とつぜんあゆみはおきあがった。堀井にのしかかって、おし倒した。浴衣をひらいて男性に頬ずりする。口にふくんだ。音をたててしゃぶった。それから頭を動かしはじめる。あわただしく動かした。婚約者に嘘をついて不倫の相手のもとへきた——そんな罪の意識を消そうとしているようだった。
「ぬいで。ぬいで。課長の体ぜんぶほしいねん。ぜんぶみせて」
あゆみはおおいかぶさってきた。
堀井の浴衣を上のほうまでおしわけた。むしりとるようにぬがせる。自分は服をきたままだった。また男性を口にふくんだ。せっかちで、はげしかった。会社では恥ずかしがり屋にみえるのに、いまは別人のようだ。
あゆみは頭を動かさなくなった。代わりに舌をおどらせた。口のなかの男性の一番敏感なポイントを舌で刺戟してくる。舌さきでなでるようにくすぐってきた。それがつづいた。堀井はうめいていた。すばらしい感触である。脚をふんばっていた。
あゆみの攻撃はさらにつづいた。舌をつかいながら、男性の下方のふくらんだものを指でやさしく揉んでくる。ときおり、べつの指でアヌスをくすぐってきた。二種類の快感がまじりあって下腹部を甘く溶かした。堀井は息がみだれはじめる。快感の盛りあがりをおさえながら、愛撫に酔い痴《し》れていた。
どこでこんな技巧をおぼえたのだろう。婚約者に習ったのか。
ふっと堀井はそう考えた。すると、ものすごく腹が立ってきた。嫉妬である。あと十日あまりであゆみは結婚の準備のため、三重県の実家へかえってしまう。そのことを思う深い悲しみが、嫉妬をさらに増幅させる。
あらあらしい感情に堀井はかられた。思いきりあゆみをいじめてやりたくなった。
「だれに習ったんだ。その舌のつかいかた、だれに教わった。結婚する相手に習ったんだろう。先週おぼえたんだな」
堀井はおきあがって床に立った。
ベッドからあゆみをひきずりおろした。両手をベッドにつかせる。うしろに立ってスカートのなかへ手をいれた。白のパンストとショーツを足もとまでひきおろした。
「そんな——。ちがいますよ。課長とこうなってから彼とはなにもしてません。先週やなんて。ひどいわ課長」
抗弁しながらあゆみはされるがままになっていた。足ぶみをして、ショーツとパンストを脚からぬきとった。
「わかるもんか。うまくなりすぎている。一人で上達するわけがないんだ」
スカートを堀井はまくりあげた。
丸いヒップと流れるような白い脚がむきだしになった。堀井は手をあゆみの下腹部にまわした。草むらの底をさぐってみる。やわらかな肉のはざまが熱く濡れていた。堀井は位置をきめる。一気になかへ入っていった。
「ちがいますよ。私、勉強したのよ。本を読んで、課長をよろこばせてあげよう思うて。あの人とはなにも——」
声がつぶれた。ベッドに両手をついたまま、あゆみは悶えた。泣き声をあげる。
荒っぽく堀井は動いた。しずかにふるまうのには気持がたかぶりすぎていた。あゆみの両手がシーツを握りしめる。丸いヒップが堀井の下腹部へ心地よくはずんでぶつかってくる。苦しそうにあゆみは泣いた。まもなくオルガスムスがきて、ベッドに頭をつけ、全身をふるわせた。
追いかけて堀井も、目のくらむような快楽のなかへとびこんでいった。
6
あゆみはバスルームへ入った。
浴衣を着なおして、堀井浩介は窓ぎわの椅子に腰をおろした。テーブルにおいたカップヌードルをたべにかかった。
熱湯を注いでからかなり時間がたっている。麺がふくらみ、スープはなくなっていた。すぐにたべ終った。堀井は冷蔵庫から缶ビールをだしてきて飲みはじめた。
情熱にまかせて活力を発射したのを後悔してはいなかった。あゆみが相手ならもう一度できる。まだ午後九時である。午前零時ごろまで徹底的にたのしんでやるつもりだ。
あゆみがバスルームからでてきた。バスタオルを裸身に巻きつけている。テーブルのうえにたたんでおいた自分の衣類のなかから、白いパンストをだしてしらべはじめた。
「いやあ。こんなん恰好わるいわ」
パンストのひざの下あたりに、茶色の大きなしみがついていた。
