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■■ 鈴が鳴る! ~第九回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:3358 字 更新时间:2026-6-22 21:37

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 魔女対魔獣。

 今から目の前で起こる戦いは人智を超えた物になる。

 不謹慎にも心が踊るのを鳴海は感じる。

 ごくり。思わず唾を飲んだ。

「唸ってるだけじゃ進まないでしょ。さっさと仕掛けてきなさいよ」

 リンの言葉は明らかな挑発。

 確かに魔法は強力かも知れない。

 だが、猟犬の力も圧倒的だ。

 桁違いの腕力から繰り出される爪や牙の一撃は、リンの小柄な身体など

一瞬でミンチにしてしまうだろう。

 先に動き、隙を作るのは不利。

「折角チャンスを与えてあげてるのに」

 小さく肩を竦めた。

 更なる挑発を重ねる。

 気ままで身勝手な子供だと思っていたが、命の掛かった場で冷静に戦略を組み立てる。

 流石というべきか。

 鳴海は感心を超えて、尊敬の念すら抱いてしまう。

 そんな鳴海を嘲笑うように、リンが。

「まあ時間が勿体ないから、アタシからいくわよ」

 無造作にスタスタと猟犬に向かって歩を進める。

 猟犬の全身に緊張が走った。

 ぐぐっと力の篭った、無駄のない体勢。

 リンが間合いに入ると同時に襲い掛かってくるのは、容易に予想できる。

 が、リンにはまったく臆する様子はない。

 リンは魔女。魔女は自在に魔法を扱う女性の総称だ。

 魔法。マンガや小説、フィクションの中にしか存在しない力。

 それがリンに一見無謀と思わせる動きをさせるのか。

 だとすれば、リンの魔法とは、リンの攻撃とはいかなる物なのだろう。

 神秘的な呪文を紡ぎ、火の玉や稲妻を放つのか。

 流れるように舞う事で、神秘の力を生み出すのか。

 超能力者のように念力で、奇跡を起こすのか。

 いやいや、魔法の剣や杖を武器に戦うのかもしれない。

 猟犬の身体が微かに沈む。リンが間合いに差し掛かったのだ。

 ごくり。再度、唾を飲んだ。

 次の瞬間!

 鳴海の視界からリンが消えた。

 猟犬の頭に埋まった無数の目が忙しなく動く。

 それはリンを見失ったのが、鳴海だけではない事を意味する。

「あ」

 離れた場所に居た分、鳴海の方が見つけるのが早かった。

 猟犬の左後方。すぐ近くにリンの姿があった。

「はい。余所見しないの」

 すぐ側からの声に、猟犬が明らかに動揺したのが判る。

 急いで首を向ける、その前に!

 リンの一撃が襲い掛かった。

 ぶっちゃけありえない。

 鳴海は素直にそう思った。

 リンの攻撃は鳴海が想像してたより、ずっとシンプルで解りやすかった。

 右腕を肩の後ろまで移動させ、軽く握る。

 左足を半歩前につま先立ち。足首、膝、腰と流れるように回転させつつ、

右足で小さく地を蹴った。

 体重をその拳に乗せ、よっこいしょっと気の抜ける掛け声と一緒に、

猟犬の頭に振り下ろす。

 ぶっちゃけありえない。

 拳が、小学生にしか見えない少女の拳が、

猟犬の、大型犬より一回り大きな猟犬の頭を床に叩き付けた。

 乾いた音が響き、クモの巣状のヒビがコンクリートの床に広がる。

 これが魔女の魔法なのか、鳴海には判断できなかった。

 ただ、リンを本気で怒らせるのだけは辞めようと心に誓った。

 拳を引き戻すと同時に、左足を踏み出す。位置は猟犬の頭のすぐ近く。

 上半身を大きく捻った。そうする事で生まれたエネルギーを、

残った右足に溜めるように半拍おく。

 どっこいしょっと。外見に似合わない年寄り臭い言葉を残して、

右足が低い軌道の弧を描く。

 サッカーボールよろしく、猟犬の頭を蹴り上げた。

 ぶっちゃけありえない。

 ポリゴンの格闘ゲームを見てるような光景。

 数メートル、巨体が宙に跳ねた。

 鳴海がふうっと息を吐く。信じられない戦いに呼吸すら忘れていた。

 あれほどの化け物を文字通り腕力に物を言わせて叩き伏せた。

 魔女というイメージまで叩き崩された気がするが、やはり凄い。

 だが、まだ終わりじゃない。

 猟犬がゆっくりと身体を起した。かなりのダメージ。体重を支えるのも辛そうだ。

 今の攻防を見る限り、力の差は歴然。

 しかし、鳴海はどこか不安を感じる。

 猟犬は明らかに弱っている。なのに追い討ちをかけないリン。

 強者の余裕なのか。それにしては表情が険しく思えた。

 リンが小さく舌打ちを溢す。

 右腕は肩口まで痺れている。

 最初の一撃で、頭を粉々に吹き飛ばす予定だった。

 続く蹴りは首を引き千切る程の力を込めたハズだった。

 しかし、結果は……。

 リンの打撃は一種の魔法。

 インパクトと同時に魔力を爆発、通常の数百倍の威力を生み出す。

 自分の思ったほどの威力が、思ったほどの魔力が使えなくなっている。

 猟犬が何度も首を振り、朦朧とする意識を覚醒させようとしていた。

 追い討ちをかけたい所ではあるが。

 空間を捻じ曲げる事が上手くできない。

 リンが最初に間合いを詰めたのも魔法。空間座標を書き換える事で自在に移動する。

 こんな初歩的な事すらできない。かなり消耗してるのが自ずと理解できた。

「なかなか丈夫ね。ま、かな~り手加減してあげたんだけどね」

 猟犬が唸った。

 まだ攻撃態勢を整えるにはかかりそうだ。リンは内心ほっとした。

 ダメージはこっちのが大きい。

 右肘の関節と肩はまだ動くが、手首は完全に砕けている。

 足首も腱が損傷、楽観できる状態ではない。

 これを回復させる魔力の余剰もない。

「真紅の魔女も地に堕ちたもんね」

 やや自嘲気味の笑みを浮かべる。

 事情はともかく、今の状態では一割の魔力も使えないようだ。

 背伸びしてるクズはアタシの方になっちゃうわ。

 ちらりと後ろに視線を向ける。不安そうな鳴海の顔。

 ったく、余計な心配すんな。失礼にも程があるわよ。

 小さく息を吸う。

 服に刺繍された金色の紋様が柔らかな光を放ち始めた。

 糸に蓄えられた魔力が身体に流れ込んでくるのを感じる。

 魔力のストックが尽きるまでは、それほど時間は掛からない。

 次の一撃で決めないと、かなり窮地に追い込まれるだろう。

「まあ、なんとかなるでしょ」

 小さく呟く。

 気楽な言葉とは裏腹に、全身に嫌な汗が浮かんだ。

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