そして──
アタシの行動を詮索し始めた。
携帯の着信履歴を見られ、送受信メールもチェック。
遅刻したくらいで……。
やましいことなんてしてないのに。
そのときは、少しだけ気分が悪かった。
だけど、たかチャンともめたくもない。
アタシは、何も言わなかった。
──アタシが5時に着けばいい。
遅れたアタシが悪いんだ。
そう考えて……。
5時に着けば、改札前に笑顔のたかチャンが待ってくれている。
アタシは、たかチャンの笑顔が大好きだった。
笑顔を見ると、友達と遊べないつらさもすべて忘れられる。
……たかチャンに会えて嬉しい。
そう心から思う。
束縛が嫌だと思いながらも、会えばいつも幸せだった。
赤い糸 たかチャンは6時過ぎの電車で学校へ向かう。
たった1時間のデート。
別れを惜しむように、アタシは毎日ホームまでたかチャンを見送った。
──4月も終わりに近づいたある日曜日。
ふたりは街に遊びに出た。
いつものように手を繋ぎ、プリクラを撮ったり買い物をする。
「最近ゆっくり話せるのは土日くらいだなぁ」
「……そうだねっ。平日は5時から6時までの1時間しか会えないもんね……。寂しいね」
「今日はいっぱい一緒にいよーな!」
クシャクシャ
アタシの頭を、愛しそうにたかチャンはなでてくれた。
──そのとき、
「おーい! 芽衣! !」
そう言いながら、正面から男の子が来た。
同じクラスの男子だ……。
チラッとたかチャンの顔を見ると、明らかに怒っている横顔──
「チッ。行くぞ」
「──ッ!」
たかチャンは、グイッとアタシの手を引っ張った。
近寄ってくる男子を無視し、歩き出してしまうたかチャン……。
「あっ! また明日ねっ──」
アタシは男子に声をかけ、引きずられるようにたかチャンについて行った。
赤い糸 どんどん不機嫌になるたかチャンの顔……。
アタシの手を引いて、たかチャンは歩き続けた。
「ね……ねぇ……さっきの人はクラスメ──」
「──別にいいよ」
アタシの声は遮ぎられた。
──機嫌悪くなっちゃった。
男子に感じ悪いこともしちゃったし……。
振り返ると、さっきの男子が不思議そうにアタシを見ていた。
はぁ……。
いきすぎのヤキモチだよね。
「──なんで振り返ってんの!?」
「え? なんでって言われても……」
「そんなに今のヤツが気になんのかよ!」
つかんでいたアタシの手を放し、たかチャンは立ち止まった。
なんでそんなに怒るの?
ただのクラスメイトと話しただけじゃん……。
「せっかくの日曜なのに、なんでそーゆうことすんだよっ。一日中一緒にいれんの、楽しみにしてたんだけど」
「……ごめん」
たかチャンの剣幕に圧倒され、思わず謝ってしまう。
──だけど、内心は違う気持ちだった。
アタシ……、謝らなきゃいけないようなことしてない。
なんで謝らなきゃいけないの?
