話すうち水谷は冷静になってきた。
このまま家へ帰るほうがいいのではないか。そう思えてくる。
ルミを抱きたい。こんな可愛い女の子との不倫のチャンスはめったにあるものではない。すばらしいセックスができるだろう。
だが、いいことばかりではない。ルミは無邪気で、陽気である。しっかりと秘密を抱いていける性格ではない。やがて周囲の噂になる。妻の芳子にもバレるかもしれない。
まだルミと深い仲になったわけではない。いまわかれてかえれば、それきりにできる。無事平穏な生活がもどってくる。よけいな気苦労なしに水谷は仕事に専念できるだろう。そのほうが双方のためだ。
「そうだ。わすれていた。きょうは家に大事なお客があったんだ」
危く水谷は口にだすところだった。
さきにルミが口を切った。思いがけないことをいいだした。
「夏のボーナスのとき、私、またテレビ買います。一台でも売上げに協力したいから」
水谷はびっくりした。
ボーナスの一部現物支給は管理職だけのことだ。一般社員はなるべくボーナスの一部で自社製品を購入するように、と上からいわれているだけである。第一、夏にまた現物支給が実施されるとはきまっていない。
「テレビはきみ、暮に買っただろう。もう一台、必要なのか」
「すぐには要りません。けど、将来必要になるわ。お嫁にいくときに」
「無理することはないよ。いま買ったら、お嫁にいくときはタイプが古くなってしまう」
「いいの。私、お金もったらパッとつこうてしまうほうやから。貯金代りですねん」
ルミは水谷をみあげて笑った。
いまうちの課も大変でしょ。たとえ一台でも貢献したいわ。ルミはつぶやいた。
水谷はルミの肩を抱いた。力をこめた。芳子とはなんというちがいだろう。
駅のかなり手前でタクシーをひろうことができた。近くのラブホテルへ向かった。電車のなかからネオンがみえるホテルだった。
従業員に案内されて部屋へ入った。水谷は浴室へ入った。湯の支度をする。
部屋へもどった。ルミはソファに腰かけてテレビをみていた。となりに水谷は腰をおろした。ルミは向きなおる。水谷は抱きよせた。あらあらしく、くちづけにいった。
「可愛いなルミ。宝物だ、きみは」
すぐに服をぬがせにかかる。
セーターをぬきとった。赤いスラックスとショーツをぬがせる。ルミは全裸になった。
「さっき公園でスラックスをぬぐのを恥ずかしがってたな。どうしてなんだ」
「ああいうの私、弱いんです。脚の短いのが目立つもん。裸になるほうがいい」
ルミはさむそうに身をちぢめた。羞恥心でさむく感じたのだろう。
抱きついてきた。私だけ裸なんですかア。水谷の耳もとで抗議する。両手でネクタイをほどきにかかった。
水谷は立って服をぬぎはじめた。上衣やワイシャツ、ズボンをうけとって、ルミはたたんでテーブルにおいた。パンツと靴下を水谷はテーブルの下へ投げこんだ。
ソファに腰をおろした。あらためて抱きあった。かわいた二人の肌がぶつかりあって甘いひびきを立てる。二人は掌で相手の背中やわき腹をなでさすった。すぐに水谷は乳房へくちづけにゆく。さっきよりも乳房はさらに大きく感じられた。ルミが上体をおこしているからだ。
「いい体をしているなルミ。プリプリしている。青春そのものだ」
「いやあ。私、自信ないわ。短足で」
「ちょうどいいよ。セクシーだよ。あまり長いのは、かえって色気がない」
とくにルミは脚が短いわけではない。日本の女の子としては標準的な体つきだ。
身長のわりに乳房とヒップが大きい。ふとももの肉づきもよい。だから自分ではそう感じるらしい。なやみはだれにもあるものだ。
ルミの左右のふともものあいだへ水谷は手をすべりこませた。女の部分にさわった。こんどは余裕をもってひらかれている。やわらかな肉があたたかく濡れていた。指でしずかにさぐりにゆく。
水谷はルミの右手をとった。自分の下腹部へもっていった。男性にさわらせる。しっとりとルミは握ってきた。ため息をついた。疲れたような、安心したような吐息だった。
