一つの企業のかたちをとる。

 部長の権限と責任はものすごく大きくなった。課長の場合もそれに準じてくる。業績があがらないと、いつ課が消滅するかわかったものではない。課長も必死である。

 事情はわかるが、田上は内心大いにめいわくだった。北野陽子とのデートがある。今夜発つとすれば、その時間がない。

「でも、そんなにいそぐ必要はないと思いますが。K商事はうちに五百万の担保をいれています。P造船の二基ぶんを肩替りできなくとも、実害はたかだか百万——」

「いまの情勢ではその百万が大きいんや。K商事かておんなじやろ。あすの朝、K商事がいちばんにP造船へ乗りこんで六百万回収しよってみい。みすみす百万の損やぞ。きみの出張旅費がそれに加算される」

 あすは土曜日である。百万の損を埋めあわせるだけの商談がどこからか降ってくる可能性はない。百万の仕事に一日をついやすのも、非能率的だとはいえなかった。

 がっかりして田上夏夫は席へもどった。すぐに和歌山のホテルを予約する。家にも電話して、急な出張のことを告げた。

 2

 午後七時半になった。オフィスはしずかだった。人影もいまはすくない。

 だが、課長も平井も残業している。プライベートな電話はつつぬけになるだろう。田上夏夫は席を立って、ビル一階の公衆電話をかけにいった。

 陽子は「ビビアン」にきていた。急な出張だときいて、駄々っ子の口調になった。

「いやあ、そんなん。私死にたいわ。せっかく阪急でチョコレート買うてきたのに」

 あすはバレンタインデーだ。阪急デパートでチョコレートを買って持参したらしい。

「おれもがっくりなんだ。わかってくれよ。機構改革のせいで課長がやたらと神経質になっている。ノミのキンタマさ。赤字をだすと課がつぶされるもんだから」

「そんなノミキン課長、やめさしたらいいのよ。商社マンに私生活は必要ない思うてるんやわ。古いねえ。シナントロプスですよ」

 早口に陽子は文句をいった。愛らしい顔立ちに似ず、激烈な言葉をつかう。

 田上はひたすら低姿勢で陽子をなだめた。陽子はすばらしい娘だ。受付ガールのなかでもいちばん目立つ。頭の回転もはやい。セックスにも熱心である。ヒラ社員の不倫の相手にはもったいない女だ。大事にしている。

 陽子はしばらく駄々をこねた。一人で酒場へ入って、あとどうすればよいのかとのいいぶんである。もっともだった。懸命に田上はなだめた。ノミキン課長が恨めしくなる。

「いいわ、仕様ない。お仕事やもんね。今夜はあきらめて、かえってさびしく寝る」

 ようやく陽子は軟化した。が、意外なことをいいだした。田上が一息つくひまもない。

「私、いまから会社へいく。チョコレートだけでもわたしたいから。七階のエレベーターのそばで待ってて。すぐにいくわ」

 気性のはげしい女の子だった。どうしてもただあきらめる気にならないようだ。

 了承して田上は電話を切った。陽子に会えるのはうれしい。じっくりキスを交換して、余韻《よいん》にひたって和歌山へ発つのだ。

 田上は七階のオフィスへもどった。ではいまからでかけます。課長に挨拶して外へでた。

 七階のエレベーターホールのすみに非常階段がある。そのまえで田上は待った。オフィスからでてくる人の足音がきこえると、非常階段の鉄扉の向うへかくれた。課長や平井に会うと、恰好がつかない。

 北新地から会社まで、この時刻ならタクシーで十分ぐらいである。それにしては待たされた。ビルの暖房はもう切ってある。あかりもうす暗い。さむさが身にしみた。コンクリートの巨大で堅牢な企業の城は、いまは巨大な刑務所のようだった。

 エレベーターの扉があいた。赤いコートをきた陽子がでてきた。田上をみて、ぱっと笑って小走りに近づいてくる。

「すみませーん。クルマが混んで混んで」

 あかるい声が周囲にひびきわたった。

 丸藤商事の社員でないせいだろうか。人目を気にする様子がなかった。

 田上は鉄扉をあけた。陽子の腕をとって非常階段のうえへつれだした。周囲はさらに暗い。小さな灯がぽつんと踊り場にあった。

「よくきたね。会社の近くで一杯やろう。九時ごろまで飲めるはずだ」

 田上は陽子の肩をひきよせた。

 赤いコートが夜気で冷たい。陽子の頬はあたたかかった。すこし酔っている。

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