赤い糸 たかチャンの態度……、そして言葉に不満が募っていく。
「──もう、こーゆーのはやめろよ」
「わかった……」
「それなら、もういいよ」
アタシが謝ると、満足そうにたかチャンは笑った。
ハァ……。
溜め息が溢れる。
最近、溜め息が多いな……。
「じゃあ、今からカラオケでも行こーぜっ!」
ギュッ
たかチャンにつかまれた手のひら……。
──違う。
手を繋いでも、心があたたかくならなかった。
中学の頃……、手をギュッと繋げば、気持ちを伝え合える気がした。
手のひらから、お互いの気持ちが伝わって……、心が繋がってる。
──そう思っていたのに。
今日は全然違うよ……。
たかチャンのヤキモチは、アタシの心に黒い染みを垂らしていった。
ポツン……。
ポツン……。
少しずつだけど、確実に黒く染まる心。
──気がつけば、アタシの真っ白なたかチャンへの気持ちは、グレーで迷いのある気持ちへ変わっていた。
もうすぐ限界がきてしまいそう。
我慢できないかもしれないよ……。
赤い糸 迷いの中で
アタシは不満を抱えたまま、5月を迎えた。
今日はGW初日だ。
学校に行かなくてもいいという気持ちから、昼過ぎに起きてしまった。
?~?~?~
寝ぼけた頭に、しつこく鳴り響く携帯──
……たかチャンだ。
「……はーい」
「はーいじゃねーよ。何度も電話してんだけど」
「寝てたぁ……」
「嘘だろ!? だってもう昼過ぎだぞ。こんな遅く起きるの、おかしくない?」
またこんな会話かぁ……。
いつもの勘ぐり病が始まったよ。
「……休みなんだから、昼過ぎまで寝てただけ」
「はぁ? じゃあ、昨日俺と遊んだあとに夜遊びして寝坊したのか!? ──誰だよ! ! 高校のヤツだろ!?」
「──だから、違うってばっ。携帯で小説読んでたら、夜中になってて今起きたの!」
毎日エスカレートしていく、たかチャンの妄想。
可愛いヤキモチも、ただのイラつきに変わっていく。
「高校入ってから変わったよな。疲れるよ」
「──ッ! それは……」
それはこっちのセリフだよ! !
──怒鳴りたくなる気持ちを、アタシは必死に抑えた。
赤い糸 最近、こんな会話ばかりだ。
たかチャンがキレて、アタシが説明して……、最後は意味もわからないままに謝る。
「今日、どーすんだよ? とりあえず、家に来るか?」
「……」
「おい! 聞いてんの!?」
……なんか、疲れたなぁ。
たまには美亜や優梨と遊びたい。
今日、ふたりは一緒にいるはずだ……。
「今日……美亜と優梨と遊んだらダメかな?」
「──はぁ!? 無理っ」
思いきって聞いたのに、即答で断られてしまった。
たかチャンの言葉は冷たく突き刺さる。
「たまにはいいじゃん。優梨とは電話で話すくらいで、全然会ってないもん……」
「俺とだって、あんまり会えねーだろ!?」
「でも……」
「なんだよ! !」
「……」
少しの沈黙──
やっぱり無理だね……。
謝って、たかチャンと遊ぼう。
──そう思ったときだった。
「……じゃあいいよ。俺もミツや拓弥たちと遊ぶわ」
「マジで!?」
「つーか、嬉しそうに言う意味わかんない。俺は、芽衣のためを思って時間空けてんのに……」
赤い糸 たかチャンはボソッとつぶやいた。
「……」
何も言えないアタシに、たかチャンは続ける。
「学校違ってあんま会えないから、寂しがらせないよーにしてるつもりなんだよ」
「ごめん……」
この束縛は、たかチャンなりの愛の形で優しさ。
──わかってる。
だけど、この優しさの束縛が、アタシの首を絞めていくんだよ。
アタシを苦しめて、悩ませているんだよ──
たかチャンとの電話を切ったあと、アタシは優梨に電話をした。
優梨の家にはすでに美亜もいるらしい。
アタシも行きたいと伝えると、ふたりは驚いて言った。
「たかチャンはいいの?」
「平気!」
ふたりの問いに、明るく答えた。
……傷ついた様子のたかチャンのことは気にかかる。
だけど──
自然と顔に笑みがこぼれた。
──楽しみ! !
寝起きの顔を思いっきり洗い、スッピンのまま走って優梨の家に向かった。
赤い糸 「久々ー! !」
「芽衣ー! !」
3人で揃ったのは、春休み以来だった。
そんなに月日は経っていないのに、懐かしく感じる。
「芽衣も来れるとは思ってなかった!」
「アタシもっ!」
「来てくれて嬉しかったぁ!」
3人は中学時代のように、輪になって座った。
そして、近況を語り合う。
「ねぇ、海斗クンってどんな人なの!?」
優梨の問いに、美亜の顔は赤く染まっていった。
恋をしてから、ほんとに美亜は可愛くなったなぁ……。
「……海斗クンはねぇ、マジでかっこいいのぉ? それに、優しいんだぁ」
「まぁ、確かに顔はいいよね!」
「──でしょ!? ジャニーズなら、○○クンに似てるよねぇ?」
……そこまではいってない気がするけど。
まぁ、そこはつっこまないことにしよう。
「そーなんだぁ! でも、いい人に会えて良かったね!」
「うん! ! 美亜、頑張るよぉ☆ 優梨はどうなの? ナツくんとは相変わらず順調なの?」
「──え?」
美亜の質問に、優梨の顔が一瞬曇った。
赤い糸 だけど──
すぐに優梨はいつも通りの顔に戻る。
「順調だよ?」
「そっかぁ~☆」
嬉しそうに笑う優梨。
さっきの顔は、何なんだろう……。
──気にかかる、あの顔。
まぁ……順調らしいし、気のせいかな?