濡れたやわらかな箇所を水谷はかきまわした。さらに指をいれてみる。ルミはうっとりしている。真珠の粒を愛撫されたときのような反応がない。ルミの体はまだじゅうぶん成熟していないようだ。
ゆっくり指をひきだした。あたたかい液を真珠の粒に塗りつけてやる。ルミは声をあげた。下から上へ水谷の指が動きだすと、呼吸があらくなった。
ルミも手を動かしはじめた。ぎこちない手つきだった。目をつぶって、顔をあおむけている。ソファの背もたれに体をあずけていた。大きな乳房が突きだされたり引いたりする。脚はしぜんにひらいていた。
「さっきみたいにして。両手で」
あえぎながらルミは要求した。はやくオルガスムスを招きよせたいらしい。
水谷はルミのほうへ体を向けた。ルミのヒップの下に左手をすべりこませる。ぬかるみをかきまわした。右手で真珠の粒をさぐる。ルミの呼吸があわただしくなった。
あっ、あっとルミは声をあげた。さっきよりもするどい声だった。水谷の男性を愛撫する手がとまる。握りしめてきた。どんなに感じているか、手で伝えようとしている。
ルミはさけんだ。あおむいて、あばれた。揺れながらソファからころがり落ちた。グリーンの絨毯《じゆうたん》に横向きに寝る。ねむっているような、おだやかな横顔である。息づかいにつれて、胸と腹だけが動いている。
浴室のほうから水音がきこえた。バスタブに湯がたまったらしい。水の音が厚い。立って蛇口をひねりにゆくのも面倒である。
「さあ、風呂へ入ろう。抱いていってやるからな」
水谷はルミを横抱きにして立ちあがる。
かなり重い。歯をくいしばってあるいた。ルミは目をあけた。うれしそうに笑って水谷の首に両手をまわしてくる。
浴室へ入った。ルミを抱いたまま湯ぶねに踏みこんだ。ゆっくり身を沈める。ルミの体から手をはなした。
5
ルミの体が湯に沈みかける。顔のはんぶんまで沈んで、浮かんできた。顔だけが表面に出て、あとは湯のなかにただよっている。乳首が水面にみえかくれする。下腹部の草むらが海草の小さなかたまりのようだった。
「お尻が重いさかい、浮かばへんわ」
ソプラノでルミは笑った。
口もとにかかった湯を吹いて飛ばした。裸身がまた沈みはじめる。ルミは両手をひらき、ゆらゆらさせて抵抗した。だが、ヒップや足が湯ぶねの底についてしまった。
ルミは水谷と向かいあって湯ぶねにすわった。両手で顔を洗った。笑顔が上気している。小柄な裸身が湯のなかで青白くみえた。ルミは両ひざを立てていた。
ひろい湯ぶねである。二人の体がはなれてしまった。水谷はルミの両足首をつかんでひき寄せる。ヒップを湯ぶねの底においたままルミは前進してきた。水谷は両脚をひらいてひざを立てる。ルミの足が、水谷の男性にさわった。足は固かった。水谷は、両脚でルミの体をはさみつける。
「私、人に抱いて運んでもらったの、子供のとき以来やわ。お父さんのこと思いだした」
「思いだしたって、きみ、お父さんはまだ元気なんだろう」
「元気でーす。最近景気がわるうてたいへんなんやて。いつもバタバタ貧乏」
ルミの父親は小さな印刷所をやっている。
不況はどこもおなじらしい。ろくに団欒《だんらん》のひまもないようだ。P電器のような大企業の社員がうらやましい。ルミの父親はそうボヤいているという。
「他人の花は赤くみえるからな。おれなんかきみのお父さんがうらやましいよ。小さくても経営者だ。なんでも自由にできる」
「ダサいですよう。きたない事務所で埃《ほこり》かぶって。やっぱり課長のほうがいいわ。高級な仕事してはるもん。私、課長が会議室から出てきたり、部長なんかとむずかしい話してはるとこが好き。あこがれてました」
ルミは水谷の手をとって頬ずりした。
彼女の足が水谷の男性にさわった。さっきよりつよく押してくる。ルミは水谷の手指に歯を立てる。身ぶるいした。こんどは両手で水谷の手をとってくちづけする。
水谷はルミの女の部分に手をのばした。湯とは異質の、やや密度の高い液にそこは覆われている。さっきとはまったくちがう手ざわりだった。真珠の粒を指でさぐる。ルミは顔をしかめた。口をあけて身をよじる。
「やめて課長。またいってしまう」
「いいじゃないか。何度でもいけよ」
