自然と早足でコンビニに入り、好きな物を買った。
悠哉が時折見せる、寂しそうな顔に気づいた。
「悠哉、大丈夫? 芽衣で良かったら、また話聞くから」
「ありがと。今度、聞いてもらっていい?」
「うん」
それから悠哉は、わざとらしいくらいに明るかった。
きっとアタシに心配をかけさせないため……。
ふたりはコンポタが冷めないように、急いで家に帰った。
赤い糸 夜11時──
悠哉たちは少し前に帰り、リビングにはアタシとお母さんのふたりきりになった。
「もう遅いから、寝なさいね」
「はぁーい」
お母さんに言われ、自分の部屋に向かった。
今日はきっと眠れなさそう……。
ひとりになると、今日の出来事が頭の中にたくさん浮かんできた。
悠哉と春菜、別れちゃうのかなぁ。
なんでなんだろ?
アッくんも、ちゃんとクスリやめてるかな?
大丈夫かなぁ……。
「あーっ。もぅっ!」
頭に次々と浮かぶ答えの出ない問題たちを消すように、アタシは頭をブンブン振った。
ハァ……。
……暴れたら喉渇いちゃった。
寝てるかもしれないお母さんのことを考え、アタシは静かに部屋を出た。
赤い糸 廊下に出ると、真っ暗なリビングから音がした。
「グスッ……ウウッ……」
お母さんの泣き声が聞こえる。
押し殺したような、お母さんの泣き声──
アタシは足を止め、ゆっくりと部屋に戻った。
胸が痛くて……。
アタシのせいなんじゃないかっていう疑問も、また頭に浮かんできた。
アタシは携帯を手にして、電話をかけた。
誰かと話したい。
優梨……。
美亜……。
ふたりとも電話に出ない。
悠哉は、受験シーズンだし……。
アッくんは……?
何してるのかな?
?~?~?~
「ん?」
〈アッくん〉
画面には、そう表示されていた。
胸がドキドキ鳴る。
「はぁい……」
「寝てた?」
「ううん。起きてたよ」
良かった……。
携帯から、アっくんのつぶやきが小さく聞こえた。
アッくんを思い出したら、かかってきた電話。
驚いた……。
「誰かと話したくて、芽衣にかけちゃった」
アッくんは笑った。
まるでアタシの心が読まれてるみたい……。
同じことを考えてたんだね。
赤い糸 それからふたりは、いくつもの話をした。
つき合っていた頃の楽しかった話、優梨とナツくんの話、美亜が初詣でガタガタ震えて爆笑した話。
楽しい話ばかりした。
つらいことを話し出せば、止まらなくなってしまう。
そしてまた、アッくんの優しさに甘えてしまう。
「そー言えばオレ、よく神社行くんだよ」
「そーなの?」
アタシはアッくんの部屋に絵馬があったことを思い出した。
アッくんが神社に行くって、意外だった。
「願いごと、叶った?」
「叶った☆」
「そっかぁー。良かったね!」
そしてまた話は変わり……。
次第にアクビとまばたきが増えていく。
朝6時過ぎ──
携帯を耳に当てたまま、アタシは寝てしまっていたらしい。
「ファーッ……うぅん」
寝返りをうって、目が覚めた。
時計を見ると、昼の3時。
「あ、そう言えば携帯は!?」
電話しながら寝てしまったことを思い出し、携帯を探した。
枕の脇に開いたまま転がってる携帯を手にして……。
「ええっ!?」
携帯の画面が、通話中になっている。
14時間38分。
あせって電話を切った。
赤い糸 夕方過ぎに、アタシはアッくんに電話した。
「ん……?」
「寝てた?」
「大丈夫……」
アタシは、通話中に寝てしまったことを謝った。
そして、ずっと通話中になっていたことを話した。
「うん、そうした」
「へっ!?」
驚きもせず、普通に答えたアッくん。
「芽衣、何かあった感じだったし……寂しいのかなって思ったから、携帯そのままにしといたんだ。ふたりで寝てる感じすんだろ?」
「……そうだったんだ」
アッくんにはお見通しだったんだね。