「芽衣は……なんだかんだでも、変わらずラブラブだよねぇ」
「──!? アタシ? アタシは……」
いきなり話をふられ、動揺してしまった。
「うーん……順調なのかなぁ?」
「毎日会えるんだから、順調でしょ!?」
「そうでもないかも……束縛ひどすぎるし、勘ぐり病もひどいもん」
「──まぁ、そうだよねぇ。たまに優梨もいきすぎかなって思うけど……愛してる証拠だよ?」
「確かに! 愛がないとできないよ! クラスの男子と話すだけで、怒るらしいもんね」
ふたりは笑っていた。
アタシもつられて笑顔になる。
たかチャンの束縛や妄想や勘ぐりは嫌だけど……、「愛してる証拠」と言われ、ほんとに嬉しかった。
アタシはたかチャンに不満を感じつつも、愛してるんだな──
……そう実感した。
赤い糸 気づけば、夜の8時をまわっていた。
「もうそろそろ帰ろうかなぁ?」
「……もう!?」
「はやっ! !」
「うん。帰るよぉー」
まだ3人でいたいけどね……。
それより、アタシはたかチャンに会いたかった。
傷つけたことも謝りたい。
優梨の家を出ると、すぐにたかチャンの携帯に電話した。
トゥルルルル……
〈留守番電話センターに転送します〉
機械的な女性のアナウンスが聞こえる。
……あれ?
携帯に出ないなんて、珍しいな。
?~?~?~
「──あっ!」
たかチャンからメールがきた。
〈今、ミツと拓弥と酒井と4人で遊んでる!どうした?〉
……まだ一緒なんだね。
会えないかな?
自分から断ったくせに、たかチャンからのメールはショックだった。
〈そっかぁ…今から会いたかったんだぁー。〉
すぐに返事がくる。
〈芽衣が優梨チャンや美亜と遊ぶって言ってたから、まだかかると思った。今は無理だから、夜中に会おう。11時くらいは?〉
11時かぁ……。
赤い糸 ──やっぱり、帰っちゃおうかな?
無理して会うことないし……。
アタシはたかチャンの家に向かうのを止め、自宅方向に引き返そうと足を止めた。
──そのときだった。
視界に……いるはずのない人が歩いて来た。
「……え?」
人違いだよね?
次第に近くなり、顔がはっきりとわかるようになったとき……。
「芽衣じゃん!」
人影は、芽衣に声をかけた。
「酒井……何してんの?」
「久々ー! 今、拓弥とふたりで待ち合わせてるところ! 高橋は来ないけど、芽衣も行く?」
「……あ。アタシはいいや。あのさ……たかチャンと一緒にいた?」
──いた。
そう言ってほしい。
だけど……。
「高橋はいないよ! 今日、断られたぁ。芽衣と一緒じゃないんだぁ……」
酒井の声が、アタシを奈落の底に突き落とす──
たかチャン。
アナタは今、何をしているんですか?
