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作者: 当前章节:15419 字 更新时间:2026-6-23 00:32

 くちづけをかわした。ゆっくり、執拗に吸った。甘い唾液を交換しあった。キスをやめて抱きよせる。陽子は息を切らせていた。田上の腕のなかでみるみるやわらかになる。

 陽子はやがて田上をおしのけた。チョコレートの小箱をさしだした。

「心がこもってるのよ。大事におたべ」

 いうなり背のびしてまたくちづけにくる。

 田上は小箱をポケットにしまった。両手で陽子を抱きしめた。二人のコートを透して、陽子の体の重みとかたちを抱きしめる。とてもあたたかい。冷たく固いコンクリートのそばで、陽子の体は活気にあふれている。

 二人の脚がぶつかりあった。くすぐったく甘い衝撃があった。田上は下腹にあたたかい力がこみあげるのを感じた。陽子の肌にふれたくてたまらなくなる。ここが会社のなかだと思うと、いっそう衝動がつよくなった。

 陽子のコートの釦《ボタン》を田上ははずした。自分のもはずした。抱きあった。衣服を透して、陽子の体温と重みがなまなましかった。

「はなれすぎてるよ、おれたちは。この服は厚さが一メートルもあるぞ」

 陽子のブルーのワンピースが、暗いので黒にみえた。

 背中のファスナーを田上はおろした。肩と背中の肌にふれた。すべすべしている。肩甲骨《けんこうこつ》の脆《もろ》そうな感触に田上はふるえた。

 服をぬがせにかかる。うまくいかない。陽子は田上の手をおさえた。

「無茶よ。ここでぬがせるなんて。風邪ひくわ。だれがくるかわからへんし」

 だまって田上は陽子を抱きしめた。

 右手を陽子の下腹へのばした。二つのふとももが一つに合わさる箇所へ手をおしあてる。逆三角形の部分へ掌がぴたりと貼りついた。吸いよせられるみたいだった。

 田上は手を上下に動かした。ふっくらした逆三角形の肉の手ざわりが、スカートごしに伝わってくる。窪《くぼ》みの感触もある。ため息をついて陽子は腹をつきだしてきた。しばらくすると、腰をくねらせた。快感から逃れるべきかどうか迷っている。

 田上は陽子のスカートのなかへ手をいれた。内ももをさかのぼった。陽子は一度腰をひいたが、動かなくなった。突きあたりの箇所をかるく愛撫したあと、田上はもういっぽうの手もスカートのなかへいれる。パンストとショーツをひざまでひきおろした。なつかしいふとももの感触に酔いしれる。

 陽子は右足に力をいれた。ついで左足に力をいれる。待ちこがれている。内もものいちばん上部に田上の手がたっした。草むらとやわらかな肉とあたたかいぬかるみに出会う。

「やっと会えたな陽子。やっと会えた」

「そうよ。やっと会えたわ。きてよかった。欲しかったんよ。すごく欲しかったわ」

 あたたかいぬかるみを、田上は指でかきまわした。やさしくくりかえした。

 ついで指を下から上へ往復させた。わきでる液を敏感な真珠へ塗りつける。何度もくみだして、塗りつけた。陽子の体が揺れはじめる。かるくひざを折ったりのばしたりする。ときおり田上は二本の指で、真珠の粒をまるく刺戟してやる。陽子のいちばん好む指づかいだ。あっ、あっと小さく声をあげて陽子はしがみついてくる。

「いっちまえ陽子。いそいで——」

 陽子はこたえなかった。

 体をくねらせる。息をはずませた。大いそぎで快楽の坂を駈けのぼろうとしている。

 エレベーターの扉の開閉する音が遠くきこえた。課長がかえったのだろうか。

 いくう。陽子は口のなかで告げた。

 3

 やがて陽子は、田上へしがみついてきた。Sの字形に体をくねらせた。

 ひざの力がぬけたらしい。田上に抱きついたままその場へくずれ落ちた。荒い息を吐いて、田上の足もとへうずくまる。

 田上の手が陽子の体からはなれてしまった。手のぬくもりが急速に去ってゆく。代ってさむさと静寂とコンクリートの壁の圧迫感がよみがえった。巨大な綜合商社のビル七階の非常階段のうえに二人はいる。大いそぎで田上は陽子の体にさわったところだった。

