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作者:日-芽衣/译者:王欣 当前章节:15365 字 更新时间:2026-6-22 21:38

「頑張ろうよ!」

「もうダメー! !」

美亜はガタガタ震え続ける。

確かに限界そう。

「真冬にミニスカ&薄着だからじゃん」

「だって出会いがあるかも~。可愛い服着なきゃ!」

「美亜らしいね? お参りしたら、おでん行くよー」

美亜は電話中の優梨に手を振って、急いでおでん屋に向かって走って行った。

「……うん? そうだよぉ ? ナツ、大好きっ☆」

ノロケる優梨の甘い声。

あー。アタシもノロケたいっ! !

羨ましいっ。

彼氏……欲しいな。

アッくん以来、彼氏はいない。

セックスも、してない。

告白はされたけど、つき合えなかった。

恋愛するの怖いし、セックスにもまだ少しトラウマがあって、先に進めなかった。

でも、そろそろ彼氏が欲しいなって思い始めてきたの。

寂しくなってきたんだ。

絵馬に彼氏欲しいって書こう!

ふと絵馬のほうに目を向けてみると──

見慣れた後ろ姿があった。

赤い糸 「ゆぅーやぁー! !」

悠哉は絵馬をつるしながら、キョロキョロする。

そしてアタシに気づいて、手を振った。

「ちょっと悠哉のトコ行ってくるから、並んでて☆」

「いいょん?……あ、ナツ、ゴメンゴメン。今、芽衣といて……」

相変わらずナツくんとラブラブの優梨を置いて、アタシは悠哉に向かって走った。

「あけおめ~ 」

「おぅ! あけおめ!」

悠哉に新年の初挨拶。

「誰と来てるの?」

「クラスのやつらだよ。芽衣も知ってるやついるんじゃないかな?」

「そーなんだぁ☆」

悠哉は相変わらず今年もかっこいい。

アタシは悠哉のぶら下げた絵馬を手にした。

「やめろって」

「いーじゃん☆」

悠哉がどんな願い事をしたのか気になるっ!