赤い糸 アタシは、なぜか平然を装って答えた。
「そっか! 一緒かと思ったよ。今、優梨たちと会って帰ってるところなんだ。またね!」
「おう! !」
バクバクバクバク
気持ちとは裏腹に、鼓動が速まって足も震えてきた。
地面に立つだけで苦しかった。
たかチャン、嘘ついたんだね……。
──そう思うと、涙が出そうになる。
だけど、嘘をつかれた惨めな姿は、誰にも見せたくない。
酒井がどこかに行くまででいいから、アタシの足、しっかり地面に立たせて──
酒井は手を振って歩きながら、スッと角をまがった。
そして、視界から消えた。
ペタン
アタシはそのまま地面に座り込んでしまった。
「あはは……」
なぜか、笑いが溢れてくる。
アタシ……、何してんだろう。
たかチャンがアタシに嘘ついたこと、誰にも知られたくなくて──
酒井にも、知らないフリをした。
?~?~?~
〈返信ないけど11時でいい?ダメならこのまま酒井んちに泊まるよ?〉
たかチャンからのメールだ。
赤い糸 ……酒井んち?
今、酒井に会ったんだけどね。
喉まで出かかった言葉を、胸に閉まう。
……そして、
アタシはそのまま、携帯の電源を切った──
……優梨の家に戻ろう。
帰った意味がなくなってしまったアタシは、優梨の家に引き返した。
頭の中で、たかチャンの声がグルグルと回る……。
たかチャンが嘘をついた。
たかチャンが嘘……ついた。
その事実が、頭にこびりついて離れない──
家に着くと、玄関で優梨が迎えてくれた。
美亜はちょうど帰ったところらしく、入れ違いになってしまったようだ。
「どうしたの? 忘れ物?」
「……ううん、違う。じ、実は──」
──話そうとしたときだった。
急に唇が震え始めて、声の代わりに、涙が溢れて来た。
「──何かあったの!? とりあえず、アタシの部屋に行こっ……」
「──ッ……グスッ……」
優梨に手を引かれ、アタシは優梨の部屋に向かった。
赤い糸 「……たかチャンが……嘘……グスッ……嘘をついたのぉ……」
「え? 嘘って、どしたの?」
困惑する優梨。
アタシは泣きながら説明をした。
混乱してうまく説明ができなかったけど、優梨は優しく聞いてくれた。
嘘ついたなんて、信じたくない。
だけど……、優梨に話したことで、たかチャンの嘘は現実なんだと実感してしまった。
「……浮気とか?」
「──!?」
まさか……。
それはないよね?
すべてを聞き終えた優梨の口から出た言葉に、一瞬息すらできなくなった。
体が固まり、不安は強まっていく。
──そんなこと考えたくもないけど、もしかして……。
アタシの不安と疑惑は、どんどん増していく。
「ねぇ、どうしよう? 浮気だったら……」
「あ、あの……万が一だよ、万が一。多分違うよー」
動揺するアタシを見て、慌てて優梨は訂正した。
「浮気してるなんて……」
優梨の声は、今のアタシには届かなかった。
頭の中に、悪い想像ばかりが広がっていく──
「非通知でたかチャンにかけてみようかな……」
「……?」
「非通知なら、電話に出るかもしれないし……」
たかチャンを騙すような行為だってことはわかってる。
──だけど、アタシは携帯を手に取った。
電源を入れ、たかチャンの番号の前に184をつける。
「それでいいの? もし出て、浮気してたら嫌じゃない!?」
「だけど、このままじゃ……」
今、たかチャンが何をしてるか知りたい。
メールなら嘘をつけるけど、電話なら周りの音から事実がわかるかもしれない。
どうしよう……。
知りたくないけど、知りたいよ──
ピッ
躊躇しながらも、通話ボタンを押した。
トゥルルルル……
呼び出し音が鳴る度に、胸がギューッと痛くなる。
鼓動が早まっていく……。
「──はい」
5回目の呼び出し音で、携帯からたかチャンの声がした。
そして──
「キャハハハッ?」
「……だよねぇ 」
たかチャンの声と一緒に、女の声も耳に入ってきた。
予想していた最悪な現実が突きつけられる──
「誰?」
「……」
頭が真っ白になった。
鼓動はさっきよりも激しく鳴り、体中から冷や汗が出てくる。
なんて話せばいいの?
──声も出ない。
「──チッ。誰だよ? ……イタ電か!?」
「陸、誰ぇ?」
「切っちゃえー?」
怒るたかチャンの声。
そして、耳に障る女の声が聞こえる。
……女が陸って呼んだ。
なんなの?