婚約者とレストランで食事し、終って立ったはずみにソースの瓶をひっくりかえした。瓶は落ちてあゆみの脚にあたった。いそいでいたので、そうなったという。
「こんなとき、インスタントの染料があったらいいのにな。お湯に溶かしてサッと染められるように。白はすぐ汚れるから」
パンストをもって、あゆみは堀井の正面にすわった。口をとがらせている。
「マジックインクならあるぜ。まっくろに塗ってみたら」
堀井はいった。会議でつかった黒のマジックインクが鞄にある。
「だめよ、そんなん。ベトッとして気味がわるいわ。やっぱり染料やないと」
恨めしそうにあゆみは茶色のしみをみつめている。
素脚でかえればいいじゃないか。そのほうがセクシーだぞ。いいかけて堀井は口をつぐんだ。アイデアがうかんだ。白いパンストと各色の染料。これをセットにして売ってみたらどうか。ユーザーは自分の好みの色にパンストを染めて使用できる。染料の量を調節すれば、たとえばおなじピンクでも、濃淡さまざまな色合をたのしむことができる。
「ちょっと待って。染料があれば好きな色に染められるんだな。かんたんにできるのか」
堀井は身を乗りだした。心臓が高鳴っている。これはすごいアイデアかもしれない。
「そうよ。熱湯に染料を溶かして白のパンストをつけるの。かわいたらすぐにはけるわ」
「最初白ではいて、倦《あ》きたら好きな色に染めればいいんだな。経済的じゃないか。一足買えばいろんな色をたのしめる。どうしてそれをやらないんだ」
「そうかて、染料ってわりに高いの。一々買いにいったり、お湯をわかしたり、濃淡をかげんしたり、手間もかかるわ」
「これにパンストと染料をいれて売ってたら買うかい。これより大きいの」
声がはずんだ。テーブルのうえの、からのカップラーメンを堀井は指した。
「もっと大きいカップ。白のパンストと染料。なるほどなあ。カップがソクおなべになるわけね。使いすてのおなべ」
あゆみはカップを手に考えこんだ。
すぐに堀井をみつめた。目がかがやいている。昂奮してさけんだ。
「いけますよ課長。きっと売れるわ。使いすてのおなべがミソですよ。染物をすると、あとでおなべを洗うのが大変なんやから」
バネ仕掛けで堀井は立ちあがった。
受話器をとった。中央研究所開発研究グループ所属の同期生の住居を呼びだした。新製品の開発に専念している男だ。
同期生は家にかえっていた。一杯やっていたらしい。上機嫌で応答した。
「なに。新製品のアイデア。素人《しろうと》がなにをいうか。まあきくだけきいておこう」
最初、同期生はバカにしきっていた。
だが、堀井が話しだすと、あいづちがしだいに真剣になった。説明が終ると、しばらくだまっていた。検討しているらしい。うなり声がきこえた。ぶつぶついっている。
「おい、堀井、これはいけるぞ。カップラーメン方式というのがいい。オモロイ。うん、ギャルがとびつくぞ。きっと売れる」
白のパンストを染料つきで発売することはすでに検討中だったらしい。
だが、売りかたのスタイルが問題だった。パンストも染料もそれぞれ既存の商品である。二つを組合せただけではなんの新しさもおもしろさもない。なべ代わりのカップをつけることで、面目が一新する。三つの品物が噛みあって、新製品として自立するようになる。
「こらオモロイ。あしたさっそく開発テーマにしてみるよ。たぶんいけるやろ。ひょっとすると堀井、おまえ社長賞ものやぞ」
しばらく話して電話を終えた。
そばにあゆみが立っていた。堀井は彼女を抱きしめた。二人はベッドに倒れこんだ。堀井はあゆみの体からバスタオルを、あゆみは堀井の体から浴衣をむしりとった。
「いけるらしいぞ。社長賞ものだそうだ」
「やったあ。課長、冴《さ》えてはるわ。おもしろいね、カップパンスト。よかった。私も最後に開発のお手伝いができた」
「最高の置き土産だよ。社長賞がでたらはんぶん送る。住所、教えておいてくれ」
「また私を誘惑するんでしょ。いけませんよ。私は貞淑な妻になります。誘惑には負けません」
「気が変わることを祈ってるよ。でも、よかった。頭はつかいようだ。人生これからだな」