『合格祈願!A高校に入学できますように! !』

「そっかぁ、受験生だもんね」

「推薦ダメだったし、もぅ神頼みしかない!」

悠哉は苦笑いしていた。

赤い糸 「寂しくなるなぁ……」

「……えっ!? 何?」

アタシの小さなつぶやきは、騒がしい神社の境内にかき消された。

「ううん、なんでもないよ。頑張ってね!」

「おぅ!」

悠哉に手を振って別れ、優梨の隣に戻った。

振り返ると、悠哉も友達と合流してどこかに歩いて行った。

それから30分近くも並んで、ふたりは無事に参拝できた。

みんなが健康でいられますように。

今年は幸せになれますように。

……そして、悠哉が高校に受かりますように。

手を合わせて、お願いした。

アタシの願いが叶いますように──

参拝を終えたふたりは、美亜が待つおでん屋に向かった。

待ちくたびれた美亜が、ふたりを疲れた顔で迎える。

?~?~?~

そんなとき、春菜からメールがきた。

〈大事な話あるから、一回帰ってこれない?〉

春菜からこんなメールがくるのは初めてだ。

「どうしたの?」

「うん……何か家であったっぽい。一度帰って、また来ていい?」

アタシは家へと急いだ。

赤い糸 家に帰ると、久しぶりにお父さんの靴が玄関にあった。

お父さんに会うのは自殺未遂をしてから初めてだ。

何があったんだろう……。

それにお父さんにどんな顔で会えばいいんだろう。

少し悩んでから、リビングの扉を開いた。

ダイニングテーブルに、アタシ以外の3人が座っている。

4ヶ月前までは当たり前だった光景──

……でも、あの頃とは違った。

ギクシャクした空気が流れて、笑顔もない。

「た、ただいま……」

「……久しぶりだな、芽衣。体は良くなったのか?」

「うん」

「……」

会話が続かない……。

お父さんなのに、他人よりも距離を感じた。

あのときのお父さんの言葉がまたアタシの頭の中を駆けめぐっていく。

いらない子供──

ろくでなしの子供──

「芽衣、あのときはすまなかった」

アタシの気持ちに気づいたのか、お父さんは頭を下げた。

「全部、お母さんに聞いたんだ。芽衣の両親は別にいて、母親は死んだんだよね」

「……俺は、最低な父親だ。ひとりになって考えたよ。芽衣を我が子と思い、育ててきたつもりだったのに」

お父さんは言葉を詰まらせて、アタシから視線をそらした。

赤い糸 そして言葉が続かないのか、黙り込んでしまった。

お母さんと春菜は下を向く。

アタシはテーブルにはつかず、近くのソファーに座った。

お父さんの今から話す話は、きっといい話じゃない。

そう思うと、空いているお父さんの正面の席に座りたくなかった……。

少しの沈黙の後、お父さんはまた話し始めた。

「芽衣を我が子のように育てたつもりだったし、芽衣を愛していた。その気持ちには今も変わりない。だが……、俺の心の奥深くには、マチ子ちゃんの子供っていう気持ちがあったんだろうな。芽衣に対して壁があったみたいだ。自分でも気づかないくらいに奥深いところに……芽衣が不良のようになっていく姿を見て、毎日母さんとケンカしたよ。芽衣が聞いていたケンカあるだろ。あのとき、無意識に母さんに芽衣のことを言ってしまった。母さんに頬を叩かれて、我に返ってびっくりしたよ。俺はこんなことを思っていたのかって、驚いた」

お母さんは下を向きながら、泣いているようだった。

「そっか……」

赤い糸 覚悟していた話でもあり、予想していたことだった。

自然と冷静になれた。

後から考えたら、きっと傷ついたり悲しまないために、感情のスイッチを切っていたんだと思う。

何も考えない。

お父さんに対しての感情を殺して、痛む胸を押さえて。

「もう、俺は芽衣の父親失格だな。人としても、失格だ。芽衣に謝らなくてはと思いながら、顔を合わせて話す度胸もなくて……遅くなって、すまなかった。母さん、用紙持ってきたから……」

お父さんはバッグから1枚の紙を取り出し、隣に座るお母さんに手渡した。

お母さんはコクッと頷いて、紙を受け取った。

春菜とアタシは、その紙を見て真っ青になった。そして紙から目を離せなかった。

「書き方、わかるだろ?」

「電話で役所に聞いておきましたから……」

お母さんはペンを手に取った。

赤い糸 ドラマでよく見るシーン。

お父さんの渡した紙は、離婚届だった。

「これからもできる限り、母さんや芽衣や春菜のために力を尽す。母さん、すま……ウゥ……す、すまない……」

お父さんは両手で顔を覆った。

お母さんは泣きながら、震える手で離婚届を書く。

それを見て、春菜は何も言わずにリビングを飛び出して行った。

「この前話した通りで……マンションはこのまま……」

「……わかったわ」

「後は……」

両親が難しそうな話をしていた。

離婚の条件の確認だと思う。

だいぶまとまっている話のようだから、きっと両親は何度も話し合いを重ねてきたのだろう──

今まで両親の仲は決して、悪くなかった。

アタシのせいで、アタシの存在が離婚させてしまったんだ。

「アタシが……アタシがいなかったら……」

お父さんは笑った。

泣きながら笑って言った。

「違うんだ。数年前から俺と母さんの心に、少しずつ溝ができていってたんだ。その溝がどんどん深くなっていって……もう夫婦という関係を保てなくなってしまったんだ。芽衣のことは関係ないよ」

赤い糸 お父さんの言葉にお母さんも続く。

「知らないだろうけど、私たち昔からケンカが多かったのよ。芽衣たちが寝静まってから、毎日のように口論した時期もあった。考え方が違うのよね。離婚を考えたのは、実は3回目なの。別居して、お互いに離れたほうが幸せになれるって思ったのよ。芽衣と春菜は寂しくなってしまうだろうけど……ごめんね」

何も言えなかった。

両親の優しい嘘なのか、事実なのか……。

「芽衣は俺をもう父親って思いたくないかもしれないが、俺には芽衣が必要なんだ。あんなことを言ってしまったが、赤ん坊の頃から芽衣を育ててきて、大切な我が子だと思っている。何かあったら、頼って欲しい」

