藤井は敦子の胸をさぐった。ふくらみはそれほど大きくない。ブラジャーの固い手ざわりがわずらわしかった。敦子はじっとしている。藤井はブラウスの前釦《ボタン》をはずしにかかった。
「だめよ。誘惑しないで。私、不倫はいやなの。恋愛をしたい」
「恋愛じゃないか。ほかのことはどうだっていい。きみが好きなんだ。会社をクビになってもいい。目いっぱいきみを大事にしたい」
ブラジャーのホックをはずした。
手で乳房をひきだした。吸いにいった。かたちのよい、愛らしい乳房だった。敏感である。乳首を舌でなぞると、敦子は甘い声をもらした。体に力がこもる。左右を代る代る愛撫するうち、藤井も全身が熱くなった。
スーツの上衣とブラウスを、藤井は剥《は》ぎとった。上半身裸になって、敦子はシートにもたれている。そばを通るクルマのライトが、敦子の体を照らしたり、闇に沈めたりする。あらためて藤井は乳房を愛撫する。肌の香りとぬくもりを吸いこんだ。
敦子の呼吸がさらにみだれた。息づかいに甘い声がまじるようになった。藤井はスカートのうえから、敦子のふとももをなでさすった。肌にさわりたくていらいらする。手をふとももの内側へもっていった。
敦子は両脚をとじた。乳房を吸いながら、藤井は手をこじいれてみる。抵抗したが、敦子は途中であきらめた。双つのふとももが一つに合流する箇所へ藤井の手はたどりついた。ゆっくりと、だが、執拗になでさする。掌に力をこめる。スカートと下着の不粋《ぶすい》な壁を乗りこえて、敦子の秘密の部分の感触が掌につたわってきた。
「どこか——。どこかへつれてって」
あえぎながら敦子はささやいた。
ときおりぴくりと痙攣《けいれん》する。吐いてしまいそうにみえる。
「わかった。ホテルへもどろう」
ブラウスと上衣を藤井は着せてやる。
敦子はブラジャーをバッグにしまった。夢からさめたような面持で外をみている。
藤井はクルマを発進させた。片手でハンドルを握り、片手で敦子のひざをつかんでいる。敦子の気が変るのではないか。不安のあまり、ひざから手をはなせない。
ホテルへ着いた。クルマを停めて、二人はあらためてくちづけをかわした。
3
二人はホテルへ入った。
沢田敦子を待たせておいて、藤井はフロントのカウンターへいった。
ダブルベッドの部屋を予約してある。チェックインした。敦子の腕をとってエレベーターに乗りこんだ。うつむいて敦子は藤井にもたれかかっている。息づかいがすこしみだれているのがわかった。
十八階でおりた。部屋はエレベーターのすぐ近くだった。さきに敦子が部屋へ入った。
二人きりになった。うしろから藤井克雄は敦子の肩に手をかけた。こちらを向かせてくちづけしようとする。
敦子はふりむいた。微笑んで藤井の手から逃れた。バスルームへ入っていった。藤井は上衣をぬいでベッドに腰をおろした。
もう大丈夫である。九分どおり目的は達成した。情事の支度をしなければならない。藤井はBGMのスイッチをいれた。窓のカーテンをしめる。部屋のあかりを調節して、黄昏《たそがれ》のような雰囲気をつくった。
バスルームからシャワーの音がきこえてきた。敦子のほうも情事の用意をはじめている。藤井は心臓がドキドキしてきた。敦子を誘惑するよう命じた矢島部長に感謝したい気持が湧いてくる。あの命令がなければ、いろんな危険をおかして敦子に接近するなど、不可能だったにちがいないのだ。
部屋の雰囲気をつくったあと、藤井は冷蔵庫からウイスキーのミニボトルをとりだした。ボトルは二本あった。水割りにして、ベッドのうえで飲みはじめた。
食事のあいだ、酔わないよう自制して酒をひかえてきた。やっと好きなように飲める。ゆっくりと味わった。テレビをみると気が散ってしまう。BGMに耳をかたむけた。
やがて、バスルームの扉があいた。沢田敦子が出てきた。裸身にバスタオルを巻いただけの恰好である。かたちのいい、ながい脚がうす暗いライトの底に立っている。
「暗くしてくれはったん。ほっとしたわ」
室内をみまわして敦子はため息をついた。ベッドへきて、腰をおろした。