 陽子のため息が足もとできこえた。田上の両脚を抱いて陽子は余韻にひたっている。やがて田上は下腹に快感をおぼえた。ズボンのうえから陽子が固いものにさわっている。

「してあげようか、私も」

 陽子が訊いた。しのび笑っている。

「してもらいたいのは山々だけどね、ここではどうもおちつかない。がまんするよ」

 田上は陽子の手をとってひっぱりあげる。未練そうに陽子は立ちあがった。

 ひざまでさげたパンストとショーツを陽子はもとにもどした。腕を組みにくる。二人は鉄扉をあけてエレベーターホールへでた。そこはまだ夕刻のあかるさである。人の気配とかすかな温気が廊下から流れてくる。

 二人はエレベーターに乗った。下降しながら田上は陽子の肩を抱いた。

「きみはセックスの天才だな。いそぐときはさっさといってしまう。それも指だけでね。そうでないときはじっくりたのしむ。緩急自在というやつだ」

「ちがうよオ。ゆっくりたのしみたかったんよ。時間がないから、がんばって早ういっただけやないの。天才やないよ」

「がんばって早くいけるところが天才なんだよ。すばらしい女だ、きみは」

 一階へ着いた。がらんとしたホールに靴音がひびく。横の通用口から二人は外へでた。

 ビルの裏手にあるスナックバーへ入った。カウンター席のすみに二人はならんで腰をおろした。客は八分の入りである。大部分が丸藤商事の社員だった。綜合商社の黄金時代、丸藤商事の社員たちはキタやミナミの盛り場で派手に交際費をつかったものだというが、そんなのはむかし話である。現在はこうして会社のそばで飲む者が多い。

 ウイスキーの水割りで乾盃した。八時二十分だった。大阪、和歌山間は電車で一時間たらずである。九時にここを出れば、十一時までにはホテルへ入れるだろう。あわただしいが、陽子に会わずに発つよりはよかった。

「よくきてくれたね。まっすぐ発ったら、今晩きみの夢をみていたところだ」

「私は夢どころやないわ。口惜しゅうて眠れんかったと思う。すごくたのしみにしてたんよ。いまから出張ときいて、死にたかった」

「死ぬ思いをさせてやりたかったのにな、ベッドの上で。未練たらたらだよ」

 カウンターにかくして、田上は陽子のひざを握りしめた。

 固くてすこしとがったひざだった。さっき指でさぐった陽子の秘密の部分の感触がなまなましく思いだされる。陽子は体を寄せてきた。上気して、目がうるんでいる。田上の手に、陽子の手がかさなりあった。

「口惜しくて眠れない場合はどうするんだ。一杯やってオナニーするのか」

 声をひそめて田上は訊いてみた。

 体にさわったあとである。性的な話題にたやすく入ることができた。

「そうやね。たぶんそうなるやろね」

「考えるだけで刺戟されるなあ。毎晩するのか。おれに会わない夜は」

「まさかあ。田上さんに会いたくて仕様がない晩だけよ。週一度ぐらい」

「なんだ。たった週に一度しか会いたくならないのか。案外冷たいんだなあ」

「またそんな。バレンタインデーの前夜やから負けときましょか。週二度にするわ」

 第三者がきいたらあきれるような話題に、陽子は平気で乗ってくる。

 受付ガールのうちでもいちばん美しい顔で、ニコニコして応じてくる。性について、とてもすなおで率直だった。ベッドの上でもそうだった。笑顔でそんな話をする陽子をみると、田上はつくづく自分の幸運を神に感謝したくなる。こんなすばらしいギャルに心を魅《ひ》かれたとしても、妻の和江以外は、だれもが当然だと思うだろう。

 北野陽子と知りあって約五ヵ月になる。通勤している阪急宝塚線の車内で田上は陽子をみそめた。毎朝、田上が乗る駅より二つ梅田寄りの駅で彼女は電車に乗ってくる。陽子が乗ると、満員の車内がぱっとあかるくなる心地がした。なんて美しい女の子だろう。どこの会社につとめているのか。ため息をついて田上は陽子に見惚《みほ》れたものだった。

 昨年十月のはじめ、田上は自分の社の正面玄関の受付に陽子を発見した。彼女はそれまで北区の電機メーカーの受付をしていた。十月から丸藤商事へ配置替えされたのだ。陽子の所属するコンパニオン会社では、半年ごとに女の子の勤務先を替える方針だった。

 陽子に近づくことを考えただけで、田上は全身が熱くなる思いだった。結婚五年。まだ不倫の経験はなかった。いそがしくて、スナックバーの女の子を口説く余裕もなかった。

 自信があるわけでもなかった。相手が美しすぎるような気もした。さんざんためらったすえ、ある朝、勇気をふるって声をかけた。阪急梅田駅から乗り換えの地下鉄駅へ向かう通路でチャンスをつかんだのだ。