「ありがとう……」

鼻の奥が、ツンと痛くなった。

目がしらが熱くなって……、下を向きながら、涙をこぼした。

これは悲しい涙じゃない。

嬉しい涙──

お父さんから、この言葉を聞きたかった。

怒りで感情的になった言葉より、今の言葉がお父さんの本音に思える。

いらない子供じゃなくて、大切な子供って──

──お父さん、アタシもお父さんが大切です──

赤い糸 お父さんはタバコを1本吸った。

ゆっくり、ゆっくり……。

そして、フィルターぎりぎりまで吸って──

「そろそろ行くかな……」

そうつぶやいたお父さんの顔は寂しそうだった。

バタン

「アタシ、お父さんについて行く」

リビングの扉が開き、大きなバッグを持った春菜がハッキリとした声で言った。

「春菜は、ここに……」

お父さんが言いかけたとき、春菜がそれを制した。

「おせち、友達にあげたって嘘なの。お父さんに届けたの。あたし、お父さんが家を出てから何度もお父さんの家に行った。ひとりだからグチャグチャで、コンビニ袋とカップラーメンばっかりで……あたしはお父さんのそばにいてあげたい! !」

お母さんは驚いていたが、涙を拭って言った。

「春菜がそうしたいなら、そうしなさい。でも、私はあなたの母だし、芽衣は妹よ。お父さんが忙しいときや寂しいときは、いつでも帰って来なさいね。ここは春菜にとって、いつまでも自分の家なんだからね」

「うん……」

春菜はバッグを強く握り締め、唇を噛んでいた。

涙を目に溜めながら、必死にこらえていた。

赤い糸 春菜は「行ってきます」と言い、家を出て行った。

お父さんはこの家での思い出を噛み締めるように、ゆっくりと出て行った。

お母さんはしばらくお父さんと春菜の出て行った玄関を見つめ、糸が切れたように激しく泣いた。

アタシを抱き締めて、お母さんは号泣していた。

細くて、小さくなったお母さん。

抱き締めると、折れてしまいそうだった──

その晩、お母さんとふたりで久しぶりに外食した。

元旦なので、ファミレスくらいしか開いていなかった。

「私、コーヒーだけで……」

「食べなきゃダメだよ!」

アタシも寂しかった。

食欲もわかない。

でも、強くならなきゃ。

お父さんと春菜の分もお母さんを支えなきゃ! !

