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作者:日-江户川乱步 当前章节:7787 字 更新时间:2026-6-22 19:58

「わかった、わかった。たくさんの黄金の板を、はこんできて、ここで、つぎあわせたものだよ。そうでなければ、ここまで、はこんでくる道で、みんなに見られてしまうわけだからね。」

 いかにも博士の言うとおり、それは何百何千という金の板を、金の鋲でつなぎあわせて、どくろのかたちに、つくったものでした。博士たちの先祖は、よほどかわりものだったとみえて、手数をいとわず、こんな怪物を造りあげておいたのです。

 しかし、それは、ただ、ものずきというだけではありません。ぶきみな洞窟のおくの、やみの中に、こんなおそろしいかたちにして、黄金をかくしておけば、たとえ、洞窟にはいるものがあっても、ひとめ見て、逃げだしてしまうにちがいないからです。げんに、漁師の若者は、化けものと信じきって、熱病にかかって、死んでしまったではありませんか。ここに、黄金をかくした人の、ふかい考えがあったのです。

悪魔の知恵

 黒井博士は、大どくろの黄金板を、指でコツコツたたいて、鋲でとめたぐあいを、しらべていましたが、そばにいる松野さんと八木さんにむかって、言うのでした。

「この何千枚という、金の板をはがすのは、大しごとですね。道具も、持ってこなかったし、われわれ六人の力では、ちょっと、むりかもしれませんね。」

「そうですよ。われわれは、いったん陸にかえって、てきとうな技師をたのんで、おおぜいの人をつれて、もう一度、出なおしてくるほかはないでしょうね。それに、土地の警察にも、とどけでて、保護をねがう必要があります。なにしろ、この宝ものは、怪人四十面相が、ねらっているのですからね。」

 松野さんが考えぶかく言いました。

「わたしも、それがいいと思う。しかし、手ぶらで、かえったのでは、なかなか、土地の人が、信用しないだろうから、この金の板を二、三枚はがして、しょうこに持ってかえることにしよう。道具がなくても、二枚や三枚、はがすのは、なんでもありませんよ。」

 博士は、そういって、大どくろのあごのへんを、コツコツたたいていましたが、

「なんにしても、めでたい。われわれは、とうとう、もくてきをたっしたのです。これだけの黄金は、じつに、ばくだいなねうちですよ。われわれは、これを国庫におさめて、そのかわりに、紙幣をもらえばいいのだから、国のためにも、たいへんな、利益になるわけです。ながいあいだ、暗号を研究した、かいがありましたね。おたがいに、こんなうれしいことはない……。しかし、しごとにかかるまえに、いっぷくしましょう。みなさんも、ずいぶん、つかれたでしょう。」

 博士は、洞窟の一方のすみに、腰をおろし、ポケットから、タバコを出して、火をつけました。人々も、それにならって、思い思いの場所に、腰をおろして、水筒の水をのんだり、タバコをすったりするのでした。

 そうして、しばらくやすんでいるうちに、ふしぎなことがおこりました。まず松野さんが、コックリ、コックリと、いねむりをはじめ、それから、八木さんも、小林少年も、ふたりの青年も、つぎつぎと、おなじように、コックリ、コックリ、やりだしました。しばらくすると、腰をおろしていたのが、グッタリと、横になり、つめたい岩の上に、ながながと、ねそべるものもあり、グーグーと、いびきの音さえ聞こえ、みんな、前後も知らず、ねこんでしまったようすです。

 六人のうちで、たったひとり、おきていたのは黒井博士です。博士はみんなの肩を、つぎつぎとゆりうごかして、ほんとうに寝てしまったことをたしかめると、なぜか、ニヤリと笑いました。半白のフサフサしたかみの毛、太いふちのロイドめがね、三角がたのあごひげ、その、ひとくせありげな博士の顔が、うすきみ悪く、ニヤリと、笑ったのです。

「オヤオヤ、みなさん、たわいもなく、寝こんでしまいましたね。これはどうしたことです。わたしひとり、のこされては、さびしいじゃありませんか。だが、みなさん、これから、どんなことが、おこると思いますね。いいですか。一そうの快速艇が、どこからともなく、この島へやってくるのです。それには、十人の、わしの友だちが乗っている。うでっぷしの強いやつばかりです。

 快速艇は、もういまごろは、島の岸についている。十人の友だちが上陸して、小船の番をしている、じいさんの漁師を、ひっとらえ、それから、洞窟の入り口にまっている、ふたりの若者を、ひっとらえ、三人とも、しばりあげてしまう。

 そうしておいて、十人の友だちは、この穴へはいってくる。麻ひもの道しるべがあるから、まよう気づかいはない。いま、じきに、ここへやって来ますよ。そして、ねむっているみなさんを、しばってしまう。あとには、わしと、十人の友だちだけだ。なにをしようと、だれも、じゃまをするものはない。そこで、わしたちは、なにをはじめると思いますね。ウフフフ……。」