 だめでもともとのつもりだった。ところが反応はわるくなかった。会社のそばまでいっしょに地下鉄に揺られた。以後は毎朝のように通勤をともにした。やがて食事にさそい、酒を飲みにいった。しばらくして、ホテルの部屋へたどりついた。

 陽子は兵庫県Q市の出身だった。西宮の女子短大に在学中、ミスQ市にえらばれた。卒業まえ、コンパニオン会社にスカウトされた。一般のOLよりも三割かたいい給料をとっている。アパートで一人暮しをしていた。

 冒険心でいっぱいの年ごろだった。だが、美しすぎたためか、卒業して一年半をすぎても男性が近づいてこなかった。ひそかに苛立《いらだ》っていたころ、田上夏夫があらわれたのだ。自分でもみとめているとおり、田上は幸運だった。陽子に恋人ができるまで、いいつなぎ役をつとめるつもりである。

「しかし、陽子がひとりであそぶ姿を一度みたいもんだなあ。どんなふうにするの。指は一本、二本?」

 田上はさっきの話題にこだわった。二人だけの秘密の話がいちばんたのしい。

「そうね。二本——。いやあ。なんでそんなこといわせるの。私、変な気持になる」

「さっきのでは不充分だものな。和歌山から電話するよ。テレホンセックスをやろう」

「そうしようか。けど、ちゃんとできるかな。途中で笑ってしまいそう。やっぱりおなじベッドであそびたいわ」

 陽子は水割りをお代りした。

 ふっとだまって考えこんだ。田上はこんどは陽子のふとももにさわった。

「私、いっしょにいく。和歌山へ」

 やがて陽子はさけんだ。勢いよく水割りを飲んで田上をみた。

 あすは土曜である。陽子は休みだ。小旅行をするのになんの不都合もない。一晩中ホテルの部屋で愛しあうことができるのだ。あす田上の仕事の終るのを陽子はホテルで待つ。いっしょに大阪へかえってくる。

「そうか。うっかりしてたよ。われわれは自由だったんだ。不自由に馴れすぎて、足もとをみるのをわすれていた」

 そうときまれば、ここで飲むのは時間のむだである。

 二人はスツールから腰をあげた。出張を命じた課長に感謝したくなってくる。

 4

 和歌山へ着いたのは、午後十時半だった。駅から徒歩十分のところにホテルはある。小旅行の気分を味わうため、二人は腕を組んで夜の街をあるいた。

 大きなビルがすくない。街灯に照らされた並木の緑が美しかった。人通りはほとんどない。屋台の赤い灯がのどかだった。地方都市の空気を二人は思いきり吸いこんだ。

 ホテルへ入った。予約したシングルの部屋をダブルベッドの部屋に替えてもらった。

 二人きりになった。ならんでベッドに腰かけると、田上はすぐ陽子を抱きよせた。くちづけをかわした。陽子は息をはずませて舌をからみあわせてくる。ベッドへ倒れこんで、田上は陽子の服をぬがせていった。笑いながら、陽子はされるがままになっている。

 電車のなかでさんざん性的な会話をたのしんできた。人目を盗んで、体にさわりあったりした。下地ができている。いまは体で話をするときだった。

 陽子は全裸になった。むだな脂肪や肉がまったくない白い体が、あかりのもとにさらけだされた。かたちのいい乳房。機敏そうにひきしまったヒップ。思わず歯を立ててみたくなる、淫らな肉づきのふともも。中肉中背なのに、下肢がながいので、陽子は背が高くみえた。ベッドのうえで陽子は裸身をくねらせた。上目づかいに田上をみまもる。

「やれやれ。きょうは遠まわりだったな。やっとごちそうにありつける」

 田上は陽子の乳房にくちづけしにゆく。両手で突っぱって陽子は抵抗した。

「私だけが裸なの。どういうことオ」

「このほうが刺戟的だよ。ちょっと残酷な感じがある。陽子を犯してるようで」

 かまわずに田上は陽子の乳房を吸った。

 乳首が固い。小粒の硝子《ガラス》玉のようだ。ころがすように舌で愛撫する。白い裸身がしなやかに反《そ》った。陽子の手がのびて田上の男性をさぐった。そこがじゅうぶんに固いので、陽子は満足そうに鼻を鳴らした。