「芽衣がお母さんみたいね」

お母さんは笑った。

ふたりで分け合いながらパスタとドリアを食べた。

ふたりきりにはまだ慣れないけど、頑張っていこう。

そうお母さんと約束した。

その晩、春菜からメールがきた。

〈荷物、引っ越し屋に頼んだから、ヨロシクね〉

春菜がいなくなったことの寂しさが押し寄せてきた。

そのとき、アタシは今日初めて号泣した。

赤い糸 待ち合わせ

春菜がいなくなり、2日が過ぎた。

正月の三が日も過ぎ、冬休みも終りに近づいてくる。

「あーぁ、もうすぐ学校だぁ……」

ボヤくアタシ。

春菜がいなくなり落ち込むお母さんを気遣い、外出もせずに過ごしていた。

「たまには遊びに行ったら? お母さんなら大丈夫だから、優梨ちゃん家とか」

「ん……じゃあ、優梨をウチに呼ぶ☆」

「芽衣ったら……。お母さんデパートにお買い物行くから、平気よ」

「……ホント?」

お母さんは立ち上がり、久しぶりに鏡台で化粧を始めた。

「それなら、お言葉に甘えて行ってこよっかな。夜には帰るから、デパ地下で何か買って来て☆」

「はぁい!」

アタシは部屋に戻り、優梨にメールした。

優梨と美亜には両親が離婚したこと、春菜がお父さんについて行ったことを話してある。

〈今日、ヒマ?〉

?~?~?~

すぐに返事が来た。

〈平気なの? お母さん、大丈夫?〉

〈うん、平気。たまには出てこいだって?〉

〈じゃあ、遊びにいこうか☆〉

2日ぶりにメイクボックスを開いた。

2日休んだ肌は、化粧のノリもバッチリだ。

赤い糸 待ち合わせたコンビニに行くと、優梨が先に待っていた。

ティーンズ雑誌を立ち読みしている。

驚かそうと思い、真裏に回ると……。

「……プッ」

「芽衣!?」

優梨の読んでいたページは、初セックスの体験談の投稿欄だった。

「そぉ言えば、優梨はまだだもんねっ?」

「うんっ……なんか、怖くなってきたぁ」

「死ぬほど痛いよ~」

笑いながらジュースを買い、コンビニを出た。

優梨は隣で今も「怖いな」とか「痛いの?」と、ブツブツ言い続けている。

アタシも半年前は、優梨のように初体験に憧れと不安を抱いていた。

でも、アッくんに初めてを捧げて、あっという間の破局。

そう言えば、最近アッくんは何してるんだろう。

アタシが退院した後も、数える程しかアッくんに会ってない。

アタシが遅刻した日に早退していて入れ違いになったり、逆だったり……。

アッくんはあまり登校してない。

もともとまじめに学校に来るタイプじゃなく、毎日来ていたのはアタシと親しくなったときだけだった。

それに、最近、アッくんは様子がおかしかった。

赤い糸 顔が痩せこけていた。

カラコンを付けているせいもあるけど、焦点が合ってない気もするし……。

アタシには別れてから一度も話しかけてこないから、最近のアッくんはわからないけど……。

前のアッくんとは違う気がする。

浮気されてフラれたけど、一時は好きだった彼氏。

気にはなるよ──

優梨といろいろ話しながら、さりげなく聞いてみた。

「最近、アッくんと話す?」

「なんで? 全然話してないよー。芽衣の親友だから気まずいんじゃない?」

「そっか……あっ! ナツくんは?」

「さりげなく、聞いてみる?」

優梨は携帯を手に取り、ナツくんに電話した。

「ナツ~?」