藤井は上体をおこした。代ってシャワーをあびにゆくつもりだった。だが、敦子の肩や腕のしっとりした肌が目に入ると、ベッドをはなれるのが惜しくなった。
敦子の肩に腕をまわした。ひきよせてくちづけにゆく。しずかに敦子は応じた。クルマのなかでキスしたときほど、みだれた様子はない。キスのさきの段階へ心が向いているせいだろう。
「きれいだな、きみは。こうして暗がりでみると妖精のようだ。人間とは思えない」
「そんな——。女ですよ私。ちゃんと肉体があります。熱い血がかよっている」
「それをたしかめさせてもらうよ。妖精の体というのがどんなものか」
藤井は敦子の耳や首すじにキスを這わせた。そうしながらバスタオルを剥ぎとった。
目をとじて敦子は体をすぼめた。そのままもたれかかってくる。藤井は敦子をベッドにあおむけに寝かせた。みごとな裸身が、夢のように、目のまえに横たわった。
乳房に藤井はくちづけにいった。そんなに大きくはない。やさしく盛りあがった乳房である。乳首が丸くて固い。宝石のようだ。
舌さきでなぞっても、敦子はあまり反応しなかった。吸ってみると、ゆっくり息を吐きだした。人差指と中指で乳首をつまみ、親指で圧してみる。敦子はかすかに声をもらした。かたほうにキスしながら、かたほうで藤井は乳首を揉《も》んでやる。交互につづけた。敦子の呼吸がしだいに大きくなる。呼吸のたび、体に力がこもってはゆるむ。
藤井はスーツの上衣をぬいだだけである。シャツもズボンも身につけている。敦子だけが全裸である。それが刺戟的だった。
乳房からわき腹、腹とキスを這わせながら、藤井は敦子の裸身に見惚れた。しっかりした肩をしている。胴や腹の肉づきにはすこしも無駄がなかった。ふとももにはたっぷり肉がついている。たくましいくらい、量感があった。そして、ひざから下は優雅な線のもとでのびきっていた。
淡いあかりのもとに横たわる敦子。藤井はうっとりとなった。大柄なのに、一分の隙《すき》もない裸身である。オレンジ色のあかりに照らされているおかげで、敦子の体にはなまなましい感じがなかった。ほんとうに妖精のようだった。美術品をながめるような感動にとらわれて、欲望は二の次になりそうである。
敦子の腕や腋《わき》に藤井は鼻を近づけた。肌の香りを吸った。仄《ほの》かな苦《にが》みのある香りが、しずかに鼻孔へ入ってきた。おかげで藤井は獣の衝動にとらわれた。敦子の腋に鼻をよせたまま、手を下腹部へのばした。
草むらは多くもすくなくもない。そこを越えて、やわらかな肉のふくらみを指でおしわける。あたたかいぬかるみに指が沈んだ。内部へ吸いこまれるような感じがある。
敦子はあごをあげてのけぞった。甘い声をあげた。その表情をながめながら、藤井は指で敦子の内部をさぐりにかかる。やわらかな、厚い肉が指にまとわりついてきた。大柄な女体なのに、内部はせまい。上品なセックスだと藤井は思った。
「きれいだな、きみは。顔も体もきれいだ。とても清潔な感じがするよ。そのくせ色気がある。すごい色気が」
藤井はささやいた。
敦子は目をとじ、眉をひそめていた。かるく口をあけている。呼吸をころして、あえいでいた。こたえる余裕がないようだ。
藤井は指を敦子のぬかるみの表面に這わせた。あふれでる液を、敏感な真珠に塗りつけてやった。敦子は息を吸いながら、体をふるわせはじめる。大きく吸っては、小さく吐きだした。吸うことで快楽を濃くしようとしている。
藤井は指の動きをあわただしくした。たてに動かしていた指で真珠の粒をころがすようにする。左手をヒップの下へこじいれて、ぬかるみの部分をさぐってやった。
敦子は声をあげた。目をあけて天井をみている。とまどったように藤井をみつめる。微笑んでみせて、藤井は両手を動かした。真珠とぬかるみを同時に刺戟する。
ああ、ああ、と敦子は声をあげた。こまかく体をふるわせはじめた。
「はじめてやわ。こんなん、はじめて」
「感じるか。ちゃんと感じているか」
「ああ、ああ。はじめてやわ。こんなふうにされたのって——」
急に敦子は悲鳴をあげた。
あえぎはじめた。藤井の左掌におしつけられた敦子のヒップがすぼまったり、ゆるんだりする。また彼女は悲鳴をあげた。全身を硬直させて、動かなくなった。