 黒井博士は、そう言って、さもうれしそうに、ぶきみな笑いをもらすのでした。

 そのとき、ねむっていた五人の中から、人の声が聞こえてきました。

「むろんきみたちは、金の板を、すっかり、はがしてしまうのさ。そして、それを穴のそとへ、はこびだし、快速艇につみこんで、どこともしれず、ゆくえをくらます。フフン、じつに、うまく考えたねえ。悪魔の知恵は、おくそこが知れないねえ。ワハハハ……。」

 ひともなげな、たかわらいが、洞窟に反響して、ワーン、ワーンと、おそろしい、ひびきをたてました。

 黒井博士は、ギョッとして、思わず身がまえました。

「だれだッ、いま、笑ったのは、だれだッ。」

「ぼくだよ。きみのひとりごとが、あんまりおもしろかったので、つい目がさめてしまったのだよ。」

 そう言って、ノコノコおきあがってきたのは、顔にほうたいをした八木さんでした。

「さては、きみは、さっきのコーヒーを、のまなかったな。」

「のまなかったよ。なんだか、すこし、にがすぎたのでね。」

 さっき、とちゅうで、黒井博士が、みんなにのませたコーヒーには、ねむりグスリが、はいっていたのです。みんなは、そうとも知らず、コーヒーをのんだので、こんなに、ねむりこんでしまったのです。しかし、六人のうち、ほんとうに、コーヒーをのんだのは三人だけでした。あとの三人は、のむまねをして、のまなかったのです。それは黒井博士と八木さんと、それからもうひとり……。そのひとりが、だれであったか、読者諸君は、もうおわかりでしょうね。

「フーン、すると、八木さんは、いまの、わしのひとりごとを、すっかり、聞いたのですか。」

 黒井博士が、いちじのおどろきから立ちなおって、おちつきはらった声で、たずねました。

「聞きましたよ。そして、悪魔の知恵に、すっかり、感心してしまったのです。」

 八木さんは、博士のほうへ、近づきながら、これも、おちついた声で答えました。ふたりとも、左手に懐中電灯をもって、おたがいの顔をてらしあいながら、話しているのです。

「で、きみはどうするつもりです。わしの味方になりますか、それとも、敵にまわりますか。」

「味方になれば、この黄金を、ふたりで山わけにしよう、と言うのですか。」

「マア、そんなことですね。山わけでは、これだけの計画をたてた、わしのほうが、ちと、ひきあわないがね。」

「しかし、山わけでは、ぼくは、ふしょうちですよ。」

「エッ、ふしょうちだって? それじゃ、どうすればいいのだ。」

「みんなもらいたい。きみはこの黄金について、なんの権利も、持っていないのだ。」

 八木さんの声は、だんだん、強くなってきました。博士はそれを聞くと、またギョッとしたように、ひと足、うしろにさがりました。三角ひげが、異様にふるえ、ロイドめがねの中の、両眼がグッとほそくなって、みるみる、邪悪の形相にかわってきました。

「ナニッ、この黒井博士が、なんの権利も、持っていないというのかッ。」

「黒井博士は権利を持っている。だが、きみは黒井博士じゃない。まっかな、にせものだッ。」

 八木さんのはげしい声が、洞窟内にひびきわたりました。

どくろの歯

 黒井博士と八木さんとは、あんこくの洞窟の中に、あいたいして立っていました。おたがいの懐中電灯にてらされた、ふたりの顔には、はげしい敵意がもえています。

「きみはなにも知らないだろうが、きみたち三人が飛行機で出発したあとで、東京にはみょうなことが、おこっていたのだ。」

 八木さんが、はじめました。ほうたいで半分かくれた顔に、するどい目が光っています。

「きみたちが出発したあとで、ぼくは、黒井博士邸に電話をかけた。しかし、いくらベルがなっても、だれも電話口へ出てこない。なんど、かけても同じことだ。そこで、ぼくは、ふと、うたがいをおこした。念のために、自動車で博士邸へ行ってみた。玄関がしまって、ひっそりしてる。だれもいないらしい。博士がいないのはわかっているが、博士の娘さんと、やとい人がいるはずだ。おかしいと思ったので、ぼくは窓をやぶって、うちの中にはいってみた。すると、小さい娘さんが、さるぐつわをはめられ、手足をしばられて、部屋にたおれていた。おとうさんは? と聞くと、二階だというので、二階をさがしまわった。すると、げんじゅうにかぎをかけた、押しいれの中に、黒井博士その人が、しばられたまま、正体もなく、ねむっていた。麻酔薬をのまされたのだ。

 黒井博士がふたりになった。ひとりは飛行機で出発した。ひとりは、家の中でしばられていた。どちらが、ほんとうの博士であるかは、いうまでもない。しばられていたほうが、ほんものなのだ。すると、ここにいる黒井博士は、まっかなにせものに、ちがいない。」

「夢でも見たんだろう。そんな、バカなことが、あってたまるものか。きみは、いったい、わしをだれだと言うのだ。」

 黒井博士は、いたけだかに、つめよりました。ところが、八木さんのほうは、そのとき、にこにこと、笑ったのです。その笑い顔には、どこやら見おぼえがあります。八木さんは、あいての顔を、まっすぐに、指さしながら、さけびました。