 乳房を吸いながら、田上は右手で陽子の腰やヒップをなでまわした。うっすらとあぶらのにじんだ肌の感触をたのしんだ。腰やヒップはすこし冷たかった。乳房はわずかにあたたかい。田上は陽子の内ももに手をいれた。そこは熱かった。いちばん奥の部分に欲望の液があふれているのがわかる。

「待って。待って。やっぱりシャワーをあびる。汗かいたから気になるわ」

 陽子は抵抗しておきあがった。

 その肩に田上はくちづけする。舌で味わった。かすかに塩分の味がした。

「このほうがいいよ。刺戟がある」

「さっぱりしてから抱かれたいわ。ね、お風呂へ入ろう。いっしょに」

 ベッドをおりて陽子はバスルームへ向かった。いそいそした足どりだった。

 ひきしまったヒップが小さく揺れる。腰をひねるようなあるきかただ。ヒップの合せ目がゆるんだりとじたりする。その姿を見送ってから、田上は服をぬぎはじめた。

 シャワーの音がきこえた。田上はバスルームへ入った。タオルを頭にかぶって陽子はシャワーをあびていた。真剣な顔で体を洗っている。田上が近づくと、ふりかえって、首をかしげて笑ってみせた。社の正面玄関で来客に応対する顔だった。

 田上は陽子のうしろに立った。体を密着させる。陽子のヒップが田上の下腹部を甘ったるくおしあげてくる。田上の男性は上を向いて、ちょうど陽子のヒップのふくらみに裏側を乗せる恰好になった。

 陽子の手から田上は石鹸を奪った。両手をまえにまわして乳房に塗りつける。ていねいに掌で洗ってやる。洗うというより愛撫である。固い乳首が掌をくすぐった。下腹におしつけられた陽子のヒップが、固くなったりやわらかくなったりする。

 田上はやがて両手を陽子の腹へまわしていった。うすい腰骨を越えて、掌が平らな腹へすべりこんだ。草むらにふれる。やわらかな秘密の部分を石鹸のついた指で洗ってやった。陽子は顔をあおむけにする。体をくねらせた。このまま愛撫に入りたがっている。

 だが、田上は洗うだけにとどめた。たのしみをあとにとっておくつもりである。シャワートップをもって陽子の体から泡を洗いおとした。すぐに陽子はきれいになった。

 陽子がこちらを向いた。石鹸をとって田上の体に塗りはじめる。上半身はかたちだけ。下半身に作業を集中する。たっぷり泡のついた両掌で男性をつつみこんだ。やわらかく揉《も》み洗いしてくれる。男性は熱い鉄の棒になった。うれしそうに陽子は田上をみあげる。

 はやくベッドへいきたくなった。田上はシャワーをあび、バスタオルで体をふいた。さきにバスルームをでてベッドへ向かう。陽子は鏡に向かって髪や顔をなおしていた。

 田上はベッドにあおむけになった。毛布がじゃまである。足で蹴とばした。男性が勇ましく突き立っている。陽子にみせてやりたい。枕に背中をあずけ、上体を心もちおこして彼は陽子がくるのを待った。

 陽子がもどってきた。バスタオルで体をくるんでいる。田上の姿をみてさけんだ。

「いやあ、もう。お行儀がわるいんやから。得意そうにして」

 陽子は田上の足もとにまわり、ベッドへのぼってきた。

 田上の足首をかたほうずつもちあげた。重い物をおくようにして左右にひらかせる。田上の両脚のあいだへうずくまった。両手で大切そうに男性の根もとをおさえる。口にふくんだ。くちびるをとがらせ、頬をふくらませる。ゆっくりと頭を上下に動かしはじめた。快感が田上に流れこんでくる。

 陽子の髪が垂れて、彼女の顔を覆《おお》いかくした。田上は手をのばして、その髪をかきあげてやる。すぐに髪はまた垂れさがってきた。田上は上体をおこして、手で髪を束《たば》ねてもちあげてやる。その間にも陽子の頭は動いた。快感がしだいに濃厚になる。

 陽子は真剣な顔をしていた。大切な仕事に取組んでいる表情である。ときおり男性を口からだして、表面に舌をおどらせる。目をとじ、顔をしかめて舌を前後左右におどらせた。ふるいつきたいほど可愛い。頭にあわせて双つの乳房が揺れる光景さえ、田上は目に入らないくらいだった。