前からそうだった。
「話せるなら、話せよ」
「うん……」
アタシとアッくんは、翌日会う約束をして電話を切った。
「どうしよ……」
また気持ちがグラつく。
甘えないって決めたのに……。
アッくんの優しさ、嬉しかった。
ドキドキした。
これって、どういうことなんだろう。
自分の気持ちがわからなかった。
赤い糸 翌日──
アタシはアッくんの家に向かって歩いていた。
コンビニに寄って、お菓子を買って……。
アッくんの家に着くと、今日もお母さんはいなかった。
「おじゃまします」
「どぉぞ?」
アッくんの部屋に入ると、テーブルにチョコが乗っていた。
「あれ、アタシが好きなチョコじゃん?」
「前に好きだって話してたから買っといた」
「実はアタシも~」
コンビニの袋から、買ってきた同じチョコを取り出した。
ソファーに座り、さっそくチョコの包みを開けた。
「2個あるから、いっぱい食べれるねっ」
「だよなっ」
アッくんは笑いながら、アタシの隣に座った。
アッくんはいつもベッドに座るのに……。
距離が近くて、緊張するよ。
「チョコ、うまいな!」
「う、うん!?」
声が裏返ってしまった。
アッくんは爆笑する。
アタシは恥ずかしくて、顔を赤く染めた──
赤い糸 そして、それを隠すように、もくもくとチョコを食べた。
「そぉいえば、あさってから3学期だよなぁ~」
アタシの気持ちに気づくわけないアッくんは、のんきに話しかけてくる。
今度は声が裏返らないように気をつけて答えた。
「そうだねぇ。3学期かぁ……」
3学期が終われば3年生になる。
クラス替えがあって、みんなとバラバラになるかもしれない。
そして、悠哉はいなくなる。
「寂しいね……」
「悠哉センパイがいなくなるから?」
「えっ?」
アッくんの言葉にドキッとする。
手にしたチョコを落とし、あわてて拾った。
「芽衣は素直だな」
「え!? えっと……そうゆう訳ではなくて……」
「いいって、いいって」
「……」
アタシは何も言えなくなってしまい、少し膨れてとがらせた口先にチョコを運ぶ。
「いじけるなよー。芽衣が寂しそうだったのは、悠哉センパイのことか?」
「違うけど……んー、多少はあるけど、違うかなぁ……」
「どっちだよ」
からかわれて、アタシは少しスネてしまった。
アッくんはそんな状況を楽しむように、アタシの頭をナデナデする。
赤い糸 アッくんは何がしたいんだろう……。
ナツくんはアッくんがアタシを好きだと言ったし、アッくんにも必要だって言われた。
でも……。
好きならこんなコト、言ったりしないよね。
頭が混乱する。
それなのに、なでられた頭から伝わるアッくんのぬくもりがあたたかくて──
また気持ちが揺れる。
グラグラと、ドキドキと……そして、胸がキューッと痛む。
「じゃあ、アッくんはどうなの?」
「え?」
「クラス替えとか、寂しくないの?」
「芽衣と離れたら寂しくなるねー」
……。
赤くなっていくのが、わかるよ。
「もう1回、つき合わない?」
「えぇっ?」
「また裏返ってる」
頭の中がパニックになる。
アッくんは優しく笑っていた。
「でも……」
「悠哉センパイを好きでもいいよ。前もそうだったじゃん。つき合っていたとき、芽衣は悠哉センパイを忘れてくれただろ?」
……違う、違うの。
アタシは前のアタシじゃない。
頭の中に、レイプされてしまったことがまた鮮明に浮かび上がってくる──
赤い糸 コータと愛のないセックスを経験した。
そしてレイプされて、汚されて……。
それ以来は誰とも経験はないけど。
「もう絶対に芽衣を裏切らない。絶対にクスリもしないから、お願いだから……」
アッくんは何もわかってないよ……。
アタシ自身の問題なんだよ。
アッくんはアタシを抱き締めた。