アタシのためにかけたっぽく見せて、実は話したかっただけなんじゃないかって思うくらいにデレデレな優梨。

しばらく経ってから、優梨はナツくんに切り出した。

「そぉ言えば、最近アッくんと話した?」

──そして、アタシと優梨は事実を知ることになる。

アタシにとって、悲しく複雑な事実──

赤い糸 優梨が深刻そうな顔でナツくんと話してたから、何かあったんだろうな。そう気づいたけど……。

そんなくらいにしか考えてなかった。

だけど、問題はそんな軽いモノではなくて、アッくんの人生そのものに関わってくる問題だった。

アタシは優梨の話を聞いて、激しく後悔した。

あのときアタシが、しっかり話していたら……。

すべてアタシのせい。

アタシがアッくんを狂わせる引き金を引いてしまったんだ。

「アッくんと、話したいよ……」

「でも……ナツが芽衣には話すなって言ってた話だから、話したことバレたら──」

「じゃあ、芽衣がナツくんと話す! むりやり優梨に聞き出して話すから!」

「……わかった。優梨が芽衣なら、話したいと思うし」

優梨がナツくんにメールを送る。

そして、3人で優梨の家に集まることになった。

優梨の家までの道のりが、長く感じた。

赤い糸 家に近づくにつれ、アタシは自分の体が小刻に震えるのを押さえることができなかった。

優梨の家に着くと、玄関にナツくんの姿があった。

「ナツ……ごめん、言っちゃって……」

「俺も隠しててごめん。芽衣、ごめんな」

「……」

3人で家に入り、アタシとナツくんは優梨の部屋に入った。

優梨はジュースを取りに、キッチンに向かって行った。

「ねぇ、詳しく教えて」

「あ、あぁ」

「さっき優梨から聞いたけど、アッくん今クスリやってんの?」

「……」

ナツくんは、下を向いてしまった。

「答えて」

ナツくんはそのまま頭をコクコクッと上下に振った。

そして顔を上げ、困ったような顔をしながら口を開いた。

「俺……。夏休み中に何度もアツシと遊んでて、まだ言わないって芽衣と約束してたみたいだけど、つき合ったのを聞いてたんだ。それで……アツシがバイトするっていう話も聞いてたんだけど──」

「バイト? なんのこと?」

「あ……芽衣は知らないかぁ」

赤い糸 アッくん……。

あなたの彼女だったのに、アタシは何も知らなかったよ。

わからないよ……。

それから聞いた話は、初めて聞く話ばかりだった。

アッくんが1ヶ月記念日の昼間に会えなかったのは、カレンという人の引っ越しの手伝いをするバイトを入れていたからだったということ。

アタシが怒って飛び出して、コータと飲んでマンション前で会ったとき、コータにアタシと関係があったようにほのめかされたこと。

そして、クスリに頼ってしまったこと……。

「カレンがアッくんにクスリあげたの?」

「そうらしいよ」

「……カレンとヤッたんでしょ?」

「……らしいね。でも、すぐに後悔したらしいよ。クスリやると、ヤリたくなって、まともな判断ができなくなるらしい」

そうなんだ……。

もう、何がなんだかわかんなくなってきたよ。

クスリなんてテレビの中でしか聞かない話だもん。

わかんないよ……。

「アッくん、ほかに好きな女の子ができたんでしょ? それはカレンなの?」

「はぁ!? それはないよ」

「そーゆうメールがきて、別れたんだけど……」

「絶対ない! ! あいつ、今も芽衣が好きなんだよ!?」

──えっ?