 快感がさらに濃厚になった。持続力が不安になってくる。田上は陽子の手をとった。

「もういいよ。ありがとう。さ、こっちへおいで。交代しよう」

 陽子をひきよせてあおむけにする。

 まだ陽子は目をとじている。苦しそうにあえいでいた。かるく脚をひらいて投げだしている。淫らなキスのおかえしを待っていた。うながすように乳房が上下に動く。

 田上は陽子の腰のそばにすわって、美しい裸身をあらためてながめた。上半身から下半身に目がいった。下腹部の小さな草むらをみつめる。やわらかそうな草、透《す》けてみえる肌。ふっくらした盛りあがり。それをながめると、いじわるな欲望にかられてきた。彼は陽子の右手をとって、草むらに誘導した。

「みせてくれ陽子。自分でさわるんだ。きみがオナっているところをみたい。すごく魅力的だと思うよ」

 陽子は目をあけた。いやあ。小声で拒《こば》んでまぶしそうに笑った。

「たのむからみせてくれ。おれに会いたくなったとき、どうしているか知りたいんだ。みせてくれたら、おれ、なんでもする」

 切迫した口調で田上はたのんだ。

 陽子はまた笑った。仕方なさそうに体をくねらせた。指で秘密の箇所をひらいた。人差指と中指をおしあてる。中指を上下に動かしはじめた。欲望の液のあふれたふたつの花びらのまんなかと、上方の真珠の粒を、同時に指で刺戟している。

 人差指は動かない。たんにそのあたりをおしひらく働きをしているようだ。

 息づかいがあわただしくなった。幸福な寝顔で陽子はつづけている。しだいに体が反ってきた。大きく陽子は脚をひらいた。

 田上はうっとりとなった。女のこんな美しい姿をはじめてみたと思った。

 5

 予想していたよりも、北野陽子はずっとはやくオルガスムスにたっした。

 他人の手を借りるよりも、自分の手であそぶほうが快感の頂上にたっしやすい。どこをどう刺戟すればよく感じるかを知りつくしているからだ。

 そんな話を田上夏夫はなにかで読んだことがある。ほんとうだった。陽子は二本の指で敏感な真珠のあたりを刺戟し、五分もたたないうちに頂上へたどりついた。

 両脚をひらいて投げだしている。中指の腹を、下から上へ動かしつづけた。ピンク色の花にあふれる欲望の液を、中指の腹で真珠の粒に塗りつけるような仕草である。目をとじて、苦しそうに顔をしかめていた。

 快楽が盛りあがるにつれて、陽子は反りかえった。腹を突きだした。体を揺すりはじめた。みてるの、みてるの。田上に訊いた。

「ああ、しっかりみてるよ。すばらしいぞ陽子。そのままいってくれ。あと一息だ」

 田上ははげました。昂奮で声がかすれ、体がふるえる。陽子にのしかかって男性を突きいれたい衝動をかろうじておさえた。

 陽子は声をあげた。あえぎながら、脚をとじたりひらいたりする。すこし体をねじってから、ぐったりとなった。目をあけて、ぼんやり天井をながめる。右手は秘密の部分にそえたままである。

「ああ、しんど。すごく感じた。ひとりでするときよりよかったわ」

 陽子は顔をあげて笑いかける。

 秘密の部分にあてた手指をすこし動かした。いま自分のしたことを確認するような動かしかただった。

 田上夏夫はもうじっとしていられなくなった。陽子にとびかかった。両脚をひらかせる。びっしょり濡れたピンクの花へくちづけする。舌をのばした。筆の穂でくすぐるようにそのあたりをかきまわした。すぐに陽子の甘い声が流れはじめる。ああ溶ける。溶けそうやわ。陽子は口走った。

 体のなかへ田上は舌をいれた。舌がもっと長くないのが残念だった。あたたかく、やわらかな肉を左右におしわける。さっき陽子が指でさわらなかった部分を舌でなでまわした。せまい空洞へ吸いこまれる心地になる。ときおり、つよく吸った。真珠の粒を鼻でこすってやる。陽子の声が高くなった。

 そのうち、田上は舌に濃い甘味を感じた。陽子の体から湧きでる液のかすかな甘味とはまるでちがう甘味だった。ふしぎに思って彼はくちづけをやめた。ピンク色の肉をひらいて空洞をしらべる。チョコレート色の汚れが目についた。色だけではない。チョコレートの小さな玉がなかで溶けかけている。