藤井はびっくりした。指をすこしつかっただけで、敦子はオルガスムスにたっした。ふだん一分の隙もないようにみえる会長秘書が、意外にゆたかな性の感性をもっている。企業トップという名の老人たちへ奉仕するだけの日々に、やはりみたされないものがあるのかもしれない。
「両手でさわられたのははじめてなんだな。気にいったか」
藤井は敦子の顔をのぞきこんだ。
敦子はうなずいた。藤井はまた敦子の女の部分へ指を這わせにゆく。
両脚を敦子はとじた。横向きに寝る。藤井のネクタイをひっぱった。
「私だけ裸やなんていや。藤井さんも服をぬいでください。肌にさわりたい」
敦子は上気して赧くなっている。
もう体の関係ができたのとおなじだ。口調に甘えた感じがあらわれている。
「いいよ。ついでにシャワーをあびよう」
藤井はベッドからはなれた。
バスルームのそばで服をぬいだ。裸になって、バスルームへ入った。
4
手ばやく藤井は体を洗った。バスタオルを腰に巻いて外へ出た。
部屋がすこしあかるくなった。バスルームの扉をあけたままにしたからだ。
敦子は胸まで毛布で覆《おお》ってベッドに横たわっている。コーラの缶がそばにあった。酔いざましに飲んだらしい。
藤井はベッドにのぼろうとした。あわてて敦子が制止した。
「だめよ。体が濡れてるやないの。さ、向うむいていなさい」
敦子はベッドのうえでおきあがった。
藤井をうしろ向きにさせて、腰のタオルを剥ぎとった。背中や尻を拭いてくれる。ついで正面を向かせた。藤井のわき腹や腹を拭いた。
藤井の男性には力がみなぎっている。敦子の顔のそばへそれは突き立っていた。敦子は顔をそむけてタオルを使っている。
「おれのどう思う。立派か」
「わからへん。比較できるほどたくさん知らないから」
「比べなくてもいいさ。きみのみた感じ、ストレートにいってごらん」
「すごく力づよい。大きいわ。それから、美しい感じもある」
ベッドのそばに立ったまま、藤井はさらに男性を突きつけた。
ゆっくりと敦子はそれを手でとらえた。目は藤井をみつめつづけている。敦子は指に力をこめてきた。藤井は敦子の髪をつかんで、男性に顔をひきよせる。
敦子は微笑んだ。ベッドのうえに正座する。男性を口にふくんだ。頭を動かしはじめる。きまじめな表情だった。テクニックはほとんどない。しゃぶりながら、頭を動かしているだけだ。口もとがっている。
けっこう刺戟的だった。敦子はととのった、利口そうな顔立ちをしている。その顔が男性を頬張って、あられもなく歪《ゆが》んでいた。ふだん一分の隙《すき》もない会長秘書が、下町の気立てのよい女の子に変ったような気がする。
藤井は敦子の髪をなでた。一心に奉仕する表情に見入った。揺れる乳房や、きちんと正座したふとももをみつめた。ながいうえにふとももは肉づきがよい。暗がりのなかでも、肌の張りつめているのがはっきりとわかる。
下腹部の草むらが小さな三角形にみえた。そこをさぐりたい衝動に藤井はかられた。だが、立ってフェラチオしてもらいながら、女の体をまさぐるのは不可能である。人間の体は案外不便にできている。藤井は苛立《いらだ》ちを感じた。
「待ってくれ。おれもキスしてやりたいよ。さ、そこへあおむけになって」
藤井は両手で、敦子の顔をはさんで男性からひきはなした。
敦子の両肩をつかんで横にころがし、あおむけにした。敦子はベッドと直角の向きにあおむけになった。男性のすぐ下に、敦子の頭がきている。
藤井はベッドに這いあがった。敦子におおいかぶさっていった。両脚をひらかせる。暗がりの底にぼんやり咲いたピンク色の花に向かってくちづけにいった。藤井の男性はまた敦子の口にふくまれる。二人はたがいにくちびると舌で奉仕を開始した。
花びらのまんなかをしばらく藤井は舌でさぐった。その上や下へも、ていねいに舌をおどらせた。敦子の下肢が、ときおりぴくんと痙攣する。藤井の口もとへ、かすかな甘みのある液がゆっくり湧きだしてくる。
藤井の男性に、こまかくしぼりあげられるような快感があった。男性を口にふくんで、懸命に敦子が頭を動かしている。ときおり苦しげな声がもれる。フェラチオしながら、息を吸う声である。