アタシだって陸なんて呼んだことないのに……。
──アタシの彼氏に馴れ馴れしくしないで!
女の声に、頭に血がカーッとのぼっていった。
「黙ってんなら切──」
「つーか、何やってんの? 誰といんの!?」
女の声で、さっきまでの不安や恐怖は消えた。
代わりにアタシの頭の中は、苛立ちに支配されていく。
怒りで体が震えた──
赤い糸 浮気
「……芽衣か?」
恐る恐る、たかチャンは言った。
──芽衣か? ……だって。
はぁ!?
「何してんの!?」
「あ……あのさ……拓弥の知り合いの女がいて……たまたま今、話してたところだったんだよなぁ」
「──はぁ? 拓弥クンは今、酒井とふたりで遊んでるんじゃないの?」
「何言ってんだよ……一緒だってメールしただろ?」
「嘘つきだね。あと、陸って呼んだ女って誰なの?」
しどろもどろになりながらも、嘘をつき続けるたかチャン。
それがアタシを、余計に腹立たせていく──
「誰なの!?」
「だから……」
「拓弥クンの知り合いが、なんでたかチャンを陸って呼ぶの!? ──嘘つかないでよ! ! アタシ、さっき酒井に会ったんだからっ! ! ほんとは何してんの!?」
悔しい……。
ほんと最低だよ──
赤い糸 頭の中がグチャグチャに混乱していく……。
「……今から行く。どこにいんの?」
「もういいよっ。浮気してる人になんか会いたくもないっ!」
「──浮気はしてないって! 会って話すから、話聞いてくれよ! !」
「もういいってば! しばらく会いたくないからっ! !」
ピッ
プー…プー…プー…
アタシは一方的に通話を切り、そのまま電源も切った。
これ以上、言い訳も何も聞きたくない。
「……大丈夫?」
「ハァ……大丈夫じゃないよ……」
優梨の声に、カッとなっていた頭から血が引いた。
怒りも消えていく。
そしてアタシの胸には、虚しさだけが残った──
「ありえないよ……一緒にいる女たち、誰なんだろ」
たかチャンが浮気するなんて、思ってもみなかった。
あれだけ毎日一緒にいて、束縛されて……。
愛されてるって思っていたのに。
ねぇ?
あれは偽りの愛情表現だったの?
赤い糸 優梨はアタシを諭すように言う。
「ちゃんと話し合ったほうがいいんじゃない?」
「……もういいよ。会いたくないもん」
「芽衣……会わなくていいの?」
コクン──
アタシは首を縦に振った。
──しばらく優梨と話し、アタシは重い気持ちで家に帰った。
頭の中がたかチャンでいっぱいで、ベッドに入っても眠れない。
今、何してるんだろ……。
まさかさっきの女と!?
……ううん、違うっ!
そんな訳ないよねっ!?
自問自答を繰り返し、嫌な想像を消すように頭を振る。
気になって仕方ないよ。
やっぱり、素直に会えば良かった。
意地を張らずに話し合えば良かった。
メール、きてるかな?
不安に耐えきれなくなり、アタシは携帯の電源を入れた。
?~?~?~
受信7件。
すべてたかチャンからのメールだった。
〈電話して!〉
〈話したいから電話かけて!〉
同じような文章で、電話してという内容のメールが6件。
赤い糸 そして最後の1件のメールは……。
〈今、芽衣んちの前にいる。来てくれるまで待ってるから!〉
……えっ?
受信時刻は、夜の11時過ぎだ。
今は──
携帯の待ち受け画面を見ると、AM03:35と表示されていた。
4時間半も前のメールだし、もういないよね?
まだ5月になったばかりだから、外は寒いし……。
アタシは携帯を閉じて、毛布を頭から被った。
──だけど……。
頭の中に、たかチャンの誕生日の日の光景が浮かぶ。
寒い中、アタシを待っていたたかチャン。
氷のように、冷たくなった手のひら……。
もしかして──
アタシはベッドから降り、パジャマにジャケットをはおった。
そして、静かに家を抜け出す。
きっと、いる訳ない。
……だけど、もしかしたら?