「なんだ陽子。チョコレートをいれたのか」

 おどろいて田上は顔をあげた。

 陽子の白い腹が波を打ちはじめた。くっくっと彼女は笑いだした。右手でそれが入っている箇所をおさえる。

「美味《おい》しゅうしてあげよう思って。さっきいれたの。もう溶けかかってるでしょ」

「バカだな。チョコレートなんかより、自然の味のほうがずっといいのに。陽子のここよりも美味しいものはないよ」

「けど、毎回おんなじ味やったら飽きるでしょ。飽きられたらカナンもん」

 天井を向いたまま陽子は笑っている。

 大阪で会ったとき、バレンタインデーの贈り物だといって陽子はチョコレートの小箱をくれた。田上はそれをコートのポケットに突っこんだままにしておいた。さっき風呂へ入ったあと、陽子はそれをとりだしてチョコ玉を一つ自分の体におさめておいたらしい。どうりでさっき陽子はその部分へのくちづけを要求する身ぶりをした。せっかくのチョコレートに田上があまり関心をしめさないので、いらいらしたのかもしれない。

「ほんまはね、チョコレートあげたのがアホらしゅうなったの。田上さん、家へもってかえって奥さんや坊やとたべるでしょ。それ考えたら、腹が立ってきた」

 陽子は上体をおこした。焼餅《やきもち》かなあ。つぶやいて、抱きついてきた。

 田上の肩へ顔をおしつけてくる。泣き笑いの表情だった。田上はつよく抱きしめる。割りきったようでいて、妻子ある田上との恋愛に、陽子はつらい思いを味わっていたのだ。

「そんなことをいうな陽子。きみのことしかおれ、考えていないよ。きみしか愛していない。ほんとだぞ」

 田上は陽子をおし倒した。

 陽子はあお向けになった。田上は陽子の右側に横向きになって寝る。右脚を陽子の左脚の下へさしこみ、彼女の右脚のうえに乗せてのばした。体を寄せる。たがいちがいに脚をからませあいながら、男と女のしるしの部分を密着させあう。ななめ下方から、田上は陽子のやわらかな空洞へ入っていった。

 声をあげて陽子は動きだした。田上もリズムをあわせた。ななめに入っているので、しめつけてくる感覚が濃厚である。チョコレート玉がどこにあるか、よくわからない。陽子の右のふとももが、田上の右の腰骨をリズミカルに圧迫してくる。

 田上は右手を陽子の女の部分へのばした。真珠の粒を指さきでかわいがった。陽子の声がほそくなる。体の揺れがこまかく変った。まったく陽子は天才である。いちばん多量に快感を吸収できる動きを、ひとりでにとってたのしんでいる。

 田上は指の動きをはやくした。陽子の体はまだじゅうぶん成熟していない。田上の指のたすけを借りないと、快楽の頂上にたどりつけない場合がある。こうしているかぎり、その心配はなかった。陽子の呼吸がたちまち切迫してくる。動きがあわただしくなる。やがて、遠い笛のような声がきこえた。

 陽子はこぶしでシーツをたたいた。顔をくしゃくしゃにしてあばれていた。真珠の粒をくすぐる田上の右手を両手でおさえる。大きな呼吸に変ってくる。いったあ。蚊の鳴くような声で彼女は告げた。

 すこし待って田上は体の動きを再開する。指も動かしてやる。たちまち陽子は二度目の坂をのぼりはじめる。シーツをたたき、頭を左右にふりはじめた。まもなく頂上にたっしたことを、こんどは全身で表現した。

「おれもいっていいか陽子。もうもちそうもないんだ。チョコレートが効《き》いた」

 田上は声をかけた。じっさい、もう持続の限界にきている。

「いいわ。きて。いっしょに終ろう。いっしょによ。待ってくれんと、いやよ」

 陽子はあとじさりした。二人の体をはなした。

 大いそぎで陽子はうつぶせになった。両ひざを折り、ヒップを上にあげる。シーツに両手をついて顔をふせた。

 固くひきしまったヒップが田上に向けて突きだされた。双つの丘の合せ目がわずかにひらき、ひとすじの翳《かげ》となった。翳の下方に桃色の花が卵形にひらきかけている。まんなかにわずかなチョコレートの痕跡があった。みただけで田上は男性が甘くしびれてきた。バレンタインデーの贈り物を、いまは男性で味わっている。ゾクゾクする。

 ひきしまったヒップを田上は両手でかかえた。近づいて、しずかに突きいれた。顔をふせて陽子は泣きだした。丸い、やや肌理《きめ》のあらいヒップが田上の下腹におしつけられる。しっかりと陽子の体を固定して田上は動きだした。ついでに右手を陽子のまえにまわした。真珠の粒をさぐりはじめる。