そして、顔が近づいてきて……。
唇と唇が触れ合う。
気持ちよくて、優しさが唇から伝わってきて……。
でも──
アッくんの舌が唇の間から入ってきたとき、アイツらの顔が頭に浮かんできた。
アイツらとキスしてるような錯覚……。
「ンッ……イヤッ……」
「ごめんっ……」
顔をそらしてキスを拒んだ。
アッくんは、あわてて抱き締めていた手を離した。
アッくんの悲しそうな目……。
「ち、違うのっ」
「むりやり、ごめんな。そんなに嫌がられると思わなくて……」
「ホント、違うの……」
「ごめんな」
アタシは、これ以上何も言えなかった。
レイプされたなんて、絶対に言えない。
答えの代わりに、涙が勝手に頬をつたった──
赤い糸 「泣くほど嫌だった?」
「違う……チガ……ゥ」
アタシの意思とは別に、流れ続ける涙。
「ご、ごめんっ…帰るっ……」
アタシはバッグを手に、アッくんの部屋を逃げるように出た。
アッくんは何も言わず、追いかけても来なかった。
来た道を戻りながら歩いた。
その間も涙は止まらなく流れ、家が見えてきた頃にやっと涙を止めることができるようになった。
泣いてることがお母さんにバレないように、玄関からリビングに向かって明るく声をかけた。
「ただいまぁ!」
そしてアタシは、すぐに自分の部屋に入った。
ハァ……。
アッくんを傷つけてしまったことに後悔が襲ってくる。
忘れたつもりだったのに、アイツらはアタシの心の隅にまだいたんだ。
どこまでアタシを苦しませるの?
いつまでいるの?
──早く消えてよ!
消えてよ! 消えてよ! !
見えない影に向かって、アタシは心の中で叫んだ。
赤い糸 春
アタシは憂鬱な気分のまま、3学期の朝を迎えた。
アッくんからは昨日、メールがきていた。
〈昨日はむりやりごめんな。もうしないから。友達として、明日からもまたヨロシクな!〉
アタシもメールした。
〈うん!〉
文章が思い浮かばなくて、それだけメールした。
ピンポーン──
いつも通りの時間に悠哉が迎えに来た。
「行ってくるね!」
「はぁい、気をつけていってらっしゃいね」
お母さんに挨拶をして、玄関に出た。
「おはよ!」
「おはよぉ~」
悠哉とアタシは並んで学校へ歩き出した。
「あと何回くらい一緒に通えるんだろうね」
「50回くらいじゃね?」
「じゃあ、絶対に遅刻しないでね?」
「芽衣もな!」
悠哉と歩く学校までの道のり。
離れ離れになってしまうカウントダウンが始まった。
赤い糸 それから毎日、変わらない学校生活を送った。
3年は進路や受験で大変そうだったけど、アタシたち2年は関係ない。
アッくんとは何もなかったように友達として過ごしている。
ナツくんと優梨はケンカもあるけど仲良くて……。
美亜は前にアタシも会ったことのある、車に乗っていた男とつき合うとかつき合わないとか騒いでいた。
そして、気づけば1月は過ぎ去ってしまった。
2月、3月、……時は流れて──
たくさん遊んだ春休みも終わって、アタシは3年生になった。
始業式──
暖冬でもう散ってしまった桜並木を通り過ぎ、アタシはひとりで学校へ向かった。
隣にいた悠哉はもういない。
悠哉は希望していた高校に落ちたけど、スベリ止めの高校に合格した。
アタシの家で、一緒に合格祝いをした。
お祝いのとき、春菜も家に来ていた。
悠哉と春菜に微妙な距離があったことに気づいたけど、あれから悠哉には何も言われなかったからアタシはふれなかった。
ひとりでの登校は学校までの距離が、とても長く感じた。
赤い糸 ?~?~?~
学校に着く少し前、アッくんからメールがきた。
〈クラス替え、最悪だよー! !〉
よくわからないまま、学校に向かう。
学校に着いて張り出されたクラス替えの紙を見たとき、やっと意味がわかった。
1組 アタシ
2組 アッくん