やがて、藤井におくりこまれる快感が停止した。呻《うめ》き声がきこえてくる。奉仕をやめて快感をうけいれる側に敦子は専念する気になったようだ。
藤井は完全に奉仕の態勢に入った。体の向きを変える。横合から敦子の下肢へ顔をふせていった。指で敦子の内部をかきまわした。真珠の粒を吸いつづける。敦子の裸身が大きな人魚のように上下に揺れはじめた。太い声で彼女はさけんだ。全身が硬直したあと、やわらかくなる。
「もっとしてほしいか、敦子」
小声で藤井は訊いてみた。
敦子はかぶりをふった。ふっと上体をおこした。獣のポーズをとって、藤井のほうへヒップを突きだした。やや角ばった、長目のヒップである。
「入ってきて。早う入ってきて」
敦子は体を揺すった。挑発しながら、せがんでいる。
あらためて藤井はベッドのそばの床に立った。敦子のヒップを両掌でかかえて、ひきよせる。合せ目の下方に男性をあてがった。さらにひきよせる。男性は水平に、敦子の体のなかに突き立った。
「さ、動くんだ。好きなように動いてごらん。きみが感じるように」
敦子のうしろ姿に向かって声をかけた。自分は突っ立ったままだ。
敦子はうなずいた。頭をさげ、ヒップをもちあげた姿勢である。せっせと動きだした。ヒップで藤井の下腹へぶつかってくる。
白い背中に汗がにじんでいる。藤井には余裕があった。懸命に揺れる敦子の姿を、腕組みしてみおろしている。
敦子は切れ切れに声をあげた。甘い声をあげているのだが、はげしく動くので、声が断続してしまうのである。やがてオルガスムスに達した。両手でシーツを握りしめ、はげしく揺れてから動かなくなる。うつぶせになって、仔犬のように丸くなった。
「さあ、しっかりしろ。若いんだ。まだ何度もいけるはずだぞ」
藤井は敦子の腰を両手ではさみつける。
ひきよせて、ぐいぐい突いた。敦子はたちまちのどからしぼりだすような声をあげる。あえいで、ぐったりと丸くなる。彼女のほうから動く元気はなくなったようだ。
「もう終ってもいいか」
藤井は訊《き》いてみた。両手をつき、ヒップをもちあげた姿勢で彼女はうなずいた。
藤井は上体をかがめて、敦子の右手をとらえた。その手を彼女の下腹部の底へ誘導する。二人の体はまだ結合したままである。男性の下方にさがったザックを、藤井は敦子の右手にとらえさせる。敦子は這って、自分の両脚のあいだから手を後方にのばして、ザックをとらえたことになる。
「揉んでくれ。やわらかく」
声をかけて藤井は動きはじめた。
指示どおり敦子は指を動かしてくる。敦子の体に男性をしめつけられる快感と、揉みあげられる快感がまじりあった。たちまち快楽のうねりがおしよせる。藤井は呻《うめ》いた。敦子は泣きながら指をつかう。体の動きは藤井にまかせきりである。
まもなく限界がきた。腹のあたりに快感があふれ、やがて脳もふるえてきた。呻きながら藤井は活力を敦子のなかへ吐きだした。
精も根もつきて、藤井は敦子の背中へ倒れこんだ。敦子も何度目かの頂上へたどりついたところである。かさなりあって、しばらく二人は動けなかった。汗ばんだ二枚の肌が貼りついて、一枚になってしまいそうだ。
やがて、藤井は体をおこした。ベッドからはなれてバスルームへ入った。
シャワーをあびて出てみると、敦子はうつぶせに寝ていた。とろけるようなまなざしで藤井をみつめ、微笑んだ。
「さ、シャワーをあびておいで。もういっぺんたのしもう」
藤井は敦子の腕をとって立たせてやる。彼女はバスルームへ消えた。
すぐに藤井は枕もとの受話器のダイヤルをまわした。矢島部長の家を呼びだした。
矢島は家へかえっていた。藤井の声をきいて、昂奮する気配《けはい》がつたわってくる。
「やったな。うまくいったんだろう、きみ」
「いまNホテルの部屋にいます。沢田敦子とは他人でなくなりました。もう、なんでも教えてくれると思います」
彼女からなにを訊きだせばいいんですか。声をひそめて藤井は訊いた。
せきこんで矢島部長は話しはじめた。
5