アタシは階段を駆け降りた──
赤い糸 ウィーン
オートロックの扉を出ると、外はシンと静まり返っていた。
やっぱいる訳ないよね。
──足を止め、引き返そうとしたとき。
「──ックション! ゴホッ……ゴホッ──」
「──!?」
外から咳き込む声が聞こえた。
まさか……。
アタシは声のする方向に走った──
暗がりの中、マンションの脇に座り込む人影。
「……たか…チャン?」
声をかけると、座り込む人影はアタシの方を振り向いた。
月明かりに照らされたその人は──
「なんでいるの? もう、真夜中だよ……」
「待ってるって、メールしただろ……ゴホッ……」
寒そうに震えるたかチャンだった。
……なんで待ってんの?
馬鹿じゃないの?
アタシははおっていたジャケットを脱ぎ、たかチャンに駆け寄った。
そして、座り込むたかチャンの肩にジャケットをかける。
「………さみぃ。やっと出てきたな」
「馬鹿っ! ! 風邪ひくじゃん! !」
「馬鹿は風邪ひかねーから、大丈夫!」
そう言い、たかチャンは笑った。
赤い糸 「とりあえず、うちに行こ?」
「……いいの?」
「仕方ないじゃん……」
アタシはたかチャンに手を伸ばした。
──冷たっ……。
アタシの手を握るたかチャンの手は、冷えきっていた。
部屋に入ると、たかチャンは床にペタンと正座をした。
「──な、何!?」
「今日はほんとにごめんなっ。悪かったと思ってる!」
たかチャンは頭を下げた。
「……今日は、何してたの?」
「ミツと海斗と一緒にカラオケ行ってた。……途中で海斗が同中の女を3人呼んで、6人で遊んでた」
「……ふうん」
平然を装いながら答えるアタシ。
本当は頭が混乱して……、気を抜くと、全身が震えそうだった──
電話でわかっていたけど、たかチャンの口から事実を聞きたくなかったよ……。
「──そ、それで?」
「ただ、カラオケ行って帰っただけ……」
「……」
聞きたいことは山ほどあるのに……。
臆病なアタシは、何も聞けなくなった。
「芽衣、許してもらえない? もう誘われても絶対に断るから……」
赤い糸 「……」
許してしまいたい気持ちと、絶対許せない気持ちで揺れる心──
「もう、絶対にしないから……嘘つかないから──」
「……信じれない」
一度やったことは、二度も三度も繰り返してしまうんじゃないの?
アタシは一度もたかチャンを裏切ってないのに……。
束縛だって我慢してる。
友達より、いつもたかチャンを優先してた。
それなのに、たかチャンはアタシを裏切ったんだよ──
「……簡単に、信じれないよ」
「信じて……」
「……わかんない」
本当にどうしたらいいのかわからない。
好きだから……。
信じてたから……。
その分、今日はショックや怒りが強かった。
「だから……もうしないって言ってんだろ?」
「……信じれないもん」
「いい加減、わかってくれよ! 何で信じてくんねぇの? ハァ……」
そんな簡単に許せないよ。
たかチャンは溜め息をついた。
そして……。
「芽衣チャン、お願いだから許してよー……」
「──ッ! !」
たかチャンが立ち上がり、ベッドに押し倒してきた──
赤い糸 「──ッ……何してんの!? 嫌っ……」
「許してくれたら、離してあげる?」
「──はぁ!?」
開き直ったように笑うたかチャン。
アタシはベッドに押さえつけられ、身動きが取れなかった。
「芽衣が好きだから、もうしないっ! ! 機嫌直してっ☆」
「……はぁ!? ちょっといい加減にしてよっ!」
振り払おうと、バタバタもがく。
──すると、たかチャンはふざけるのをやめた。
「元はといえば、芽衣も悪いだろ? 芽衣が美亜たちと会わなければ、俺だって行ってねーし!」
「アタシのせいにしないでよっ! 最低だねっ!」
開き直ってごまかして……。
しまいにはアタシのせい!?
ふざけないでよ……。
頭に血がのぼっていく──
「いい加減にしてって言ってんでしょ!? なんなの!? ──もういい! 別れるっ! ! 毎日束縛ばっかりで、嫌気がさしてたの! ついてけな──」
バシッ
左頬に痛みがはしった。
……?