 ベッドがきしんだ。すこしも気にならなかった。航海中の船の一室であるかのように、ホテルの部屋が動きだした。陽子が泣きさけんで、しだいに水平に倒れていった。二人の体はうつぶせにかさなりあった。田上の動きも水平になる。

 思ったより田上は持続できた。水平にかさなりあっていると、陽子のやわらかな空洞の入口の肉が意外につよく男性の根もとをしめつける。終ろうとしても、できないのだ。

 だが、それにも限界があった。ほっそりした陽子の胴がしだいに太く感じられてきた。快楽のうねりがおしよせる。田上はしっかり陽子を抱いて、うねりに呑《の》みこまれた。

 6

 午前七時に目覚時計のアラームが鳴った。死ぬ思いで田上夏夫はベッドからおりた。昨夜眠ったのは午前二時すぎである。頭がぼやけている。目がはんぶんしかあかない。睡眠不足で顔の青ざめているのがわかる。

 陽子は起きだす気配がない。頭から毛布をかぶって、髪がはんぶんだけ外にでている。

「やれやれ。男はつらいよ。毎日毎日たたきおこされて」

 ボヤきながら田上はバスルームへ入った。

 出張先のP造船へはここからバスで一時間以上かかるはずだ。九時にオフィスへ入ろうと思えば、七時半にはホテルをでなければならない。朝食をとるひまもなかった。

「まったくくだらないよ。たかだか百万の損を埋めるだけの仕事じゃないか」

 ぶつくさいってシャワーをあびた。

 歯をみがき、ひげを剃る。顔の表面だけはさっぱりした。

 田上はバスルームをでた。すばやく身支度する。終ってベッドへ近づいた。

「ではいってくるからね。ゆっくりやすんでいなさい。午前中にもどってくる」

 陽子の顔から毛布をとった。かがんで頬へくちづけにいった。

 陽子がなにかいった。目をとじたままくちびるを突きだした。溶けたチョコレートでくちびるが濡れている。寝ぼけたまま、チョコ玉を一つ口にほうりこんだらしい。

 くちづけをかわした。チョコレートの味がするキスだった。むっと陽子の体温が田上の頭部をつつみこんだ。新鮮な欲望がわいてくる。おれも若いな。田上は思った。だが、あそんでいるひまはない。もう一度陽子の体を味わうのは、仕事からかえってきてからだ。

「————」

 目をとじたまま陽子が小さな声をだした。手をのばして、田上のズボンのファスナーをひきおろした。なかをさぐりにくる。

「よせよ。時間がないんだ。もどってからゆっくりたべてもらうよ」

 田上は陽子の手をおさえる。

 陽子はかぶりをふった。ちょっとキスするだけ。口のなかでつぶやいた。

 陽子は男性をひっぱりだした。はんぶんしかそこには力がこもっていない。頭をもちあげて陽子は口にふくんだ。裏側の敏感なポイントを舌でくすぐってくる。たちまちそれは大きく勃起した。痛いほどになった。

 陽子は満足そうにそれを口からひきだした。ズボンのなかにしまってファスナーをひきあげる。二度、かるくそこをたたいた。

「はよかえってきてね。わるいけど、私、寝て待ってます」

 毛布を陽子は頭からかぶった。ひらひらと手をふってみせる。

 仕様のないやつだ。人のものをおもちゃにして。笑いながら田上は部屋をでた。こんな幸福な出勤は生れてはじめてである。

 バスでP造船のある海辺の町へ向かった。途中、渋滞に巻きこまれていらいらした。なんとか九時にオフィスへ入ることができた。

 P造船は従業員数五十名ばかりの小企業である。近海、沿岸漁業向けの小漁船のメーカーなので、造船不況からさほど深刻な打撃をうけていなかった。一本きりのクレーンが元気に動いている。ドックでは従業員が黙々と働いていた。二隻《せき》の漁船を建造中である。美しい海を背景に活動する工場をみると、田上は頭から眠気が消えていった。