「いや。こんどは私がしてあげたい。課長に感じさせてあげたいわ」
ルミは水谷の男性をとらえた。
手を動かした。正面から向かいあっているので、うまくいかない。とつぜんルミは湯のなかへ顔を突っこんだ。男性にキスしにくる。すこし吸っただけで顔をあげた。
深い海の底から海面へうかびあがったような表情である。頭をふって水滴をはじきとばした。片手で顔をふいた。片手でまだ男性をとらえている。
「大丈夫か。髪が濡れただろう」
「キスしたい。ねえ、させて。たべたい」
ルミは男性をひっぱった。泣きそうな顔で駄々をこねる。
水谷はまっすぐ湯ぶねの底に両手をついた。ひっぱられるにまかせる。あおむけに体が浮きあがった。男性が水面のうえに突き立った。そばにルミの顔があった。彼女の両肩に水谷は脚をのせる。頭と男性をのぞいて、体は湯のなかにあおむけにただよった。
ルミは顔をかがやかせた。男性を手でおさえる。キスしてから口にふくんだ。目をとじている。顔をしかめてつよく吸った。上下に頭を動かしはじめる。
快感が水谷の体に流れこんでくる。全身がゆらゆらと湯にただよう。ルミは上手ではなかった。しゃぶったり、頭を動かしたりするだけである。だが、一心に奉仕する表情がたまらなく愛らしい。ながめていると、水谷は心も体もうっとりとなった。
あたたかい湯に全身が溶けてゆきそうである。毎日のきびしい商戦のストレスは、急速に溶けていった。最高だよルミ。水谷はつぶやいた。ときおり足を湯ぶねの底につけて、沈みかける体をささえる。
快感が濃厚になった。発射のポンプが作動しはじめる気配を水谷は感じる。息苦しくなった。湯から出入りするルミの大きな乳房をみていると、いっそう耐えがたくなる。
「もういいよ。ルミ。ありがとう」
呻くように水谷はいった。
ルミはかぶりをふった。頭を動かしつづける。水谷が悶《もだ》えると、ルミは上目づかいに観察していた。得意そうな目の色である。入社二年目の女の子にとって、課長は雲の上の存在だろう。その課長をこうして子供みたいによろこばせている。そんな意識でルミは勝ち誇っているようだった。
水谷はおおげさに悶えた。呻き声をあげた。いまにも終ってしまいそうだと口走った。じっさいはまだ余裕がある。ルミをよろこばせるため、そういったのだ。すると甘えた気分が湧いてきた。よろこびが増した。二十歳そこそこの女の子の手管《てくだ》でのたうちまわっている。その意識が意外な快楽であった。
しばらくおおげさに悶えたり、言葉で訴えたりした。快感は耐えがたいほどになった。
「ああ、ゆるしてくれルミ。もうだめだ。やめてくれ。終ってしまいそうだ」
芝居がかった口調で水谷は訴えた。まんざら演技でもなかった。
ルミは男性から顔をはなした。夢中になって抱きついてきた。ふるえている。物もいえない。歯がカチカチ鳴った。雲の上の男が悶える姿をみて、極度に昂奮したようだ。
「うれしい、課長。私うれしい」
しがみついてくる。ほかにどうすればいいのかわからないようだ。
ルミを抱いて水谷は立ちあがった。こんどはたてに抱きあげた。湯ぶねから出る。暑くてたまらない。タイルのうえにルミを寝かせた。両脚をひらかせ、あいだへ這いこんだ。投げだされたルミの脚は、彼女のいうとおりすこし短い感じだった。
ささやかな草むらの下の、女の秘密の花に見入る。花びらは、うすいくちびるを立てたようなかたちだった。ぜんたいに小造りである。愛らしくひらいている。くちびるのあいだに小さな暗がりがあった。透明な液がそこからあふれ出る。赤ん坊のよだれのようだ。
水谷はそこへ顔をふせていった。舌をおどらせた。つよく吸った。暗がりをさぐったり、花びらをかるく噛んだりする。くちびるで真珠の粒から暗がりにかけて、まんべんなく摩擦する。力をこめてそれをやった。ていねいにつづけた。
最後に敏感な真珠の粒をしゃぶった。高い声でルミは泣いた。大きく両脚をひらき、ひざを折って立てている。腹が上下に波打った。やがて脚をばたつかせた。ぐったりとなった。