抱きあったまま、二人は右に左にベッドのうえをころげまわった。
くちづけをかわした。そのままころがった。両手両脚をからませあった。
やがて堀井は体の向きを変えた。さかさまに二人は抱きあった。堀井が下になった。たがいに相手の大事な場所にくちびるをつける。堀井の男性にはすでに力が回復していた。
二人は舌をおどらせはじめた。どちらが大量の快感を相手にあたえるか、競争になった。どちらも負けないつもりである。
が、堀井の体におくりこまれる快感がとまった。あゆみの声がきこえた。
「ほんまに私、あの人となんにもしてませんよ。いまは堀井課長だけ。短いあいだやけど、私、課長だけの女」
ふたたび快感が流れこんできた。
いとしさで堀井は胸がいっぱいになった。愛情をこめてしゃぶり、舌をつかった。ピンク色の秘密の花に何度も見惚《みほ》れた。まごころがそこにはにじんでいた。
競争はあゆみの負けだった。まもなく彼女は声をあげて全身を硬直させたあと、堀井の体からころがり落ちた。
だが、すぐに彼女は立ちなおった。堀井の体に這いあがった。こんどはこちら向きである。男性をとらえ、女の部分へおしあてた。ゆっくり体を沈めてくる。動きだした。
愛してる。愛してる課長。わすれないで。泣きながらあゆみは動きつづけた。
(第四話 了)
第五話 現物支給
1
妻の芳子は案外デキのわるい女だった。水谷隆平は朝から不愉快な思いをした。
土曜出勤が芳子はまず気にいらなかったらしい。一家で郊外へ花見にゆく予定だったのを水谷はキャンセルした。芳子はむくれてしまった。
午前十時から工場で技術者たちとの連絡会議がある。きのう急にきまった話だった。
P電器はいま円高不況の被害で、苦しい時期にきている。水谷はカラーTV営業部の課長である。家族サービスが大事だからといって、会議に欠席できるわけがない。土曜出勤にむくれるほうがまちがっている。
芳子がさらに気をわるくしたのは、ボーナスの一部の現物支給の件だった。
昨年、P電器は二十二年ぶりに減収減益の決算を発表した。管理職は暮のボーナスの一部を現物支給でうけとった。
減収減益といっても、べつに赤字だったわけではない。これまで伸びる一方だった売上高と利益が、いくぶん減ったというだけのことだ。数字のうえからいえば、なにも現物支給の必要はなかった。社員の緊張を高め、グループ各社の一体感を強固にするため、そういう措置がとられたにすぎない。
そして円高不況はさらに深刻である。このぶんだと夏のボーナスの一部も現物支給になるかもしれない。そのことをけさ、食事しながら芳子に告げた。どの品物をもらうか、考えておくよういったのである。
芳子は顔をしかめて不平をいった。
「またなの。いやよもう。うちにはもう欲しい製品なんかないわ。ビデオも新しいし、自動皿洗い機も買うてしもたし——」
暮のボーナスのとき、その二つの製品の現物支給をうけた。
毛皮のコートが買えなくなった。芳子はそういって口をとがらせていた。夏のボーナスにも、きっちり予定があるのだろう。
「仕方ないだろう。こんな時期なんだから。大型テレビはどうかな。一つでも在庫を減らしたいことでもあるし」
「だめよ。せまい家にあんなものおいたら、疲れてしまうわ。けど、P電器もひどい会社になったねえ。要りもしない製品を社員におしつけるなんて」
「好きでやってるわけじゃない。おれたちは会社のおかげでめしが食えるんだぞ。会社が苦しいときは協力するのが当然だろう」
喧嘩になってしまった。胸くそがわるいまま、水谷は家をとびだした。
ことし水谷は三十八歳である。結婚して十年目になる。
この十年間、会社は順風満帆だった。売上・利益の両面で業界のトップにある。国際的にも超一流の評価を得てきた。低成長時代といわれながら、社員の給料もボーナスも順調に伸びた。ふつうに暮してさえいれば、年々自動的に収入が増えていった。
その状態に芳子は馴れてしまったのだ。世の中、つねにこんなものだと思いこんできた。だから、ボーナスのほんの十パーセント程度の現物支給にも不平たらたらである。欲しいものがもうなにもないなどという。
