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■■ 鈴が鳴る! ~第十五回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:3797 字 更新时间:2026-6-22 21:37

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 足元に転がったそれは原型を止めでいなかった。

 重機で押し潰されたような状態。

 これが数分前まで動いていたなんて、これが生き物の頭だったなんて、

とても信じられない。

 優越感に浸りつつ、小さく笑いを漏らした。

 背伸びしたクズの末路はこんな物だ。

 はっと振り返り、ほっと息をついた。

 まだ眠っていた。

 鳴海が自分に対してどんなイメージを持っているかなんて興味がないが、

その中にこれほど残酷な部分は含まれていないだろう。

 下らない嘘と言えばそれまでだが、少なくとも鳴海には『真紅の魔女』ではなく

『蛇の目屋のリン』でいようと思う。

「ん」

 魔力が抜け始めている。

 鳴海の力が抑えていた封印が戻りつつあった。

 すぐに子供の身体。魔力の足枷に囚われる。

 その前にクズの後始末だ。

 強力な妖怪に死という概念はない。どれほどのダメージを受けても、

やがては再生する。

 猟犬もそう。完全に破壊しても、おそらく百年もあれば元通りになるだろう。

 そんな物理的には無敵である彼らに対し、最も有効な手段が封印という術だ。

彼らの存在を時の狭間に繋ぎ止める特別な業。

 時の流れを感じながらも永劫の束縛に囚われる。残酷な拷問。

 存在を消してしまうよりも、リンの趣向に合う。

 キョロキョロと視線を走らせ、閉じ込める器、ぶっちゃけ蓋ができれば何でも

いいのだが、を探す。

 そうだ。

 マントの内側に手を突っ込み、魔法で作った空間ポケットの中を探る。

 ぷこっとした感触が触れた。

 取り出す。微かな重み。

 コーヒーのペットボトル。五百ミリの大きさのやつ。

 あまり口に合わず、飲み掛けのまましまっておいたのだ。

 封印の触媒には、なかなか良い選択だと思った。

 プラスチックは丈夫で軽い。それに腐食もしない。

 キャップを開けて、バチャバチャと残りを捨てる。

 洗うのは面倒なので、このままでいいや。

 左手にペットボトルを持ち、封印の言葉を紡いだ。

 轟っと空気が動き、周囲に散っている猟犬の破片を瞬く間に吸い込んでしまう。

「ま、こんなもんでしょ」

 キャップを元通り閉めて、軽く振ってみる。

 別段、音もない。見た目も何もない。空のペットボトル。

 しかし猟犬の存在というリアリティが入っているのだ。

 不意に心臓が大きく跳ねた。と、身体中の関節がごりごりと音を上げる。

 視点が段々と低く、きつかった服にゆとりが生まれた。

 一回り小さくなった手をじっと見つめる。鏡を見なくても解る。封印状態に戻った。

 大きく溜息を漏らす。惰弱な肉体に貧弱な魔力。これが今の自分なのかと思う。

「ま、こんなもんでしょ」

 同じ台詞を口にすると、少し気分が軽くなった。

 次は空間の座標を戻す。

 屋上のドアからは別の空間にリンが作った本物そっくりの空間。周囲に被害が

でないように、一応の配慮のつもり。

 周囲の景色が一瞬揺れた。

 乱闘の跡が消えていた。全ては鳴海が駆け込んだ時のまま。

 微かにクラブ活動する生徒達の声が聞こえる。

 異空間を維持しなくなった分、魔力に少し余剰が生まれた。

 ダメージの回復に少しでも回しておくか。

 まず袈裟懸けに切られた傷の止血。

 後は手か、それとも足にするか。と考えて止めた。

 もうすぐ鳴海が目を覚ますだろう。

 あまり刺激的なカッコのままでは、青少年の教育に良くない。

 やや幼く見えると言っても、この整った容姿は世の男性にとって羨望の的。

 美人というのは、それなりに苦労が多いのだよ。

 ぐふふと下品な笑いを漏らしながら、 大きく破れた胸元を修復する。

 もう、大した魔力は残ってない。後は少し休んでからでいい。

 足を引きずりながら、鳴海の方に向かう。

 腰を下ろし、覗きこんだ。寝顔はまだまだ幼い。

 あの時、正直逃げると思った。それが普通の人間の思考。

 適わない相手に立ち向かう。それは勇気ではない。頭の悪い自殺行為だ。

 しかし。

 この、どう見ても頼りない少年が選択したのは。

「使えないヤツだけど、辛うじて合格って事にしといてあげるわ」

 優しく前髪を撫でた。

「さて」

 細い指を軽く曲げて、額の中央に移動させる。そのままデコピンの要領で弾く。

 結構、鈍い音がした。

 一言で言えば痛かった。詳しく表現するなら、すごく痛かった。

 飛び起きて、ずきんずきんする額に手を当てた。

 大丈夫。血は出てない。

「うぅ、ひどいよ」

 ちょっと泣きそうになっている自分が情けないと思った。

 それでも抗議だけはしておこう。

 座ったままのリンに涙の浮かんだ目を向ける。

「何が酷いのよ。起こしてあげたんでしょ」

「でも、思いっきりするなんて」

「はぁ? 思いっきり?」

 心底馬鹿にしたように聞きなおす。

「思いっきりが良かったの?」

 か細い指を曲げて、コンクリートの床を弾いた。

 指の形に破片が飛んだ。

 唖然とする鳴海に、極上の笑みを向ける。

「はい、オデコだして」

「いえ、その、申し訳ありませんでした」

「ふむ。解ればよろしい」

 変な会話に自然と笑いが漏れた。

 猟犬がどうなったのか。あえて聞く必要もない。

 リンがこうして居るのだから、自分が無事だったんだから。

 答えはもう出ている。

 安心したと同時に、気分が重くなった。

 弥生の事を思い出した。保健室での状況を考えると……。

「よいしょっと」

 リンが立ち上がる。足元がややふらつく。

「あ」

 鳴海が咄嗟に伸ばした腕を、左手で乱暴に振り払う。

「余計なマネすんな。ガキ扱いすんな」

 厳しい反応。鳴海の表情に少なからずショックの色が浮かんだ。

「いや、その、そう。アンタが必要な時は、ちゃんと言うから。

 そん時は、何があっても私の言う事を聞くのよ」

 ぷいっと背を向けながら、そう告げた。

「アンタが手伝いっていうから、無理にそういう機会を作ってあげるだけだから。

 そこんトコはちゃんと理解しておきなさい」

「うん。解ってる」

 その仕草が可愛くて、つい笑ってしまう。

「笑うな」

「あ、ごめん」

「まったく、ガキのワガママに付き合うのは疲れるわ」

 小柄な背中が大きく溜息をついた。

 リンは相変わらずだけど、少しだけ距離が近づいた気がした。

「さて、アンタには、もう一仕事してもらわないとね」

 振り返った。いつもの勝気な表情。

「え、なに」

「弥生ちゃんがそろそろ目を覚ますわ。すぐ保健室に行ってあげなさい」

 意味が理解できない。

「ぼけっとしない」

「リンが助けてくれたの?」

「違うわよ。アンタが猟犬を引き離してくれたから。だから間に合った。

 つまりアンタが助けたのよ」

 不思議な理屈だが、弥生が無事なら何よりだ。

「ほら、さっさと行ってあげなさい」

「ありがとう!」

 礼を残して、昇降口まで走る。そこで足が止まった。

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