水谷はくちびると舌による愛撫を再開した。下地ができている。たちまちルミは快楽の坂を駈けのぼってゆく。水谷は花びらのあいだの暗がりと、うす紫色のアヌスに人差指と中指をすべりこませた。真珠の粒を吸いながら、指で円を描いてやる。たちまちルミは二つ目の頂上にたっした。大きな声でさけんでから、手で秘密の花を覆いかくした。これ以上の快楽に耐えきれないらしい。
水谷ももう抑制の限界にきていた。ルミの体を裏返しにする。ルミは這ってヒップを高く掲げた。両肘をタイルについて上体をささえている。
体のわりに大きなヒップだった。みごとな水蜜桃のように盛りあがっている。合せ目は細い。一本の筋である。水谷はヒップを抱きよせて、男性を秘密の花へおしあてる。すべりこんだ。ゆっくりと動きだした。
甘ったるい快感が男性をしめつけてくる。浅い部分がとくに窮屈な感じがする。彼は動きつづけた。頭をたれてルミはじっとしている。ルミはまだじゅうぶん成熟していない。体のなかで、あまり快楽を感じないらしい。水谷にはそれがわかっていた。
水谷はルミの下腹へ手をまわした。指で真珠の粒をさぐった。強目にクリクリところがした。しばらくすると、ルミは声をあげた。感じる。いきそう。率直に告げた。
ルミのヒップが固くなった。男性をしめつけてくる。水谷は耐えきれなくなった。ルミが呻いて突っ伏すのと同時に、彼も目のくらむような黄金色の光のなかへ墜落した。
6
絶対にごめいわくかけません。最初のデートのとき杉村ルミはそういっていた。
ほんとうだった。職場でのルミの態度に以前と変ったところはなかった。
朝はきちんと挨拶する。なれなれしいそぶりはみせない。たまに仕事のことで水谷が声をかけると、無邪気な笑顔でこたえる。
上気して、真剣な面持で端末機に向かいあったりワープロを打ったりしている。水谷のほうへ視線を向けることもない。水谷のほうがデスクワークのあいま、課の末席にいるルミへぼんやり視線を向けていて、はっとわれにかえったりする。
毎日、ものすごく多忙である。水谷は課員の先頭に立って、販売店の尻をたたいてまわる日が多い。つぎつぎに新しい問題が発生する。一つをかたづけると、すぐつぎに取組まなければならない。際限もなく突きつけられる請求書に、際限もなく支払いをつづけるような生活である。おびただしい請求書がひらひらと視界を舞っている心地になる。
その白い乱舞のなかに、杉村ルミの姿が急に入ってくることがある。小きざみに歩をはこんでキャビネットに近づいたり、お茶をはこんだり、席をはなれている課員を呼びにいったりする。あかるい顔だった。まったくこちらをみないので、かえってルミが水谷をつよく意識しているのがわかった。
水谷はやさしい感情にひたる。起伏のはっきりしたルミの裸身が、ユニホームを透してうかびあがった。可愛いヒップを高くあげて這《は》った姿もうかんでくる。きびしくあわただしいビジネスと、敵なのか味方なのかわからない人間関係のなかで、ルミの姿だけが安らぎだった。禁断の木の実なだけ、その味わいも甘美である。
金曜日になった。はじめてのデートから約一週間たっている。きょうはルミと会う約束になっていた。すぐ近くの高層ホテルのダブルベッドの部屋を予約してある。夜景をたのしみながら、ルミにデラックスな夢をみさせてやりたい。
朝から水谷は猛烈に働いた。夕刻何時に仕事が終るか見当もつかない。ルミは終業後さきに部屋で待っていることになっている。一刻でもはやく仕事をすませて、夢の部屋へ駈けつけたい。
だが、おそれていた事態がやってきた。午後三時ごろだった。部長から会議の招集がかかった。午後六時からだという。部の課長が全員あつまる厄介な打合せ会議だった。午後十時ごろまでかかるのが通例である。
水谷はオフィスを出た。自社ビルの一階の公衆電話でルミに連絡をいれた。
「まいったよ。六時から会議なんだ。おそくなる。デートは来週にしよう」
「そんな——。このまえからもう一年もたちましたよ。待ちくたびれたわ私」
くぐもった声でルミはこたえた。掌で口もとをおさえている。
「私、部屋で待ってるわ。いけませんか」