欲しい製品がない——考えてみると、皮肉な話だった。水谷たちは汗水たらして働いて、そんなめぐまれた状態をつくりあげた。かつての三種の神器はもちろん、ビデオもオーディオも電子レンジもエアコンもたいていの家庭に普及している。
結果、電機業界は売上高が頭打ちになってしまった。ゆたかな社会の実現のためがんばって、いまは社会のゆたかさにしっぺ返しを食っているのである。業界ぜんたいがそうだし、水谷の家庭も同様だった。まったく世の中はむずかしい。比較的景気のよい電機業界でこれなのだから、鉄鋼、造船など不況業種の人々はどんな思いなのだろう。
考えながら、水谷は工場へ出勤した。
テレビ工場は大阪府下のI市にある。大阪駅から快速電車で二十分たらず。そこからタクシーで十分ばかりのところだ。
十年まえはたくさんの女子工員が工場内に散開して、組立作業などをやっていた。いまは自動化がすすんで、女子工員はほんの少数になった。人の気配がうすくなると、なんとなく工場がさびれたような気分になる。建物や設備がどんなに最先端のものだろうと、大勢の人間が働く活気のない工場はさびしいものだ。人間の感性というやつは、時代の変化にそうかんたんに即応できない。
会議は予定よりながびいた。午前中に終るはずが、午後二時までかかってしまった。
論議が白熱した。テレビ部門は昨年、中国向けの輸出が不振で業績は前年よりわるかった。関係者はみんな必死である。ボーナスの一部現物支給もいい刺戟になった。そのかぎりでは、現物支給は適切な人事政策だったという気がする。
午後二時すぎ、水谷は工場をでた。タクシーでI駅へ向かった。改札口へ向かう階段をのぼろうとすると、
「水谷課長——」
女の声がうしろできこえた。
水谷は足をとめ、ふりかえった。大きな布のバッグをさげた女の子が走ってくる。おなじ課の杉村ルミだった。
ルミはゆったりした白のブルゾンに赤のスラックスという恰好だった。会社のユニホーム姿を見馴れた目には、とても新鮮に映った。ルミは小柄である。目のくるくるした愛らしい丸顔だった。無邪気な子である。短大卒で入社二年目だが、まだ高校をでたばかりにしかみえない。
好意を顔にあふれさせてルミは近づいてきた。首をかしげて水谷をみあげる。
「水谷課長、どこへいってこられたんですか。お住いは尼崎なんでしょう」
「塚口なんだ。工場へいっていた。きみはこの近くなのか」
「ここから三つ目の駅なんです。きょうは弓の練習へいってました。万博公園のそばに弓道場があるんです」
「弓。へえ。変ったものをやってるんだな」
ルミのさげたバッグに水谷は目をやった。
稽古衣《けいこぎ》が入っているらしい。弓矢は弓道場のロッカーにおいてあるという。
「みんなそういうんです。似合うてないって。けど、あれおもしろいんですよ。すごく心がおちつくの。私みたいなパッパラパーにはいい修養になるんです」
水谷は興味にかられた。
彼の課には男子八人、女子四人の社員がいる。性格や適性はしっかり把握しているつもりだ。だが、私生活のことはほとんど知らない。杉村ルミが弓道の修業をしているなんて初耳だった。これではいけないと思う。
お茶でも飲もう。駅前の喫茶店へ水谷はあるきだした。いそいそとルミはついてくる。水谷はくすぐったい気持だった。モテているような気がした。まさかそんなことはないだろう。自分にいいきかせる。上司と個人的なつながりをもつことが、ルミはうれしいだけなはずだ。
窓ぎわのテーブルに向かいあった。水谷はまぶしかった。正面からみると、ふだん思っているよりルミはずっときれいだった。
会社ではルミは末席にすわっている。水谷と口をきく機会はめったにない。それに水谷はいつも仕事に追い立てられている。ルミの容姿をゆっくり観賞するひまがなかった。
「こうしてみると、きみはギャルだなあ。会社にいるときとちがって溌剌《はつらつ》としている」
「あ、私、会社でそんなにネクラしてますか。そやないんやけどなあ」
「ネクラじゃないよ。なんにも知らない子供にみえる。いまはもっと大人っぽい感じだ」