3組 優梨
4組 美亜
5組 ナツくん
見事にバラバラなクラス替え。
しかもアタシのクラスには、話せる友達がひとりもいなかった。
教室の前まで行くと、いつもの5人組が自然と集まった。
「マジやだよ~!」
「最悪だょなぁ……」
次々とこぼれるグチ。
キーンコーンカーンコーン──
無情に鳴るチャイム。
渋々それぞれの教室に戻る。
アタシも1組に入った。
出席番号順で決められた席は、一番後ろだった。チョコンと椅子に座り、下を向く。
「芽衣チャンだよね?」
いきなり声をかけられて顔をあげると、隣のクラスだった高橋クンがいた。
高橋クンはコータたちとも仲が良く、かなり遊び人な雰囲気。
名前は知っていたけど、話すのは初めてだった。
そう言えばクラス替えの紙の1組のところに、高橋クンの名前もあった気がする。
赤い糸 「高橋クン……だょね?」
「知っててくれたんだぁー! それならもっと早く話しかけてれば良かった!」
高橋クンはニコッと笑う。
そして空いていたアタシの隣の席に座った。
「目立つから、うちのガッコで知らない人いないんじゃない?」
「それをゆーなら芽衣チャンもだろ? あと、美亜とか。美亜はクラス一緒だったから、友達なんだょねっ!」
「そーなんだぁ!」
高橋クンとアタシは、話が合って先生が来るまで話し込んでいた。
高橋クンは、コータたちとあの家でよく飲んでいたらしい。
会わなかったのが不思議だねって話した。
クラスに友達ができて良かったぁ……。
不安だったから、ほんとにホッとした。
そして休み時間──
高橋クンの席には数人の男が集まって来た。
みんな学年では有名で目立つ男の子。
コータたちみたいな集団だ。
「ねー、ねー。芽衣チャン」
「ん?」
「今日、どっか行かない? 美亜や優梨ちゃんと俺らと」
高橋クンは、周りの男たちをグルグルッと指さした。
赤い糸 美亜は高橋クンとも友達みたいだから来そうだけど、優梨は……。
「優梨、ナツくんとつき合ってるからダメかも?」
「ナツってサッカー部のキャプテンだよね? 優梨チャン彼氏いるんだぁ~」
「マジで落ちるんだけどっ! !」
「お前、フラられたな」
騒ぐ高橋クンと、明らかに落ち込むひとりの男。
確か、中田クン。
中田クンはイカつい系で、ケンカが強いって聞いたことがある。
怖いイメージだったけど、意外といい人そう。
「今、優梨と美亜にメールして聞いてみよっか?」
「してみてよ!」
高橋クンに言われ、メールを打つ。
〈今日、高橋クンたちとどっか行かない?〉
メールを打ってから1分も経たないうちに、美亜が1組の教室に現れた。
「芽衣~? たかチャン~? メール見たょん!」
「おぅ、どっか行こうぜぇ~」
「たかチャンと遊びに行くの、初だょね!」
高橋クンはたかチャンと呼ばれてるらしい。
美亜は乗り気。
優梨は──
?~?~?~
〈ナツに言ったら許可されませんでした!ごめん!〉
やっぱりそうだょね。
「優梨は無理みたい」
「マジで!?」
またまた落ち込む中田クン。
赤い糸 その日の放課後、遊びに行ける人は1組に集まることになった。
最初に中田クンが来て、さっきいた男の中から酒井クンが来た。
バッチリ化粧した美亜も、少し遅れて登場。
最後に、さっきはいなかったけど高橋クンとよく一緒にいる神谷クンも来た。
「もぉ来なそうだから、学校出ない?」
高橋クンの声で6人は教室を出た。
ゾロゾロと校舎を後にして、とりあえず駅の近くのマックに移動した。
校門でアッくんとナツくんと優梨にバッタリ会った。
なんとなく、気まずい……。
「あっ! 優梨たちじゃん☆ 優梨っ! アッくんっ! ナツく~ん! じゃあねっ! また明日ねー! !」
「美亜っ! 芽衣っ! バイバァイ!」
「じゃーなっ!」