ルミは涙声だった。水谷は胸をつかれた。
待ってもらうことにきめた。五時すぎ、水谷はホテルにチェックインする。部屋で落ちあう。ルームキーを彼女にわたしてから、会社へもどって会議に出る、そう約束した。
午後五時になった。仕掛りのデスクワークをかたづけてから水谷は席を立った。ルミはなに食わぬ顔で仕事をつづけている。うしろを通るとき、水谷はルミのヒップにさわった。ヒップの固くなるのがわかった。
都市ホテルへ水谷は入った。チェックインする。二十階の部屋だった。すぐにルミへ電話をいれて部屋番号を伝える。
「すぐいきます。大いそぎで」
ルミははずんだ声でこたえた。
ベッドにひっくりかえって水谷は待った。キスをして、かるくルミの体にさわって会社へもどるつもりである。胸がおどった。現代の最尖端のデートではないかと思う。
ルミはなかなかあらわれない。いらいらしてきた。五時半がすぎ、四十分になった。もう会社へもどらねばならない。ペッティングするひまがなくなってしまう。
ようやくルミがあらわれた。紙袋をさげている。待ってるあいだ、おなかが空くといけないから食料を仕入れてきたという。
「バカだな、ルームサービスをとればいいのに。部屋のツケで、レストランで食事してもいいんだぞ」
「そんなんようしません。高価《たか》いのに」
ベッドのうえにルミは紙袋をおいた。
水谷はルミを抱きよせる。ルミはとびついてきた。むさぼるようなキスになった。たちまちルミは呼吸がはやくなる。立ったまま、眠ったような顔であえぎはじめた。
「会いたかったわ課長。すごく会いたかった。毎日顔をみるだけなのがつらかったわ」
「おれもそうさ。じりじりしていた。ルミがいるとはげみになるよ。よく働いた」
「ああ、会いたかった。頭ではがまんするけど、体がいうことをきかへんのです。抱いてほしかったわ、毎日」
一人前のことをルミはいった。あえぎながら、体をくねらせる。
水谷は下腹部に快感をおぼえた。ルミの手がズボンのまえにのびてきている
さきを越された。水谷はいそいでルミのスカートのなかへ手をいれた。ルミはスカートをたくしあげる。自分でパンストとショーツをひざまでひきおろした。
ルミの下腹部の草むらに水谷の指はさわった。真珠の粒をさぐりあてる。その下方にあたたかい液があふれている。指をつかいながら水谷は腕時計をみた。五時五十分だ。十分の遅刻を決心する。
「五分しかない。ルミ、いけるか」
「いける。いける。クリクリして。すぐいくから、もっと」
あたたかい液を真珠に塗りつける。やさしく、あわただしく指をつかう。
あっ、あっとルミは声をあげた。体を揺する。いそいでいた。いそぐときにはいそいで満足できるもののようだ。
たちまちルミは頂上へ駈けのぼった。両手で水谷の腕をつかみ、のけぞって痙攣《けいれん》する。そのまま水谷の足もとにくずれ落ちた。
「いってらっしゃい。おそくなるわ。私のこと気にせんでもいいんですよ。お風呂入って、テレビみて待ってますから」
うずくまったままルミはいった。
水谷はルミを立たせてベッドに腰かけさせる。ルミの頬にキスした。
「終ったらすぐくるよ。待っててくれ」
立ち去ろうとする水谷をルミはひきとめた。紙袋から包みを一つとりだした。
「あるきながらたべて。おなか空くでしょ」
うけとって水谷は部屋をあとにした。
大いそぎでホテルを出た。あるいて会社へもどった。オフィスへかえってみると、課長たちが会議室へ向かうところだった。定刻よりややおくれて会議ははじまるらしい。
ルミからもらった紙包みを水谷は机のひきだしにいれた。紙包みをひらいてみた。お好み焼きだった。大きなやつである。洋皿にあふれそうなやつが重々しくひろがる。
むしって一口頬張った。
「現物支給だな。尖端企業の現物支給」
また一口頬張った。噛みしめる。
勇気がわいてきた。書類をかかえて、水谷は会議室へ入っていった。
(第五話 了)
第六話 ベッドルームの情報
1
二月の午後五時半だった。
立ちならぶビルから大勢の人々が吐きだされて、肥後橋駅のほうへあるいてきた。渡辺橋をへて梅田方面へ向かう者も多い。