「よかったわ。私、わりといろいろやってるんですよ。好奇心つよいんです。会社では小そうなってますけど」
「ディスコなんか、よくいくの」
「学生時代はよういってました。けど、P電器の社員ともなると、アホなことしてられへんでしょ。そやから弓に転向したんです」
コーヒーを飲んで話しあった。
しだいに水谷は心が浮き立ってきた。課長と女子課員の枠《わく》がはずれて、ルミとのあいだに男と女の交流が成立しつつあるようだ。
ルミの胸が水谷は気になってきた。ルミはブルゾンをぬいでいる。淡いピンクのセーターのふくらみが意外に大きい。これも新しい発見である。水谷は目のやり場に困った。最初は気にならなかったのに、妙なものだ。
2
一時間ばかり雑談して二人は喫茶店をでた。午後三時半だった。
なごり惜しい気持に水谷はかられた。けさ妻の芳子と喧嘩したことを思うと、なおかえる気になれなかった。
夕刻ならルミを飲みにさそうところである。だが、食事の時間でもない。どうしようか。考えながら水谷は街路樹の桜に目をやった。白い花が満開であった。
「お花見にいきませんか、課長」
杉村ルミが無邪気に提案した。このあたりでは万博公園の日本庭園が桜の名所である。ほかにもいい場所があるという。
「花見か。それはいいな。よし、いこう」
二人で近くの路地へ入った。
缶ビールを六本買った。ツマミ、サンドイッチも仕入れる。タクシーに乗った。五分も走ると、万博公園だった。
歩道橋のうえをたくさんの人がゆききしている。日本庭園へきた人々である。ルミの話では、すこしさきのスポーツ広場の桜も美しいらしい。人がすくないという。そちらへ向かうことにした。
スポーツ広場へ着いた。樹木のゆたかな区域だった。一周二・五キロのサイクリングコース、硬式・軟式の野球場、サッカーのグラウンドなどがある。木立のなかの道を硬式野球場のほうへあるいた。球場の下手に桜林があった。満開だった。桜はみんな一つになって、淡いピンクの雲のようだ。
桜林は芝生の広場のすみにあった。花見の場としては理想的な穴場である。ゴザを敷いて飲めや歌えをやっている男女が一組だけいた。ほかに四組の家族づれがサッカーごっこやバドミントンであそんでいる。
水谷と杉村ルミは、桜の木々のあいだに腰をおろした。桜をながめながら、ビールを飲んだ。あたたかい日である。ルミはブルゾンをぬいでさしだした。ゴザの代りに敷いてくださいという。
「いいよ。おそれ多いよ。美女の服なんか敷いたら、おしりが感激して泣いてしまう」
「私こそおそれ多いですよ。課長とお花見やなんて。ふだんは話もできないのに」
「いそがしいからさ。今後はせいぜいコミュニケーションをはかることにするよ。きみと話しているとリラックスするからね」
「課長ってすごく気さくですねえ。もっと近寄りにくい人やと思うてました。そういう人って魅力あるわ。近づいてみたくなる」
缶ビールを口にあてて、ルミは上目をつかった。いたずらっぽく笑った。
水谷は狼狽《ろうばい》した。小娘にからかわれているような気がした。最近の女の子は危険である。盛りあがった胸を武器に、上司と部下の距離を一気に埋めるすべを知っている。
うっかりすると、足をとられる。女子課員に手をだした課長なんて、P電器ではもっとも軽蔑される存在である。あかるみにでたとたん、昇進の芽はつみとられるだろう。
ビールの酔いがまわってきた。水谷は暑くなった。上衣をとってルミにさしだした。ゴザ代りに敷きなさい。笑ってすすめた。
「いやあ。それこそ私のおしりが泣きます。感激して夜も眠れません」
「オーバーだな。じゃ、おたがいにおしりに感激させよう。おしりは縁の下の力持ちだ。たまにはいい思いをさせてやらなくては」
水谷はルミのブルゾンを芝生に敷いた。そのうえにすわった。
ルミも水谷の上衣をとった。顔におしつけて匂いをかいだ。男の匂いがするわ。顔をくしゃくしゃにして笑った。それを敷いた。両ひざを立てて、片手で抱きよせる。
「どうかね。おしりの感想は」
「もう大感激でーす。課長のおしりは」
「うっとりしている。しかしブルゾンが気の毒だな。きたないケツに敷かれて」