「杉本会長の動きを知りたいんだ。この二、三日彼がだれと会ったか、沢田敦子から訊きだしてくれ。あすあさっての予定も知りたい。会長のスケジュールをいちばんよく知っているのは彼女だからな」
よほど大事な指令らしい。自宅にいながら矢島部長は声をひそめている。
「杉本会長のここ数日のスケジュールですね。わかりました。でも、どうして」
藤井克雄は訊かずにいられなかった。
指令の背景をすこしでも知りたい。なにも知らぬまま動くのではロボットと同じだ。
「私にもよくわからんのだがね、上のほうでなにかキナ臭いことがあるらしいんだよ。ヒントだけあげよう。杉本会長の動きを知りたがっているのは、江藤副社長なんだ。つまりきみは、江藤副社長のために情報をとっていることになる」
「まだよくわかりませんね。江藤副社長と杉本会長がライバルなのは知ってますが」
「じゃ、もう一つヒントだ。杉本会長は分割民営化の国鉄の西日本会社の社長の下馬評にあがっている。じつをいうと、この話は江藤副社長がお膳立てしたんだ。会長はなんとかそれをつぶそうとしておられる」
「なるほど。どの方面へ働きかけてつぶしにかかっているかを知りたいわけですね。それなりの対応をするために」
「まあそんなところだ。わが社の上層部の人脈図はきみも承知しているだろう。江藤副社長のために働いて損はないよ。杉本会長が西日本会社へ転出すれば、P電力の実権は完全に江藤副社長のものになるんだから」
そこまで話して矢島部長は電話を切った。
沢田敦子はまだバスルームのなかにいる。藤井はベッドにあおむけになった。自分の役割の意味がやっとはっきりしてきた。
P電力のナンバーワンは名誉会長の義原和重である。昭和三十四年の社長就任以来、二十八年間にわたってP電力に君臨してきた大物だった。現在八十五歳。実務は下にまかせて財界活動に多忙だが、社内では相変らず「天皇」である。
この義原名誉会長のもとで主導権争いをしているのが杉本会長と江藤副社長である。
杉本は社長時代の義原の秘書だった。その後営業、企画など中枢部門をへて、昭和五十二年に社長になった。一昨年、後継者に社長をゆずって会長にしりぞいた。だが、実質的には依然最大の権力をもっている。
江藤副社長も社長秘書の出身である。労務、人事など地味な仕事を担当して副社長となった。義原名誉会長の懐刀《ふところがたな》である。もっぱら機密事項をあつかってきた。
電力会社は発電所用地の買収など、政治がらみ、利権がらみのビジネスが多い。おもてに出せない実務がたくさんある。政治家を動かしたり、各地の有力者を味方につけたり、原発反対運動を懐柔したりするのがそれだ。右翼や総会屋対策もやらねばならない。
江藤副社長はそんな裏の実務の責任者である。年間二十億円の機密費を握っているとの噂だった。社員にとっても怖い人物である。睨《にら》まれたら一生うだつがあがらない。
その江藤副社長のために、藤井は一働きさせられているわけだ。江藤は杉本会長を目のうえのコブと考えている。杉本をよそへ追いだそうとしている。以前は関係官庁へ働きかけて、関西新空港会社の社長に杉本を据《す》える工作をしたらしい。こんどは国鉄である。雲の上の人たちは、ひまにまかせて、次元の低い暗闘をくりかえしているようだ。
敦子がバスルームから出てきた。裸身にタオルを巻きつけている。体をちぢめて藤井のそばに横たわった。すでに一度はげしいセックスをともにした仲である。動作に甘えた感じがあった。
「ああしんど。すこし休みたいわ」
敦子は顔を寄せてきた。藤井は抱きよせてやる。髪をなでた。
「ふだんいそがしすぎるんだよ。会長はヒマで秘書は超多忙。世の中そんなものさ」
藤井は誘導にとりかかった。
是非はともかくとして、副社長のため一肌ぬぐのもわるくないだろう。
「うちの場合は、会長もすごくいそがしいのよ。お飾りやないから。朝から晩までスケジュールがぎっしり。三十分刻みですよ」
「ほんとうか。信じられないなあ。スケジュールといっても、パーティやコンペに出る程度のことが多いんだろう」