優梨とナツくんは手を振り返す。
赤い糸 アタシも軽く手を振って声をかけた。
「じゃあね! また明日」
「はぁい!」
「おぅ、またな~」
「……」
アッくんはタバコを取り出して火をつける。
アタシの声は無視されてしまった。
「アツシ! ここでタバコ吸ってんじゃねーよ!」
「おう、じゃーなっ」
中田クンが声をかけるとアッくんは笑って普通に答えた。
そして、3人は駅とは逆の方向に歩いて行った。
しばらく歩いたとき、美亜はアタシにコソッとささやいた。
「なんか、アッくん怒ってなかった? 無視したよね?」
「うん……」
「何かあった?」
「……わかんない」
無視されて少しムカついてきた。
何もしてないし……。
きっと高橋クンたちと一緒だから怒ったんだと思う。
だけど、そんな理由で怒られても困るよ……。
マックに着いた6人は、それぞれ好きな物を注文して食べた。
話してみるとかなり気が合った6人は、食べ終わったらカラオケに行こうという話になった。
その頃にはアッくんのことは頭の隅にいってしまっていた。
赤い糸 カラオケに入るとアタシはバッグからタバコを取り出した。
「あれ? 芽衣チャン吸うんだぁ~」
「うん、吸う人だよ」
「意外だねーっ」
カラオケに来たはいいけど、誰も歌い始めなくて、6人はまた話し込んでしまった。
「そーいえば俺、中田クンって言われるより下の名前がいいんだけどっ!」
「俺も!」
「名字であんまり呼ばれないし……」
そういうことで、それぞれ名前の呼び方が決まった。
高橋クン→たかチャン
中田クン→拓弥クン
酒井クン→酒井
「なんで俺だけ酒井で呼び捨て!?」
「俺らも酒井は酒井って呼んでるだろ? 拓弥は拓弥だし、俺は美亜にもたかチャンって言われてるじゃん。めんどくせーから、酒井で」
みんな爆笑していた。
酒井は話してみるとお笑いキャラで、楽しい人だった。
身長もほかの3人より低くて160ちょっと。金髪のボウズみたいに短い髪が、子ザルを連想しちゃう感じ。
可愛い弟みたいなイジラレ系の人っぽい。
赤い糸 「充は充でいいだろ?」
「なんでもいーよ!」
神谷くんは充って言うらしい。
「充だから、ミツは?」
神谷クンの隣に座る美亜が言った。
「任せるっ」
「じゃあミツで?」
4人の呼び名が決まった。
「うちらも呼び捨てでいぃから! ねっ、芽衣☆」
「うん、いーよ!」
6人は友達になったばかりなのに、どんどん仲が良くなっていった。
たかチャンたち4人は、仲がいいのに性格はバラバラな気がした。
だから仲がいいのかな?
たかチャンは、ひと言で言うとチャラい。
顔はカッコイイけど軽そう。
コータみたいな人だなと思った。
拓弥クンは、優しい。
ルックスは中の中で、見た目は怖い。短髪の茶髪で、イカつい。だけど話すと純粋。
酒井はお笑い。
そして、ミツ。ミツはよくわからない。
たかチャンの一番の親友らしいけど……。
顔は、かっこいい。
かっこ良すぎなくらいに整ってる。
肌は黒いけど、ほかの3人と違って黒髪で大人っぽい。
無口なのか、あまり話さなくてクールな感じ。
でも……。
ときどき見せる笑顔は幼くて優しい。
赤い糸 それから6人は、歌って騒いで楽しく過ごした。
あっという間に夜になり、解散することになった。
「美亜! 家近いし、一緒に帰ろうぜー」
拓弥クンが美亜に声をかける。
そしてアタシは、一番家が近かったたかチャンと帰ることになった。
暗くなった道をふたりで歩く。
今日の朝まで、まったく話したことのなかった人と仲良くなって……、ヘンな感じ──
「明日からまた学校でヨロシクな~」
「こちらこそっ☆」
たかチャンと携帯の赤外線通信で連絡先を交換した。
クラスに仲良くできる友達ができて良かった。
しかも隣の席だし、ホントに良かった!