「それやったら課長の上衣も気の毒やわ」
「おれのは感激してるよ。かわいいおしりに圧迫されて、ぼうっとなってる。うらやましいよ。おれは上衣になりたい」
「またア。恐いわそんなん。私が課長のうえにおしり乗せるんですかア」
ソプラノでルミは笑った。赧《あか》くなった。
酔いのせいで水谷は口がかるくなった。ルミの胸がいっそう大きくみえる。スラックスに脚がかくれていて、残念だった。自制すればするほど欲望がつのってくる。
いつのまにか近くに二十歳前後の男女がきていた。寝そべって話している。手をとりあっていた。すぐに体を寄せあった。男がおおいかぶさって、ゆっくりキスする。
「若いやつらにはかなわないな。人目を気にするという神経がないのかね」
苦笑して水谷は目をそらせた。考えてみると、じっくり観察したあとだった。
「あんなん、ふつうですよ。私かて、愛しあってるどうしやったら平気。だれにみられても恥ずかしゅうないわ」
一息にルミは缶ビールを飲んだ。
それから、あおむけに寝た。水谷の上衣に上半身を乗せている。あーあ、いい気持。桜と空をながめてつぶやいた。あたたかい風が吹いて、花びらが雪のように降ってくる。
「ここへきませんか。いい気持ですよ」
ルミは体を横にずらした。上衣のうえに水谷が寝るスペースをとってくれる。
水谷はためらった。だが、さそいに乗らないほどの石部金吉でもない。思いきってルミのとなりに横になった。大地がどっしりと、きわめて寛大に水谷の体をうけとめる。
二人の腕がふれあった。気づかぬふりで水谷は空と桜をながめた。ルミの化粧品の香りがただよっている。そのあとに芝生の匂いがきた。これから自分はどうすればいいのか。水谷は茫然としていた。
「うれしいわ。課長って、やさしいお兄さんかおじさんみたい。私、どっちもいないの。甘えられる人って、だれもいない」
「じゃ、甘えてもらおうか。でも、お兄さんではつまらないね。血のつながりのないおじさんにならなりたい」
「私、夢みたいや。私課長のファンやったんです。けど、すごく遠い人やと思うてた。こんなに近くにいるなんて」
ルミはこちらを向いた。あおむけに寝たままの水谷のワイシャツを指でつまんだ。
むしるように指をつかう。横目で水谷はルミをみた。口をとがらせてルミはワイシャツにさわっている。そばにあるのがまぎれもなく水谷の体であることを、たしかめようとするみたいだった。
「人目が気になりますか、課長」
ルミは水谷の腕をつっついた。
水谷は上体をおこした。周囲の事物が目に入らなくなった。会社のこともどうでもよくなった。彼はルミにおおいかぶさる。くちづけにいった。
身を固くしてルミはじっとしている。その口へ水谷は舌をさしいれた。ルミの口も舌も小さかった。だまってルミはうけいれる。あえぎはじめた。胸のふくらみが、水谷の胸の下で上下に動いている。
「私、絶対にめいわくかけませんから。約束します。そやから課長、可愛がって」
あえぎあえぎ、ルミはいった。
もう夢中である。水谷の首に両手をまわして、力いっぱい抱きしめてくる。
キスがすむと、水谷はやはり人目が気になった。近くにいる男女の二人づれは、男が女にかさなりあっている。その状態で談笑していた。
水谷は立ちあがった。荷物をまとめる。ルミの手をとってあるきだした。近くの雑木林へ入った。ここなら人目がない。
立ったまま、ルミを抱きしめた。もう胸に関心はない。スラックスのうえからふとももにさわった。手を上へ這《は》わせてゆく。
3
水谷隆平は左手で杉村ルミを抱きしめる。右手をルミのふとももに這わせた。
二人とも立ったままだ。ルミは小柄である。水谷のほうは身長百七十五センチ。ルミを抱くとしぜんに背が丸くなる。
ルミの頭が水谷の胸におしつけられる。小さな女の子を抱くと、いかにもいつくしんでいる気持になる。たまらなく愛らしい。
意外にルミのふとももは肉づきがよい。赤いスラックスがはちきれそうだ。ゆっくりと水谷は手を上下に動かした。掌がはずむような感じである。ルミの若さが伝わってくる。