「ちがうわ。人と会う時間が多いんです。秘書課でチェックして、どうしても必要な人だけえらぶんやけど、それでも満員。そのうえ会長のほうから相手を指名してスケジュールの調整を命じてきはることもあるし」
藤井は右手を敦子の髪から乳房に移動させた。やさしく愛撫する。
さっき活力を発射したばかりである。欲望は回復していない。だが、愛撫によって敦子の警戒心を眠らせておく必要がある。
「興味があるなあ。雲の上の様子は、おれたちにはわからないからな。会長が指名して会う相手って、どんな人。たとえば最近どんな人と会っているの」
「きょうはね、ええと、関経連会長の比嘉公正さんかな。それから国会議員のNさん。あしたはAビールの松井社長」
「なるほど、大物ぞろいだな。ほかには」
「きのうは運輸大臣と会うてました。主な人はそんなとこかな。けど、最近は社内の打合せも多いんです。ミナミの料亭で、夜おそうまでいろんな重役さんと——」
敦子は顔をしかめた。藤井の右手が女の部分をまさぐりはじめたからだ。
そこはあたたかく濡れはじめていた。やわらかな肉のひだに、欲望の溶液があふれている。透明な感じのある液である。敦子の体には生臭い感じがまったくなかった。
しずかに藤井は、敦子の真珠の粒を指でころがしにかかる。敦子は目をとじて、うっとりした声をあげる。その表情をながめながら、藤井はいまきいた名を頭に刻《きざ》みつけた。
関経連会長、国会議員、ビール会社社長、運輸大臣。国鉄新会社の社長人事に影響力をもつ人物ばかりである。杉本会長は彼らのあいだを駈けまわって、新会社への転出を阻止しにかかっている。
「なるほどな。しかし、うちの重役との打合せが最近多いというのは、どういうことかな。料亭に大勢あつまるのか」
「いいえ、一人か二人ずつみたいです。一晩に何人も会長は会うてはります。話の内容は私なんか——」
敦子はそこで言葉を切った。目をとじて、浅くせわしい息づかいをしている。
相変らず藤井は指をつかっている。濡れたひだの中心部から真珠にかけてやさしくなぞる。ときおり真珠を集中的に刺戟する。敦子は声をあげた。腰をくねらせる。
杉本会長は重役を一人ずつ料亭へ呼んで密談している。
どういうことなのだろう。ただの打合せなら社内で済むはずだ。江藤副社長はそこが不安で、神経質に情報を欲しがっているらしい。
「料亭へ呼ばれる重役って、どんなメンバーなの。若手が多いのかな」
「いや。もうそんな話やめて。なんでそんなこと訊きたがるの。私、愛されたいのに」
敦子はつよい調子でいった。
藤井の男性に手をのばしてきた。不満の声をあげた。まだそれは力を回復していない。
「ほら、よけいなこと考えるからよ。ちっとも元気ないやないの」
敦子は体を起した。横合からのしかかってきた。男性をとらえる。あわただしく手を動かしはじめる。藤井は敦子の足首をつかんでひっぱった。たがいちがいに二人は添寝する。敦子のながい脚が藤井の顔のそばに投げだされた。
その位置で向かいあった。敦子に脚をひらかせる。ふとももの奥の草の下で、ピンク色の花が咲いた。藤井はふとももに手をかけて、さらにおしひらく。ほそながくみえた花が、菱形になった。複雑な花びらが液にまみれて美しくかがやいている。
相変らず敦子は手で男性に快楽をおくりこんでくる。男性はもう硬くなっていた。藤井は手をのばして、敦子の花をまさぐる。花びらと真珠のとりあわせに見入った。
藤井の顔をみつめながら敦子は手を動かしている。秘密の花に魅入られた男の顔が刺戟になるらしい。上気して赧くなっている。美しい顔が欲望でこわばっていた。
二人はしばらく手で愛撫を交換した。こんどは淫《みだ》らなキスにならなかった。藤井は敦子の秘密の花を、敦子は藤井の顔をみつめつづける。くちびると舌をつかうと、おたがいに見たいものが見られなくなってしまう。
真珠の粒を藤井は指さきでこまかく左右にふるわせてやった。それが決定的な刺戟になった。
短く敦子は声をあげた。あえぎはじめた。懸命に手を動かしている。だが、快楽をこらえきれなくなったらしい。そりかえった。
「もうだめ。もういってしまう。きて、藤井さん。入ってきて」