頭の中がグチャグチャになっていく。

赤い糸 「アツシがバイトしたのも、芽衣に1ヶ月記念でプレゼントしたかったからだし。ほかに好きな女なんて、いるわけないって」

ナツくんは信じられないという顔をするアタシに、念を押すように言った。

「今さら……。だって……あのメールは……」

混乱しすぎて、言葉が出ない。

ガチャ

「コーラ持って来たよ!」

優梨が部屋に入って来た。

「優梨……」

「め、芽衣? 大丈夫?」

戸惑うアタシの姿を見て、優梨がアタシの隣に座った。

「アツシが芽衣には言うなってゆうから今まで黙ってたけど、話して良かったな……。ふたりで話し合ったほうがいいんじゃないか?」

「……」

「芽衣とアツシ、何か誤解し合ってんじゃない? 誤解は解いたほうがお互いのためにいいよ」

事情が飲み込めない優梨は、黙ってふたりを見ている。

「それに……今アツシを救えるのは、芽衣だけなんだよ。無視しないで、前みたいに戻ってやってくんないかな?」

救えるのはアタシだけ……。

その言葉が胸に刺さった。

赤い糸 夏休み前のアッくんの姿が頭に浮かんだ。

たくさんアタシを笑わせてくれて……。

悠哉への気持ちを抑えさせてくれたのも、アッくんの存在だった。

たくさんアタシを救ってくれた。

アッくんがクスリをしてると優梨に聞いたとき、すぐにアッくんに会いたいと思った。

それがアタシの本音なはず……。

「話してくる」

「芽衣、アツシは今は家にいるはずだから……」

アタシはコーラを一気に飲み干し、優梨の家を出た。

そして走ってアッくんの家に向かった。

「芽衣チャン! あけおめ! 急いでドコ行くの? 待ち合わせ?」

途中で菜穂さんとすれちがった。

……待ち合わせ。

そうかもしれないね。

「うん! 夏休みの待ち合わせを果たしに行く!」

「はぁ!?」

アタシは走り続けた。

逃げちゃう訳じゃないのに、急いでアッくんの家を目指した。

赤い糸 別れの理由

アッくんのマンションの前に着いたときには、アタシの胸はバクバク激しく打ち、苦しくて息もできない程だった。

こんなに走ったの、久々だよ……。

真冬なのに汗もかいた。

思わずマンションのエントランスに座り込んでしまった。

そのとき──

「芽衣? ……ハァ、ハァ」

マンションの中から息を切らしたアッくんの姿が現れた。

「へっ?」

「窓の外見てたら、芽衣みたいな子がいたから、走って来た……」

アッくんは、痩せた顔でアタシにニコッと笑った。

少し困った顔をしてたけど、とっても嬉しそうに──

会ったら緊張すると思ったけど、アタシも思わずつられて笑ってしまった。

「久々だから緊張するな。だけど、懐かしい」

「うん。アタシは緊張はそんなにないかな。……それより疲れた!」

「とりあえず、ウチ行く?」

アタシは息が整うのを待ってマンションの中に入った。

つき合ってた頃のように、自然にアッくんの部屋に向かう。

あの夏、もう二度と来ることはないと思った部屋のドアが見えてきた──

赤い糸 久々に来たアッくんの部屋は、前よりも少しだけゴチャゴチャしていた。

読みかけの雑誌。

飲みかけのペットボトル。

そして、なぜか絵馬がふたつ。

「適当に座ってー」

「うん……」

ソファーに腰かけると、アッくんはベッドに座った。

初めてアッくんの家に来たときと同じだった。

「前もこうやって座ったよな」

アタシの気持ちに気づいたのか、アッくんが懐かしそうに言った。

「そうだね……」

あの頃は、本当に楽しかった。

1ヶ月マイナス1日しかない短い期間だったけど、幸せだった──

ふたりの間に、沈黙が流れる。

穏やかな沈黙が、少しずつ気まずい沈黙になって……。

「今日……なんでオレんちに来たの?」

「あの……。アタシ……」

また沈黙──

「……会えて良かった。話して謝らなきゃいけないって、ずっと思ってた」

「アッくん……」

「芽衣、あの日迎えに行けなくてごめんな」

楽しみにしてた1ヶ月記念。

嬉しくて、楽しみで……、ウキウキしながらアッくんを待っていた。

あの日の自分を思い出すと、胸が痛かった。

赤い糸 「アタシは……アタシは、アッくんと話し合わないで別れたこと後悔してる。アッくんからのメール見て、すごくショックで……逃げちゃったんだ。でもね、そんな別れ方はよくなかったよね。学校でも気まずかったし……」

「?」

「アッくん、どんどん痩せたよね。気になってたの」

ナツくんから聞いた話は、言わないほうがいい。

全部アッくんの口から聞きたかった。

「芽衣? メールって……どうゆうこと?」

「好きな女できたから別れようって、メールしてきたでしょ?」

「は? してないけど……。芽衣がコータ先輩たちと一緒にいるのを見て、やっぱり何かあってオレよりコータ先輩を取ったのかと思ってた……。カレンから、芽衣に話したって聞いたし。だから、俺は何も言えないなと思って……」

やっぱり、メールは何かの間違いだった。

多分、カレンが勝手に送ったのだろう──

クスリでおかしくなっていたアッくんの携帯をいじる隙くらい、いくらでもあるはずだ。

赤い糸 こんなことって、あるんだね。

話し合っていれば、すぐに解けた誤解。

アタシがアッくんのしたことを許せたとしたら……、今もつき合っていたのかな?

アタシはタバコに火をつけて、ひと息吸ってから確信を突く質問をした。

「なんで、カレンとヤッちゃったの? すごくショックだった」

なんでクスリなんかするの?