水谷は手をしだいにふとももの内側に移動させた。感触が心もちやわらかになったような気がする。ルミの脚がすこし動いた。いっそう水谷は背を丸くすることになった。
やわらかなため息をルミはついた。弱々しい声がまじっていた。水谷の手をルミは避けない。かえって腹をつきだしてくる。
水谷はためらいが消えた。右手をルミの下肢の中心部へもっていった。逆三角形のやわらかな部分へぴたりと掌が貼りついた。小さくなでさする。指を動かした。スラックスの壁がひどくじゃまである。それでも中指の腹が、あたたかいミゾに沈んでおさまった。
「ああ課長。そんなことするんですか」
苦しそうにルミはいった。
非難する口調ではない。目をとじている。うっとりと目をとじていた。
「びっくりしたか。でも、きみがほしくなった。きみがわるいんだぞ。可愛すぎる」
「うれしいわ。まだ私、信じられへん。課長にこんなことしてもろてるなんて」
水谷は手を動かしつづけている。
ルミの呼吸がせわしくなった。ときおり彼女はかるくひざを折る。体をくねらせた。そのたびに水谷の掌におさえられた部分が固く張りだす感じになる。水谷は中指に力をこめた。ルミは声をあげてしがみついてくる。
「いこうか。二人だけになれる場所へ」
ルミの耳にキスして水谷はさそった。
雑木林のなかに二人はいる。だが、人の手でつくられた小さな雑木林だ。いつ他人が入ってくるかわからない。人のすくない運動公園ではあるが、林のなかのサイクリングロードを、ときおり人が自転車で通る。ジョギングをしている男女もいる。
ルミはかぶりをふった。言葉をさがした。
「まだ動きとうないんです。ふらふらする。しばらくこうしていたい」
「きみの肌にさわりたいんだ。服をぬがせてキスしてやりたい。体中にね」
ルミの大事なところへあてた掌に、水谷は力をこめた。
ここへキスしたい。告げたつもりだった。ルミはこたえない。抱きついてくる。
右手を水谷はルミの下腹部からはなした。両手で彼女のセーターをたくしあげた。背中とわき腹をなでまわした。掌がよろこびでふるえた。ルミの肌もおなじ状態らしい。二人の肌の無数の細胞が感動で総立ちになり、それぞれ頭をぶっつけあう気配があった。
ルミの体から力がぬけた。ぐったりして体をあずけてくる。その重みを利用して、ルミを抱いたまま水谷は草に腰をおろした。二人は横になった。ほどよく雑草が生えている。そばにある水谷の上衣とルミのブルゾンを敷く余裕もなかった。
水谷はまたくちづけにいった。セーターのなかへ手をすべりこませる。ブラジャーのホックをはずし、ぬきとった。乳房をさぐりにゆく。掌にあまる大きな乳房だった。セーターを思いきってまくりあげる。乳房を口にふくんだ。ふくらみは大きいが、乳頭は丸く小さい。吸いながら水谷は舌で乳首をなぞった。ルミの呼吸がはやくなった。
草と土の匂いがした。頬や首すじに草がふれる。すこし冷たい。水谷は熱くなった。もうあとにひけない。どんなに厄介《やつかい》なことがおころうと、この娘を自分のものにしたい。
たっぷりと乳房を味わった。わきの下やわき腹に舌を這わせた。目をとじてルミは動かない。くちびるがゆるみ、歯がのぞいていた。幸せそうな表情である。
赤いスラックスのサイド釦《ボタン》を水谷ははずしにかかる。手がこわばってうまくいかない。釦はルミの体にほとんど食いこんでいる。やっとはずれた。ルミの腹が動いた。なかへ水谷は手をすべりこませる。なめらかに入った。ショーツのゴムは案外ゆるかった。
ルミの下腹部の草むらに指がさわった。やわらかな草だった。さらに指をすべらせる。ルミは両脚をとじている。やわらかな肉のふくらみをわけて真珠の粒をさぐりあてた。あたたかい湿りのなかにそれはある。
水谷は指を動かしはじめた。手の甲をショーツに圧されて不自由である。ルミは反《そ》りかえった。消えいるような声をあげた。
水谷は右手をぬきとった。スラックスとショーツをひきおろしにかかる。ルミはヒップをもちあげた。スラックスとショーツはひざのうえまでずりさがった。小麦色の腹とふとももがあらわになる。黒い草むらは、ルミの体にふさわしく小さい。