これから学校生活が楽しくなりそう。
──そう思っていた。
でも現実は、違っていたんだ。
アタシにとって学校は、どんどん居心地の悪い場所になってしまったんだ……。
赤い糸 修学旅行
この日以来、たかチャンたちとアタシはどんどん仲良くなっていった。
そしてクラスの女の子にも友達ができた。
沙良とアイちん。
沙良はちょっとギャル系の女の子。
アイちんは下北沢にいそうな古着とか大好きな子。
優梨や美亜とはもちろん仲がいいけど、沙良とアイちんと過ごす時間も増えてきた。
アッくんとはあの日以来、気まずくなっていた。
挨拶はするけど、極端にメールは減っていった。
それに、アッくんに会うときはたかチャンたちといることが多くて、まともに話しもしなかった。
アタシの中で、アッくんに対しての好意がどんどん小さくなっていったからかもしれない。
冬には「まだ好きかも?」と思っていたのに、時間と距離はアタシの気持ちを冷めさせてしまった。
今は新しい友達といるのが楽しい。
それで満たされていた。
そんなアタシに、アッくんは気づいていたのかもしれない。
赤い糸 4月も終わりかけたある日の放課後。
アタシは優梨とふたりで遊んでいた。
「ナツくんとは順調?」
「だねっ☆」
明るい優梨の返事。
「芽衣は好きな人は~?」
「……わかんないっ。今は誰も好きじゃないのかも」
「そっかぁ」
好きな人……。
最近、意識してなかったなぁ。
「友達と遊んでるのが楽しくて忘れてたよ。言われてみたら、好きな人や彼氏欲しいなぁー」
「アッくんは?」
「えっ!?」
「それとも高橋クン?」
「……へっ!?」
優梨は少し真面目な顔をして、アタシの目を見た。
「最近の芽衣、高橋クンたちとばかりいるから、アッくん複雑みたぃだょ~」
「……そっかぁ」
アッくんの様子からわかってはいたけど、優梨の口から聞くと胸が痛んだ。
「それに、高橋クンとできてるって噂立ってるよ」
「ええっ!? たかチャンは友達だよ!?」
「それはわかってる! だけど、噂が立ってるの。けっこーみんな知ってるよ」
「えっ……」
訳がわからない。たかチャンとは何もないのに……。
赤い糸 「アッくんも知ってるの?」
「……うん。ナツがアッくんも知ってるって言ってた」
「誤解、解かなきゃ! !」
あわてて携帯を取り出す。
優梨はそんなアタシの姿をジッと見て、言った。
「芽衣がアッくんのことを好きになれないなら、噂は放っておけば?」
「なんで!?」
「アッくんが可哀想になってきた……」
どういう意味?
ウソの噂なんだよ?
「アタシは芽衣と親友だけど、アッくんも親友だと思ってる。だから……中途半端な芽衣の気持ちに振り回されたら可哀想だって思う」
「中途半端なんかじゃないよ──」
「アッくんがクスリしてるって知ったとき、側にいるからって約束してやめさせたって言ってたじゃん。でもさ、3年になってから、一度もアッくんとふたりで遊んでないじゃん? みんなで遊ぶときだって、アタシは2回しか来てないよ。ほかは高橋クンたちと一緒じゃん」
「そ、それは……」
言い返そうにも言葉がなかった。
優梨に言われなくてもわかってる。
たかチャンたちといるのが楽しいんだもん……。
だけど──
赤い糸 アタシは優梨と別れた後、アッくんの家に向かった。
頭じゃなく、足が勝手に歩いている感じ。
家に着くと、驚いた顔をしたアッくんが迎えてくれた。
「どしたの? ビビった」
「近くにいたから、久しぶりに遊びに来ちゃった」
嘘をついた。
自分でも、なんで来たのかよくわからない。
アッくんの部屋に入り、たわいもない会話をする。
少しぎこちない空気の中、沈黙がないようにベラベラと話す。
アッくんはしばらくアタシの話を聞いてから、口を開いた。
「来て平気なの? 高橋は?」
「は? 関係ないよ! ヘンな噂あるみたいだけど、誤解だもん」
「そんな否定しなくてもいいよ。オレに気を使わなくていいよ」
「違うって!」
アタシは必死に否定した。
何でかわからないけど、アッくんには誤解されたくなかった。