 応接室へ田上は通された。女の子が熱い番茶をはこんできてくれる。一口すすってため息をついた。急に腹がへってきた。ホテルをでてから、なにも口にしていない。

「丸藤商事さんですか。えらい早いお着きですなあ。遠いとこをどうも」

 社長が部屋へ入ってきた。船乗りのように日灼《ひや》けした、きれいな笑顔の人物だった。

「常務の話では、K商事さんがたいへんらしいですな。きょうはその用件ですか」

 いわれて田上はびっくりした。

 くわしい話を社長は知らないらしい。きのう田上が電話で打合せしたのは、経理担当の常務だったのだ。

「まだくわしいお話が通ってないんですか。じつはK商事経由で御社へ納入させていただいたエンジン二基の売買契約を、うちで肩替りすることになったんですが」

 きのうの打合せの内容を田上は説明した。

 K商事が近く倒産する。ニュースはまだ業界に流れていない。

 丸藤商事はK商事に六百万円の債権がある。漁船用エンジン二基の代金である。そのエンジンはK商事からP造船へ納入された。代金の支払いはまだ済んでいない。

 P造船はK商事との売買契約を破棄し、丸藤商事から直接エンジンを仕入れたかたちにする。代償に丸藤商事は、P造船の手形の期日を一ヵ月ひきのばすことにする。

「そらあかんよ。うちはK商事とはながいつきあいや。つぶれそうになったからいうて、いまさら契約破棄やなんて。うちの信用にかかわる」

 社長は気色《けしき》ばんだ。常務が勝手に約束したことにも腹を立てているようだ。

 まずいことになった。田上は舌打ちした。へたをすると、出張がむだになってしまう。

「お言葉ですが、社長、これはビジネス上の問題ですから合理的にお考えいただけませんか。K商事の倒産は確実です。先方をお立てになっても、御社の利益にはなりません。今後はうちと直接にお取引をおねがいします」

「今後のことは、そら丸藤さんにおねがいするかもしれん。おたくのような大企業と親しゅうなったら、なにかとたすけてもらえるやろ。しかし今回の件は、これはもうK商事さんとの契約なんや。わしは筋を通したい」

「K商事さんも了承してくれてるんです。けっして筋の通らないことではありませんよ」

「ちがうのや。田上さん、あんたはご存知ないやろけど、K商事からけさ早う電話があった。向うの倒産のニュースはもうひろがってしもたらしいわ。うちの支払いは契約どおりにしてくれ、いうて泣きついてきよった。おぼれる者がすがってきよったんや。あんた、これがみすてられるか」

 社長は田上をみつめた。彼もけっこうタヌキだった。話が通っていないようなことをいったのは、とぼけていたのだ。

「そりゃK商事のほうが筋を通していない。きのうはちゃんと話がついたんです。けさになってひっくりかえすなんて」

「まだ秘密が保たれてる思うたんやろ。そうでないとわかって、あわてたんや。かわいそうやないか。みすてたら男やないで」

「社長、率直におっしゃってください。K商事はいくら値引をいってきたんですか。少々のことなら、うちも合わせます。せっかくここまで出向いてきたんですからね」

 田上は切りこんだ。現代の経営者が浪花節だけでビジネスに当るわけがない。

 図星だった。社長は苦笑してだまりこんだ。頭でソロバンをはじいているらしい。

 田上は手洗いに立った。気をおちつけなければならない。窓から海のみえるトイレへ入って放尿をはじめた。

 ふと自分の男性へ目をやった。微笑がわいてきた。さきのほうに溶けたチョコレートが付着している。ホテルをでるまえに陽子が口で奉仕してくれたなごりだった。

「待ってろ陽子。なんとしてでも話をつけてかえるからな。おそくなるかもしれないけど、怒らないでくれ。もどったらまた、徹底的にかわいがってやるからな」

 付着したチョコレートに向かって、田上は話しかけた。

 闘志がわいてきた。彼は身づくろいをした。こちらの希望が通るまでテコでも動かぬ覚悟をきめて応接室へかえっていった。

(第三話 了)

第四話 置き土産

 1

「堀井さん、きょうは家の都合で早うかえらしてもらいますよ。あしたやったら残業できます」

 さいならあ。入社二年目の課員が声をかけてオフィスを去っていった。

 堀井浩介は苦笑して彼を見送った。新人類はわるびれない。締切りまぎわで支店内がごったがえしていても、午後五時にはさっさとかえってしまう。

 堀井があの年ごろのころは、もっと課長に遠慮したものだ。課長が机に向かっているうちは、五時になってもかえりにくかった。格別に仕事がない日もそうだった。

 なんとなく資料に目を通したり、書類をつくったりした。それでも課長が居残っているときは、だれか上司と雑談したり、すみで将棋をさしたりした。用がなくてもオフィスから出ていきにくかったものだ。

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