中之島のビル街は、家路をいそぐ人々でにぎわいはじめていた。談笑しながら渡辺橋をわたる男たちは、北新地の酒場や小料理屋で一杯やるか、麻雀屋へ入るかのどちらかなのだろう。かるい足どりの女の子は、いまからデートなのだ。
風が冷たかった。だが、一日の勤務から解放されて、だれもがほっとした表情である。いそいでビル街からはなれようとしている。自分自身の生活がいまからはじまるのだ。
藤井克雄は朝日新聞社ビルの近くに立っていた。筋向いのフェスティバルホールのほうをながめるポーズである。目は地下鉄の通用口を見張っていた。義務感と期待感のまじりあった複雑な気持だった。
会長秘書の沢田敦子は地下鉄で通勤している。すでに二度、藤井は敦子といっしょに食事をした。きょうこそ二人の仲を決定的なものにしなければならない。ただのガールハントではなかった。この情事には、P電力の社員としての藤井の将来がかかっている。失敗はゆるされないのだ。
藤井克雄は三十五歳。従業員約二万五千名の巨大企業、P電力の本社企画部勤務である。ポストは副長(課長代理)だった。同期生のなかではまあ順調にきたほうだ。ここでうまくやれば、確実にトップに立てるだろう。
ことしになってすぐ、藤井は立地部の矢島部長から声をかけられた。久しぶりで一杯やろう。思いがけない招待だった。
よろこんで藤井はさそいに乗った。矢島部長は取締役である。仕事に直接関係がないので、めったに口をきく機会もない相手だ。だが、以前彼のもとで働いたことがあるので、気心は知っている。郷里がともに島根県。出身大学も同じである。矢島部長は目をかけてくれているようだった。
「じつは大事なたのみがあるんや。きみ、オフィスラブをやってくれんか」
北新地のある小料理屋の一室で、藤井は矢島部長にそういわれた。
わけがわからなかった。藤井にはもちろん妻子がいる。オフィスラブを咎《とが》められるのなら、話はわかる。だが、逆に奨励された。いったいどういうことなのか。
「相手は秘書室の沢田敦子。杉本会長を担当している。美人やで。顔をみたら、きみもたちまちファンになるはずや」
「待ってください。くわしく説明してくださいよ。なんのためにそんな——」
「沢田敦子と親しゅうなって、情報をとってほしいんや。どんな情報かはあとで話す。まず敦子をモノにしてくれ。もちろん極秘や。必要な経費はなんぼでも出すから」
矢島部長は真剣だった。
こうして話した以上、拒否はさせんぞ。そんな圧力が顔にみなぎっている。
「きみを見込んでたのんどるんや。男っぷりといい話術といい、きみならうまくやれる。もし失敗してもペナルティはない。成功したら、きみの将来はわしが太鼓判をおすぞ」
たのむ。ひきうけてくれ。社のためにあえて手を汚してくれ。矢島部長は畳に両手をつかんばかりだった。
わかりました。やってみます。藤井はひきうけた。賭けてみることにした。
P電力には中高年の社員がひしめきあっている。とくに本社の主要ポストは年功序列のもとにある。よほど努力しないと上層部へ這《は》いあがれない。ここは一つ矢島部長に協力して、昇進の突破口をひらくべきだ。
数日後、藤井克雄はなにくわぬ顔で沢田敦子へ接近した。通勤電車のなかで、偶然会ったふりで話しかけた。うまく敦子の警戒心を溶かすことができた。二度、いっしょに食事をした。そろそろ勝負のときがきたのだ。きょうも昼間矢島部長と廊下で出会って、
「例の件、たのむぞ。いそいでくれ。事態は切迫してきたんや」
と催促された。上層部の権力争いが、深刻になっているらしい。
地下鉄駅の乗降口のそばで、十五分ばかり藤井は待った。やがて、人の流れのなかに沢田敦子の姿があらわれた。うまい工合に敦子は一人である。背すじをしゃんとのばした、活溌な足どりでこちらへやってくる。
何秒か藤井は敦子に見惚《みほ》れた。澄みわたった感じの、聡明そうな顔立ちである。背が高い。美しい脚をしていた。あの娘と腕を組んで御堂筋をあるいたら、どんなにすばらしいだろう。男ならだれでもそう思うはずだ。