「おしりにゴミがついたわ。せっかくシャワーあびてきたのに」
ルミは笑って自分のヒップをはらった。
弓の練習のあとシャワーをあびてきたらしい。肌がさっぱりしている。
水谷はあらためてルミの乳房を口にふくんだ。右手で彼女の大事なところをさぐりにゆく。こんどは真珠の粒を通りこして、ほそいぬかるみのなかへ指をすべりこませた。やさしく指でかきまわした。ルミは小さくせわしい呼吸をしはじめる。
五分ばかり水谷はかきまわしていた。ついで、あたたかい液を真珠に塗りつける。ルミは声をあげた。かん高くほそい声だった。
感じるわ。感じる。すごくいい。ルミは口走った。体をくねらせはじめる。もっと脚をひらきたいらしい。だが、ずりさげたスラックスのおかげでままにならない。
上下に彼女は揺れはじめた。脚をふんばる。いかにも窮屈そうだ。
「スラックスをとってしまおうか。大丈夫だ。だれもこないよ」
「いや。恥ずかしいわ。このままして。もっとさわって。やわらかくさわって」
ルミはもう夢中だった。水谷が上司であることをわすれ去っている。
なにが恥ずかしいのだろう。大事なところがもうまるみえなのに。水谷は首をかしげた。だが、ゆっくり考えているひまはない。ルミを追いこまねばならない。
右手の指をつかいながら、水谷はルミのヒップの下へ左手をすべりこませた。左の指さきで、あたたかいぬかるみをかきまわした。右手で真珠の粒を責める。急速にルミはみだれはじめた。あっ、あっと声をあげる。
いくう。ルミは呻《うめ》いた。全身を硬くする。反りかえってから、ぐったりとなった。腹が上下に揺れて、しだいに動かなくなる。
雑木林の外で人の声がした。いそいで水谷は上衣をとり、ルミの腹とふとももを覆《おお》いかくしてやる。このままルミを抱くつもりだったが、気勢をそがれた。人は林のそばを通りすぎただけである。それでも、いまルミにのしかかるのは危険すぎる。
ルミは横たわったまま、じっとしている。ねむそうな表情である。林の外の人声がすこしも気にならないらしい。たとえ全裸であっても平気で寝ているだろう。セックスに没入すると、女はなかなか醒《さ》めない。
「風呂へ入りにいこう。やっぱりここでは気が散っていけないよ」
声をかけて水谷は上体をおこした。体のゴミを払い落とした。
ルミは目をあけた。しぶしぶスラックスをひきあげた。立ちあがって、ブルゾンで体をはたいた。急に動作が敏活になる。水谷の腕に腕をからませてきて、あるきだした。
4
タクシーのひろいにくい場所だった。二人はJRの駅に向かってあるきだした。
もう午後五時すぎである。万博公園の遊園地や日本庭園から吐きだされた家族づれで歩道はにぎわっていた。道路には、クルマの渋滞ができている。
ルミは水谷の腕にすがり、ぴたりと身をよせあってあるく。渋滞したクルマの列にそって千メートルばかり二人は歩をはこばなければならない。クルマのなかの人々の視線を、水谷は意識しなければならなかった。
家族づれの花見をやめてよかった。出ていたら、混雑に巻きこまれてひどい目にあっていただろう。クルマの列をながめて、水谷は最初そう思った。
ついで、すこし不安になった。何百台ものクルマのなかに同僚がいないとはかぎらない。ルミと睦《むつ》まじく寄りそっているのをみられたら、困ったことになる。はなれてあるきたい。だが、幸福そうにくっついてくるルミにそれをいうのも可哀相だ。
「よかったわ、きょう弓の練習にきて。課長と会えるなんて思えへんかった」
稽古衣などの入ったバッグを、重そうにルミは揺すりあげた。
水谷が手をだしても、ルミはバッグをわたさない。セックスの陶酔からぬけだすと、水谷を上司として意識しはじめたようだ。
「考えてみると、われわれはふしぎな生活をしているな。会社で毎日顔をあわせているのに、外で会ったのはきょうがはじめてだ。おたがい、好意をもっているのに、知らん顔をしてきたし」
「ほんまですね。きょう偶然会うてなかったら、私と水谷課長はなんにもなしで終ったかもしれへんのやわ。神様に感謝しよう」