ショックだよ。

そんな意味を込めて……。

アッくんは黙っていた。

そして、しばらくしてから口を開いた。

「……今、うまい嘘考えたけど、思い浮かばなかった」

「今さら、嘘はいいよ」

「オレさ……芽衣とつき合う前、クスリやってたんだ。たまにだけど、エクスタシーってやつ。知ってる?」

アッくんの言葉に、胸がズキッと痛んだ。

クスリなんかしてない……。

心のどこかで、そんな期待をしてたのかもしれない。

「知らない」

「タマって言われたりしてるんだけど……キマると嫌なこと忘れられるから、あの日カレンにタマもらったんだ。

それでそのまま……ごめんな。オレ、馬鹿だよな……」

アッくんは溜め息をついて、アタシから目をそらした。

赤い糸 胸が痛い。

忘れたはずなのに、別れた彼氏なのに……。

悲しくて、涙が頬を伝っていく。

「今も、クスリしてるんでしょ? クスリって痩せるってテレビで見た……」

アッくんは答えなかった。

「泣くなよ……ごめんな」

代わりにそう言って、アタシにティッシュの箱を手渡した。

「クスリ……やめて……」

「もぅ、やめようと思ってた」

「ほんとにやめる?」

アタシは、涙でうるんだ瞳でアッくんの目を見た。

少し戸惑った顔をしたアッくんは、アタシの瞳から目をそらす。

「ほんとにやめよう……。お願いだから、やめて欲しいよ」

「……じゃあ、そばにいて?」

「えっ?」

アッくんはベッドから立ち上がり、アタシを抱き締めた。

頭の中が真っ白になって……、そして、グチャグチャに混乱していった。

「そ……そばにいてって? どうゆうこと?」

「オレは……」

抱き締める手が強くなる。

小柄なアタシの体が、もっと小さくなって……。

「オレは、芽衣がいないとダメなんだよ……」

小さな声で、アッくんはつぶやいた。

赤い糸 戻れないふたり

?~?~?~

「携帯鳴ってる……」

「あっ、ごめん!」

アッくんがアタシから離れた。

「ごめん、思わず……」

アッくんは我に返って恥ずかしかったのか、少し赤くなっている。

いいタイミング……。

ドキドキする胸を押さえて、アタシは電話に出た。

相手はお母さんだった。

ふと時計を見ると、すでに夜の8時を回っていた。

「今から帰るね」と伝えて電話を切り、バッグを手に取る。

「もう帰んの?」

寂しそうに声をかけてくるアッくん。

少し気持ちはグラついたけど……。

「帰るね……またメールして。アドレスは変わってないから」

「わかった。さっきはいきなり抱き締めてごめんな」

アッくんに見送られながらマンションを出て、アタシは家に向かった。

家まで送るって言われたけど、それは断った。

ナツくんに聞いたこと、そして、抱き締められたことでも、アッくんがアタシを好きなのかなって実感してしまったから……。

期待させてしまうのは良くないと思った。

赤い糸 あの夏、アタシは確かにアッくんを好きだった。

悠哉への気持ちも忘れるくらいに恋してた。

だけど──

今はあの頃と違う。

アッくんはあの頃のようにアタシを好きでいてくれたのかもしれないけど……。

アタシは忘れようと努力して、冬になった頃にはアッくんを見かけても胸すら苦しくならなかった。

それって、好きじゃないってことだよね?

抱き締められた感触がリアルに蘇る。

あたたかくて、優しくて、ドキドキして……。

嫌じゃなかった。

この気持ちは何なんだろう。

アッくんが心配。

それだけではない。

だけど、わからない──

考えているうちに、家についてしまった。

「ただいまー」

ドアを開けると、見慣れない男の靴とパンプスがあった。

誰だろ?

「お母さん~」

靴を脱いでお母さんに声をかけると、リビングの扉が開いた。

「おかえりー」

「悠哉!?」

片手に箸を持って、何か食べてる悠哉。

リビングには食事中の悠哉ママとお母さんの姿もあった。

赤い糸 部屋にバッグだけ置き、リビングで久しぶりに悠哉たちとご飯を食べた。

「由美さんと悠哉くんと一緒にご飯たべるのは2年ぶりくらいよねー」

「そうねぇ、懐かしいわぁ」

悠哉ママとお母さんは、偶然デパ地下で会ったらしく、たくさんのお惣菜がテーブルに並んでいた。

悠哉はテレビに映るお笑い芸人のコントにときどき笑いながら、あんかけ焼きそばを食べ続けている。

アタシはチビチビとサラダをつまんだ。

お腹は空いているんだけど、悠哉の前で肉とかガツガツ食べられない。

一緒の夕食は嬉しいけど、悠哉の前だと恥ずかしくって、大食いの女だって思われたくないんだもん。

ご飯を大方食べ終えた後、悠哉が声をかけてきた。

「ちょっとコンビニつき合ってくれない?」

「いいよー」

何も気にせず、悠哉に答えた。

でも……。

コンビニへの道で、悠哉から意外な言葉を聞いてしまった。

赤い糸 厚着をして、悠哉と外に出た。

「寒いーっ!」

「ごめんなっ……」

悠哉は、寒そうに両手をこすりながら言った。

「俺、春菜ともぅダメかもしんないよー」

「は!?」

いきなりで驚いた。

てっきりうまくいっていると思っていたから。

悠哉は続けた。

「うまくやってく自信なくなったぁー!」

投げやりに言ったようだったけど、悠哉は寂しそうな顔をしていた。

アタシは何も答えられない。

何も答えられないというか、何と答えればいいのかわからなかった。

ザク……ザク……

少しだけ積もった雪を踏み締める音だけが、ふたりの間に流れる。

「芽衣は最近どぉなんだよー? 恋愛してんの?」

──ドキッとした。

頭にアッくんの顔が浮かんだ。

そして、隣の悠哉の視線にも……。

ドキドキと胸が激しく鼓動を鳴らしている。

赤い糸 「してないよ!」

アタシは下を向きながら答えた。

だって……してないよ。

してないと思うもん。

……ていうか、よくわかんないんだもん。

アッくんに抱き締められた感覚。

悠哉が春菜とうまくいってないこと。

考えると、また頭がグチャグチャになっていく。

「コンポタ買おっ! あとはねぇ、コーラ!」

アタシは気持ちを振り切るように、明るく言った。

「俺は……アイス! にしよーかなぁ」

「雪食べたら?」

ふたりは目を合わせて笑った。

コンビニはもう目の前だ。

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