「かまわないよ。いってしまえよ。女はなんべんでもいけるんだから」
「いや。入ってきて。もったいない——」
藤井の手をつかんで敦子はひっぱる。
あおむけになった。藤井は上体をおこした。白い裸身におおいかぶさってゆく。
正面から突きいれた。腹を浮かせて敦子に両脚をとじさせる。男性がぴったりしめつけられた。そのまま藤井は動きだした。
下地ができている。たちまち敦子はそりかえった。両手で藤井の腰に爪を立てる。呻きはじめた。太い声だ。
「ああ、きついわ、きつい——」
敦子は口走った。そのまま痙攣して、オルガスムスに到達する。
藤井のほうはさっき活力を発射したあとだ。いくらでも持続できる。敦子がおちつくのを待って、また動きだした。
6
「そうか。杉本会長は各重役と個別に会談しているのか。どういうことかな。社内世論を有利にする気なのかな」
藤井克雄の報告をきいて、矢島部長は腕を組んで考えこんだ。
沢田敦子とホテルでセックスをたのしんだ翌日である。二月二十五日だった。会社の近くのホテルの喫茶室に二人はいた。出勤してまもなく藤井は呼びだされたのだ。
しばらく矢島部長は思案していた。やがて、席を立って電話をかけにいった。江藤副社長へ報告して指示をあおぐのだろう。
五分ばかり部長は電話で話していた。緊張した面持だった。
「杉本会長が関経連会長や運輸大臣に働きかけをすることは、だいたい見当がついていたんだ。しかし、うちの重役と個別に会談していたことは副社長も知らなかったよ。会長と会ったメンバーをすぐ調べてほしいそうだ」
部長は藤井の顔をみつめた。有無をいわせない目の色である。
「しかし、強引にやると彼女が警戒します。きのうだって、もうすこしで」
「そこをなんとかしろ。きみは岐路《きろ》に立っているんだぞ。ここでうまくやれば将来重役だって夢じゃない。勝負してみろ」
「でも、勝負ならフェアにやりたいですね。色仕掛けで情報をとるなんて、ひっかかりますよ。ちゃんとした男のやることじゃない」
「そんなきれいごとは通らんよ。子供じゃあるまいし。きみはもうあともどりできないんだ。ここで二の足をふむようだと、会長秘書とのオフィスラブを逆に問題にすることもできるんだからな」
矢島部長は藤井を睨《にら》みつけた。
ともかくしっかりやれ。いいのこして、伝票を手に喫茶室を出ていった。
藤井はくちびるを噛んだ。いくら親分格の矢島でも、いまの高圧的ないいかたはゆるせないと思った。江藤副社長の人格についても疑問がわいてくる。こんなやりかたで杉本会長を追いだし、社の実権を握ろうとする人物を上において、社員は幸福になるのだろうか。江藤副社長に協力することが、P電力のためになるのかどうか。
だが、いまおかれた状況としては、協力せざるを得ないだろう。そっぽを向いて、副社長に迫害されるのも困る。
藤井は腰をあげた。喫茶室を出て、公衆電話のまえへいった。会社の会長秘書デスクを呼びだした。沢田敦子が応答する。藤井とわかると、たちまち声が小さくなった。
「きのうはありがとう。また会いたくなった。昼休み、Rホテルへきてくれ。部屋をとって、なかで待ってる」
「そんな。あわただしすぎるわ。会うなら夜ゆっくり——」
「あしたから十日間出張なんだ。当分会えない。きみを抱いてからいきたい」
敦子はことわれなかった。約束ができた。
会社へかえって藤井は仕事をした。昼まえにオフィスを出て、Rホテルへいった。予約しておいた部屋へ入る。
藤井はシャワーをあびた。ベッドで待機した。やがて部屋のチャイムが鳴る。立っていって扉をあけた。敦子が入ってくる。小さな悲鳴をあげた。藤井は全裸だった。通路で彼は敦子を抱きしめる。くちづけした。
「時間がない。さ、いそごう」
敦子は会社のユニホームを着ている。その胸を藤井はまさぐった。たちまち敦子はやわらかくなってもたれかかってくる。
スカートのなかへ藤井は手をいれた。パンストとショーツをひきおろした。
敦子は逆らわない。まず靴をぬいだ。ついで下着類を足からぬきとった。藤井は敦子にうしろを向かせる。壁ぎわのテーブルに両手をつかせた。スカートをまくりあげる。ヒップと長い脚がむきだしになった。
