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■■ 鈴が鳴る! ~第五回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:3182 字 更新时间:2026-6-22 21:37

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「こら! ボケッとすんな」

「あ、ごめん」

「ほら、ちゃんとしまっておきなさい」

 ジッポライターを鳴海に手渡す。

「一応、忠告しておくけどさ」

 元通り箱に入れ、本棚に戻す。

「タバコ吸うと身長が伸びないよ」

 しまった。

 口にしてから、小さな後悔が生まれた。

 案の定。リンの右眉が小さく痙攣している。

 リンは子ども扱いされるのを極端に嫌う。解っていたハズなのに。

 余計な一言が多い。小学生の通信簿に書かれていた事を思い出す。

「いや、あのね」

「ご親切な忠告ね。どうも、ア?リ?ガ?ト!」

 鳴海の弁解よりも早かった。

 電光石火の如きリンの踵が、鳴海の足を踏み抜く。

 体格のハンデを物ともしない。見事な攻撃。

 あまりの痛みに息を呑んだ。

「まったく、近頃のガキは生意気ね」

 そう言い残し、パイプ椅子にどっかりと腰を下ろした。

 このテーブルの上座はリンの指定席だ。

「酷いよ。リン」

「言葉の暴力には、肉体の暴力よ」

 相変わらずの発言。小柄ながら暴帝の貫禄は十分だ。

 呆れる鳴海を気にする事もなく。ノートパソコンの電源を入れる。

「でも、じゃあなんでライターなんて」

 対面、下座のパイプ椅子に鳴海が座った。

「その小型点火器はアタシが造ったのよ」

「リンが?」

 途端に胡散臭く思える。

「ほら、ランプを擦ると魔神が出てきてってお話あるじゃない。あれをヒントにしてね」

「じゃあ、魔神が出てくるとか?」

「そうよ。あれを点火すると、封印が解かれて出てくるってワケ」

「それはスゴイよ! なんでも願いを叶えてくれるんだよね」

 鳴海の脳内にアラビアンな格好で横たわる自分と、その周囲で舞い踊る美女達の

イメージが浮かんだ。

 驚くほど貧相なハーレムのイメージ。

「ううん。そこまで仕込むのは面倒だったからさ。魔神を呼び出すだけ」

「へ?」

「だからさ、ただ出て来て、暴れるだけだってば」

「え?」

「大丈夫だって。呼び出した人には襲いかからない」

「カプセル怪獣みたいな物かな」

 期待が一気に萎んだが、それでも護身用としては十分に役立つ。

「……かも知れない」

「かもって!」

「そう造ったつもりだけど。まだ実験してないのよ。アンタさ、一回点火してみてよ」

「あのさ、もしもだよ。ボクに襲い掛かってきたら?」

「さあ? 死ぬんじゃない?」

「リン、酷いよ」

「あはは、冗談だってば」

 泣きそうになる鳴海を見て、リンがカラカラと笑う。

「ところでさ、アタシに何か話があったんじゃないの?」

「あ、そうだったよ。友人の話なんだけどさ」

 弥生が不気味な夢を見始めたのは、先月の末くらいだったそうだ。

 何かに追われている。

 明確ではないが、そういう脅迫感を覚える夢だった。

 最初はただの悪夢という事で気にもしなかったのだが、夢は毎日続き、漠然と

見えない何かが近づいてきているという圧迫が強くなってきたらしい。

 そして、昨晩、ついにそれが夢の中に現れた。

 大型の犬のような四足の生き物。ぬっとりとした黒い粘りが全身を覆い、それが

不快な泡をぶくぶくと生んでいた。

 頭部を埋め尽くす幾つもの濁った瞳が弥生を見つめ、鋭い歯の並ぶ裂けた口が

確かに言葉を紡いだ。

「捕まえた」

 そこで目が覚めた。あのまま夢の中にいたら……

 そう考えるだけで怖くなる程のリアリティ。

 友達に話してみたところ、そういう不思議な事は『蛇ノ目屋のリン』に相談してみれば、

という結論に達した。

 一日迷った結果、クラスで唯一リンと親しい鳴海の声を掛けたという事だった。

「なるほどね」

 リンが小さく頷いた。珍しく真剣な顔つき。

「ただの夢なのかな」

「だといいんだけどね。その子は厄介なのに目を付けられたわね」

「それって、ひょっとして」

「アンタが解き放った妖怪に間違いない」

 鳴海がゴクリと唾を呑む。

「夢魔の一種でね。『猟犬』とか言われてるわ」

「猟犬……」

「そう、夢の中で獲物を追う犬よ。恐怖心を嗅ぎ取り、時間を掛けて獲物を

 追い詰め、喰い殺す」

「ゆ、夢の中でだよね」

 弥生の優しい微笑みが浮かぶ。あの子が殺されるなんて有り得ない。

 リンが小さく首を振る。

「猟犬は最後に夢から実体化し、獲物に喰らいつく。次に眠ったら、おそらく」

「で、でもリンならなんとかできるんでしょ」

 リンがノートパソコンを閉め、ゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫だよね」

 鳴海の近くをすり抜け、部室のドアに手を掛ける。

 視線を合わせようともしない。

 思わず鳴海が椅子を蹴った。

「魔女だもんね。大丈夫だよね」

「……………」

 後ろから肩を掴む。

「リン、大丈夫だよね」

「気の毒だけど、手遅れよ」

「そんな」

「実体化した猟犬を追撃する準備は整えておくわ」

 冷たい言葉を残し、リンが部室を後にする。

 力の抜けた身体をパイプ椅子に落とした。

 リンは弥生に見切りをつけ、次の一手を打つ判断を下した。

 犠牲を最小限に、確実に相手を捕らえる事ができる。冷酷だが正しい判断だ。

 でも。

 鳴海は思う。

 猟犬は弥生に襲い掛かる時に実体化する。

 その時に駆けつける事ができれば、弥生を救える可能性は十分にある。

 しかし、猟犬がどれほどの力があるのか。少なくとも自分が適う相手ではないだろう。

 自分は魔女のアシスタント。

 買出しや部屋の掃除しかできない、言わば雑用係なのだ。

 もう少し力があれば!

 クラスメイト一人、女の子一人を助ける事もできない。

 ふと、ひらめいた。

 本棚に視線を移す。

 なんとかなるかもしれない。

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