「ホントに違うから──」
ギュッ
いきなりアッくんに抱き締められた。
そして、キス。
ビックリして、されるがままのアタシ。
そしてアッくんは離れた。
「……」
驚いて、声が出ない。
赤い糸 アッくんは絶句するアタシの背中に手を回し、座っていたソファーに押し倒した。
「!?」
目の前にはアッくんの顔があって、天井のライトが見えて……。
アッくんの手が、アタシの胸を揉んだ。
「えっ!? ち、ちょっと……」
「……黙ってて」
「え!?」
パニックになる。
その間もアッくんの右手は胸で動き続け、左手でアタシの内モモをなでる。
訳がわからない。
でも……、久しぶりに触られた体は敏感に反応する。
強引なのに、指先は優しくて……。
アタシは理性を忘れてしまった。
そして快感に身を委ね、最後まで許してしまった。
終わった後、アタシの心はポッカリと穴が開いたようになっていた。
体だけは満たされて汗ばみ、息があがっている。
下着を着け、アッくんに背を向けた。
「……ごめん」
「謝らないで。謝られると惨めになりそうだから……」
アタシは、自分の中にある本能というものがわからなかった。
こんなに簡単にセックスしてしまった罪悪感と、久しぶりに感じた快感──
心は揺れ動いていた。
赤い糸 翌日──
学校に行くと、教室は修学旅行の話で盛り上がっていた。
たかチャンがアタシを見つけ、声をかけてきた。
「芽衣! おはよ! 来週、修学旅行のホームルームだって! 一緒の班にしようぜっ!」
「う……うん! そうしよーよ」
たかチャンと話しながらも、アタシは周りをキョロキョロと見渡した。
たかチャンとデキてるっていう噂がある──
みんながアタシをそういう目で見てるんじゃないかと気になってしまう。
「あと、誰にする? 班は5人だよな?」
「誰にしよっかぁ……」
「酒井もだろ?」
「もちろん!」
始業式の翌日、教室に行くと離れた席に酒井がいた。
カラオケのときは知らなかったけど、実は同じクラスだったことが発覚。
あとふたり。
……! ! ちょうど、沙良とアイちんで5人だ。
そしてタイミング良く沙良が教室に入って来た。
「沙良、おはよ!」
「おはよ!」
そして、沙良に修学旅行の班の話をした。
「マジで!?」
「うん。嫌かな?」
沙良は驚いていた。
たかチャンたちと沙良は全然仲良くないから、嫌なのかも……。
みんなによく怖がられてるみたいだし……。
赤い糸 「やっぱ、ダメかな。芽衣は沙良とアイちんと同じ班が良くて……でも、たかチャンたちとも──」
「ちょー嬉しい! ありがとうっ! !」
沙良は驚いたと思ったら、今度はアタシの両手を握ってピョンピョンはねて喜んでいる。
「?」
「アタシね……」
沙良はアタシの耳元で言った。
「高橋クン、好きなんだぁ~?」
沙良は満面の笑顔。
「マジで!? もっと早く言ってくれたら良かったのにー! !」
「ち、ちょっと! 声でかいってば! !」
思わず大声が出たアタシを、沙良が真っ赤になって止めた。
「ごめんごめん」
「もうっ!」
沙良はたかチャンが好きなんだぁ?
確かにたかチャンはモテる。
彼女も好きな人もいないみたいだし、同じクラスになってからアタシが知るだけでも5人にコクられていた。
沙良もそうだったなんて……。
協力してあげよう!
アイちんに話すと少し悩んでいたけど、沙良の気持ちを聞いて了解してくれた。
「これで班が決まったねっ!」
「沙良の恋愛作戦も☆」
「恥ずかしい……」
修学旅行が楽しみ!
ウキウキしてきた! !
赤い糸 さっそくたかチャンと酒井に話し、5人で集まった。
「田口と中川とはほとんど話したコトないけど、これからヨロシクな!」
「うん☆ 高橋クン?」
たかチャンの言葉にデレデレな沙良。
その日から5人で仲良くなった。
アタシはその状況がとても嬉しかった。
沙良にはたかチャンとうまくいって欲しいという気持ちが日に日に強まっていく。
でも、その一方で純粋に恋できる沙良が羨ましかった。
アタシはあの日から、アッくんと時々関係を持ち続けていた──