すぐそばへ敦子がやってきた。藤井は出ていって、肩をならべてあるきだした。
「いやあ、どうしたんですか、急に」
あかるい声で敦子は訊いた。
会社のそばで馴れ馴れしくするのはまずい。あるきながら小声で話した。
「待ちぶせしていたんだ。会議の予定が流れて、とつぜん時間が空いた。たちまちきみと会いたくなった。食事、つきあってくれ」
「はい。でも、いいのかなあ。妻子ある男性にそんなにたびたびごちそうになって。私、心配になってきます」
「大丈夫だよ。きみと食事するだけでうれしいんだから。中年のおじさんの心境ですよ。きみは杉本会長の秘書だ。おっかなくて、軽率に口説《くど》いたりはできないよ」
「それをいわれると弱いわ。会長秘書をしているばかりに男性から敬遠されてばっかり。おかげで行き遅れになりました」
藤井はタクシーをひろった。
大阪城公園のそばにあるNホテルへ向かった。予定の行動である。敦子をモノにするためのお膳立てはととのえてあった。
二十分後にホテルへ着いた。二人は最上階のレストランへ入った。窓ごしに大阪城や街の夜景をたのしめる店である。窓ぎわの席について、敦子は感嘆の吐息をついた。
白にブルーの草花をあしらったスーツを敦子は着ている。服にあわせて白ワインをとることにする。シャブリの特級をたのんだ。料理は魚を中心のメニューにする。
軍資金の心配はない。いくらでも贅沢《ぜいたく》ができる。誘惑に失敗すれば経費を請求しにくくなるだろうが、べつに心配していなかった。女は贅沢に脆《もろ》い。すぐにくずれるだろう。第一、好意を抱いてない相手と、二度も三度も食事するはずがないのである。
ワインで乾盃した。とりとめない会話をたのしみながら、料理を味わった。
敦子はうれしそうだった。会長秘書といっても、それは会社にいるときだけのことだ。料亭やレストランにお供するチャンスはめったにないらしい。たとえあったとしても、相手は六十代なかばの老人である。藤井のような若い男とこうした時間をもつのは、敦子には新鮮な経験なのだった。
「ほんとうにきみ、恋人はいないの。信じられないなあ。P電のトップという大権力者に密着しながら、私生活は案外まずしいんだ」
「さびしいんですよ。たまに若い男性と接触するチャンスがあっても、なんか物足りなくて深くつきあう気になれへんのです。会長にしても社長にしても、お年寄りやけど人間としての迫力がすごいでしょう。つい比較してだめになるんです」
沢田敦子は二十八歳だという。
大卒で入社し、すぐ秘書課へ配属された。常務秘書から会長秘書になった。仕事がおもしろい。いつのまにか月日がたった。
同世代の女性よりもめぐまれた立場にいることは自覚している。だが、華《はな》やかな思い出をつくるひまもないまま、青春を浪費している焦燥にもかられるという。
「きみの青春を無駄にしないよう協力します。ときどきこうやってデートしよう。きみに恋人ができるまで、おれ、エスコートする」
「ありがたいわ。でも、エスコートだけで済まなくなるときがくるでしょう。そうなったら困るなあ。不倫はしたくないし」
「さきのことを考えたって仕方がないよ。実るにしろ実らないにしろ、男と女はなるようになるんだ。たとえ実らなくても、おれ、後悔しないよ。きみと会っているだけでたのしいもの。こんな気持になるのは久しぶりだ」
いい雰囲気になってきた。
敦子はすこし赧《あか》くなった。目がうるんで、表情はなごやかである。警戒心がすこしずつ溶けてゆく気配である。
藤井はどんどんワインをすすめた。自分は控えるようにした。顔が赧くなってはいけない。酔えば仕事にならなくなる。
2
食事が終った。午後八時すぎだった。
二人はレストランを出た。沢田敦子はかなり酔っている。
赧くなって、恥ずかしそうにしていた。片手で頬をおさえながらあるいた。
「まだ早いね。ミナミに本場のブラジルの踊り子のすごいショーをやっているナイトクラブがあるんだ。いってみないか」
「いきたいわ。けど、おそくなるとあしたがつらいですから。金曜日の晩つれていってください。金曜やったらゆっくりできます」