何が起きたの?
アタシ……。
──叩かれた?
たかチャンは、アタシを睨みつけた。
「はぁ!? ふざけんな!」
赤い糸 まるで、何かが乗り移ってしまったようだった。
こんな顔、見たことがない──
「てめぇが一緒にいなかったのが悪ぃんだろ!? 別れねぇからな! 俺と友達、どっちが大事なんだよ! !」
「……え?」
「え? じゃねーだろ! 答えろよ! !」
ビクッ
怒鳴り声に体が震えた。
怖いよ。
質問の意味も、わからない……。
メチャクチャだよ──
叩かれた左頬が、ズキズキと痛み出した。
どうしたらいいの?
「……たかチャン。怖いよ……急になんで──」
「前からずっと気になってたんだよ! いつもいつも俺より高校のヤツばっか見て──なぁ? そうだろっ!?」
たかチャンはアタシの肩をつかみ、グイグイ揺さぶった。
されるがままのアタシ。
「年始ぐらいにコータ君からも聞いたよ! お前、コータ君とヤッてたらしいじゃん! ! しかもコータ君を利用するだけして、捨てたんだろ!? そんなん聞いて、不安になんねーヤツいるかよ!」
──聞いてたんだ。
たかチャンの目は、怒りから悲しみに変わっていった。
赤い糸 「……だってそうだろ!? 俺だっていつ捨てられるかわかんねぇーじゃん!」
「たかチャン……」
肩をつかむたかチャンの手が、フッと緩んだ──
そして、たかチャンはそのままアタシを強く抱き締めた。
「……俺の気持ち、わかるか? 芽衣を……自分の彼女のことを……芽衣チャンは危ないから気をつけてねぇとヤバいぞ……って……そぅ言われた俺の気持ち──芽衣はわかるか? ……束縛してねぇと不安になんだろ」
たかチャンの声は震えていた。
ビクッ
叩かれた左頬をなでられ、思わず体が固まる……。
「──ッ。怖がるなよ……もう叩かないから。ごめんな。痛かったよな……」
それは、いつもの優しいたかチャンの声だった。
「……ウ……ウウッ……」
気が緩み、思わず泣いてしまった。
怖かった……。
怖かったよ……。
「ごめん……もう絶対にしないから。浮気もしないし、芽衣を怖がらせないから──」
たかチャンはアタシの涙を拭い、赤くなった頬を優しくなでた……。
赤い糸 異常な行動
そして、アタシとたかチャンはベッドで愛を確かめ合った。
たかチャンを不安にさせたアタシが悪いんだ。
アタシがたかチャンに浮気させてしまったんだ……。
たかチャン、ごめんね。
このときから、アタシは感覚がおかしくなってしまったのかもしれない。
暴力を振るわれたのに。
恐怖があった分……、その直後の優しさを、とても幸せに感じてしまった。
思わず振るってしまった暴力は、たかチャンを少しずつ狂わせていく──
GWが明けると、アタシは前と変わらない日々に戻った。
毎日高校へ通い、放課後はたかチャンと会う。
そして、必ず1日の報告をした。
──今日何があって、誰と何をしたよ?
アタシの話を、たかチャンは笑顔で聞いていた。
いろいろあったけど、こうして好きな彼氏に会えるのは幸せなんだよね……。
アタシは、そう思った。
だけど……、そんな日々は、すぐに崩壊する。
人間は、そう簡単に変われないものだった──―
赤い糸 きっかけは、5月の末に届いた1通のメールだった。
ブー…ブー…ブー…
6限目も終わりに近づいた頃、アタシの携帯が震えた。
……たかチャンかな?
先生にバレないように、そっと携帯を開く。
──あれ?
どうしたんだろ?
〈放課後、会いたい。無理?〉
優梨から短いメールが入っていた。
優梨は、たかチャンの束縛も放課後に会ってることも知っている。
その優梨が頼むんだから、きっと何かあったに違いない。
──だけど、今日も放課後、たかチャンが駅に迎えに来るだろう。
どうしよう……。
──ふと、GW初日を思い出した。