ヒップの合せ目の下から藤井は右手をさしいれる。やわらかな女の部分をさぐった。じゅうぶんに濡れている。さらに指でかきまわしてやる。敦子は声をあげた。ヒップに力がこもって窪《くぼ》みができる。体をくねらせる。
「十日も出張なの。さびしいわ私」
「きみもいそがしいんだろう。夜は会長のお供で料亭までいかなくてはならない」
「私はいかんでもいいの。手配するだけ。今夜は××常務と××取締役の番やわ」
「会長も多忙なんだな。いままで何人ぐらいの重役を呼んだんだ」
「二十人ぐらい。ほとんど全員よ。呼ばれてないのは江藤副社長と××専務と。ほんの三、四人」
ああ感じる。はやくきて。ヒップを敦子は突きあげてきた。
藤井は敦子のヒップの合せ目の下へ男性をおしあてた。一気に入った。動きだした。ゆっくりたのしんでいるひまはない。荒っぽく動いた。敦子は呻き声をあげて机に頭をふせる。両手でしがみついた。
ユニホームのスカートがときおりずり落ちそうになる。それをささえて藤井は動いた。指で真珠の粒をさぐりつづけた。
その夕刻、矢島部長から催促の電話が入った。今夜沢田敦子と会って情報をとります。藤井はそうこたえておいた。
あくる二月二十六日。P電力では朝から定例取締役会がひらかれた。
通常の議題が消化されたあと、杉本会長が緊急動議を出した。来期の取締役候補者のリストを提出し、承認をもとめたのである。
義原名誉会長と江藤副社長の名はリストになかった。事実上、二人の解任動議だったわけである。出席者二十八名のうち、二十二名がこのリストを承認した。義原、江藤らにとって、この解任劇はまったくの不意討ちだった。抵抗のすべもなく、二人はそれまでのポストを追われてしまった。
「P電力は老害がひどかったからな。江藤さんの専横も目にあまった。これですっきりした」
この人事は多くの社員に歓迎された。藤井克雄が一役買ったことはだれも知らない。
(第六話 了)
第七話 転勤前夜
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大阪府下M市の駅で電車をおりると、午後四時だった。駅はまだ空いている。
片岡淳一はリュウエーM市店のほうへあるきだした。足どりはかるい。道路がムービングウォークのように感じられる。
片岡は大手スーパー・リュウエーM市店の店長をしている。三十五歳になったばかりだ。吹田《すいた》市にあるビジネスセンターの人事部に呼びだされたかえりだった。
転勤の内示をうけた。六月一日付で東京ビジネスセンターの営業企画本部へ移ることになった。ランクは主事。一般の会社でいえば課長クラスだろう。
がんばってきた甲斐《かい》があった。八時、九時まで働くのが当然みたいな日々だった。
リュウエーの社員はよく働くという定評がある。管理職志向のある者はとくにそうだ。片岡淳一もその一人だった。店長になってからは、休日も仕事のなかにあった。
三年まえ、店長になったとき、M市店の売上高は月に八億円だった。いまは十一億である。円高差益を生かす品揃えをやって、利益率も高い。そのあたりを評価されたのだ。
リュウエーは大阪が発祥である。神戸に本社をおいている。店舗数も大阪がいちばん多い。だが、社長以下、おも立った経営スタッフは数年まえから東京に移った。首都圏の制覇《せいは》が全社のテーマになっている。その東京へ転勤してゆくのだ。社の中枢部門へ送りこまれることを意味している。
いまは五月の中旬である。転勤まであと二週間しかない。かたづけておかねばならない仕事が山ほどあった。あすといわず今夜からいっそう多忙になるだろう。
考えながら片岡は商店街へ入った。リュウエーM市店はこの奥にある。商店街はにぎわっていた。魚屋や青果店の店員が声をからして客を呼んでいる。対面販売が好きな消費者はまだまだ多いのだ。
「店長、外出してはったんですか」
人混みのなかで声をかけられた。
女子社員の田島|沙織《さおり》だった。まだ社のユニホームを着ている。さわやかな笑顔が、白い大きな花のように浮かびあがった。