杉本会長は朝がはやい。午前八時すぎには会長室へ入っている。
P電力の場合、会長はお飾りではない。代表権をもって君臨している。重大事項の決定にあたっては、社長よりも発言力が大きいくらいだ。社員よりもはやく出社して号令をかけないと気がすまないのである。
沢田敦子の家は西宮にある。通勤に約一時間かかる。会長よりさきに出社するためには、七時に家を出なければならない。おそくまであそんでいられないのは事実だった。
「そうか。では金曜のデートをたのしみにしておこう。でも、まだ八時だよ。ラウンジでくつろぐことにするか」
藤井は敦子をつれてラウンジへ入った。
敦子のためにワインのハーフボトルをとってやる。こんどは赤にした。ボージョレである。自分はビールをとった。運転があるので飲めないと説明する。
「へえ、クルマできてはったんですかあ」
敦子はけげんそうな面持《おももち》になった。だが、あれこれ質問はしなかった。
一時間ばかりそこで飲んだ。親しみは深くなった。敦子は酔って、うっとりしていた。
「あーあ、まだかえりたくないなあ。こういうときは仕事が呪《のろ》わしくなってくる」
ねむそうにシートへ体をあずける。
全身から甘い色香が立ちのぼった。敦子のように知的な雰囲気の女が酔うと、逆にすばらしく色っぽくなる。スーツを透して白い大柄な裸身がうかびあがるようだった。
藤井は欲望にかられた。もう特命事項によるデートではない。たとえいま矢島部長からストップがかかったとしても、敦子をぶじにかえす気にはなれないだろう。
「仕方ないさ。おたがい宮仕えなんだから。金曜をたのしみにして、きょうはおとなしくかえろう。ちゃんと送っていくから」
午後九時になった。二人は席を立った。
敦子は足もとがあやしくなっている。腕をとって藤井はささえてやった。
敦子はいそいで腕を藤井の手からぬきとった。まだ警戒心がのこっている。が、すぐに藤井の腕をとりにきた。
「ワインってようまわりますねえ。口あたりがいいから、つい飲みすぎるわ」
ねむそうな声だった。
また藤井は欲望にかられた。敦子は背が高い。ならんであるくと、身長百七十七センチの藤井の頬のすぐ横に彼女の髪がくる。敦子の上半身が、藤井の顔へせまってくる感じがある。甘い迫力があった。
女といっしょにあるいて、めったに味わったことのない感覚である。服をぬいだ敦子の姿が、藤井の脳裡から消えなかった。
エレベーターで一階へおりた。二人はホテルの正面玄関へ出た。
「ここで待っていなさい。クルマをもってくるから」
ささやいて藤井は敦子からはなれた。
ホテルの駐車場に愛車のゴルフがおいてある。昼のうち、停めておいたのだ。ついでにダブルベッドの部屋を予約しておいた。計画は順調に進行している。
ゴルフを運転して、藤井はホテルの玄関へまわった。助手席に敦子を乗せる。
「どうしたんですか。クルマ、ここにおいてあったんですか」
シートにもたれて敦子は訊いた。どうでもよさそうな質問だった。
「おれはサンデードライバーでね。通勤は電車だけど、たまにはクルマを使う。昼間この近くの会社へ用があってきて、めんどうだからそのまま停めておいたんだ」
高速道路にクルマを乗りいれた。
大阪市の中心部を一周して西宮、芦屋方面へ向かうコースをとる。敦子は方向をたしかめたあと、安心して目をつぶった。
しばらく走った。カーステレオのスイッチをいれる。甘い音楽が車内に流れた。待避線へ藤井はクルマを停める。敦子の肩へ腕をまわした。やさしく抱きよせる。
「やっぱりこうなの。こうなるのね」
ねむそうに敦子はいった。じっと藤井をみつめてから目をつぶった。
敦子のくちびるへ藤井はくちびるを重ねあわせた。しずかに舌をからませにいった。敦子は弱い声をもらした。舌をさぐられるにまかせる。かすかな甘味のある唾液を藤井は吸った。敦子の呼吸がはやくなった。
キスを終えた。藤井は敦子を抱きしめた。敦子は呼吸をおさえかねている。体の力をぬいて、藤井にもたれかかってきた。化粧品の香りがした。敦子の肌が香りを立てているようだった。