「きみは、怪人四十面相だッ。」

 それを聞くと、博士はタジタジとなりましたが、まだ、かぶとはぬぎません。

「しょうこがあるか。」

「しょうこは、これだッ。」

 さけびざま、八木の手がすばやく、博士の頭にのびました。そして、アッというまに、半白のカツラが、ひんむかれ、ロイドめがねが、はねとばされ、三角のあごひげが、むしりとられました。その下から出てきたのは、黒々としたかみの、わかわかしい顔です。

「さすがに変装の名人だ。黒井博士とソックリだったよ。だが、もうこうなったら、おしまいだね。きみは、ふくろのネズミだ。」

 化けの皮を、むかれた、四十面相は、もう、悪びれてはいません。かれのほうでも、ニヤリと、笑いかえしました。

「フーム、えらい。さては、きみは……明智小五郎だなッ。ほうたいの変装とは古いぞ。それをとって、すがおを見せてもらいたいな。」

 四十面相が見やぶったとおり、八木さんに変装していたのは、名探偵、明智小五郎でした。かれは笑いながら、にせけがのほうたいを、とりさりました。

 かくして、おたがいに、うらみかさなる巨人と怪人とは、地底のあんこくの中で、黄金の大どくろを前にして、異様な対面をとげたのです。

「ワハハ……、明智君、ひさしぶりだね。しかし、きみはたったひとりだ、小林のチンピラも、ふたりの青年も、よく寝ている。一対一だね。ところが、おれのほうには、まもなく十人の味方がやってくる。一対十では、いくら名探偵でも、手の出しようがあるまい。気のどくだが、こんどもまたおれの勝ちだね。」

 四十面相は、おちつきはらって、せせら笑うのでした。しかし、明智のほうでは、そんなことには、すこしも、おどろきません。

「れいの快速艇の十人だね。ところが、こっちには、十五人の警官隊が、いまごろは、もう、この島へ上陸しているんだよ。ぼくはむこうの村につくまえに、とちゅうで、警察署によって、うちあわせておいたのだ。

 四十面相と聞いて、警察の人たちは、むしゃぶるいをした。そして、くっきょうな十五人の警官が、大がたの快速艇にのって、もう島についているころだ。きみのほうの快速艇は、警察船と見て逃げだしたか、それとも、この岩の上で、ひとりのこらず警官隊にほばくされたか、いずれにしても、もう、きみの味方は、ひとりもいないはずだよ。」

 それを聞くと、四十面相のひたいに、ふといかんしゃくすじが、ムクムクと、ふくれあがりました。顔色は激怒のあまり、むらさき色になっています。

「フーム、よくも、そこまで、手がまわった。さすがは明智だ。ほめてやるぞ……。こうなれば、おれは、ふくろのネズミだ。ふくろのネズミが、なにをやるか、きさまも、よく知っているだろう。おれは人殺しはきらいだ。しかし、おいつめられたネズミは、死のものぐるいで、なんだってやるぞッ……。これを見ろ。サア、きさまのいのちと、ひきかえだ。警官隊が来ないうちに、おれを逃がすか。それとも、きさまが死ぬか。どちらをとる?」

 四十面相は、いきなりポケットからピストルをとりだして、明智の胸につきつけました。しかし、明智はビクともしません。やっぱりにこにこ笑いながら、あいての青ざめた顔を、ながめています。

「そこをのけッ。でないと、ぶっぱなすぞ。」

「気のどくだが、逃がすことは、できない。うつなら、うってみるがいい。」

 四十面相は、明智のおちついた、笑い顔を見ると、むしょうに、はらがたちました。もう、がまんができないのです。ピストルのひきがねにかかった指が、グーッと、まがりました。カチッと、ピストルは発射されたのです。

 名探偵は胸から、血を流して、たおれたでしょうか。いや、どうしたわけか、明智はへいきな顔で、にこにこしています。あせった四十面相は、またカチッと、ひきがねをひきました。こんどもだめです。すこしも手ごたえがありません。

「ハハハ……、きみはぼくの、いつものくせを知らないとみえるね。ぼくはあいてが飛び道具を持っているときには、そのたまをぬいたうえでなくては、勝負をしないのだよ。さっき、ここへくるみちで、サルのような声をたてる小人があらわれたね。その小人がきみにぶっつかった。そのとき、きみのピストルと、ぼくのピストルを、とりかえたのだよ。ふたつのピストルは、おなじ型だった。そして、小人がきみのポケットに、すべりこませたぼくのピストルには、実弾が一つもはいっていなかったのだ。きみのポケットから、ぬきとったやつは、これ、ここにある。こっちにはちゃんと、たまがはいっているんだ。サア、手をあげたまえ。」

 明智はそう言って、自分のポケットから、ピストルを出し、四十面相の胸に、ねらいをさだめました。主客てんとうです。さすがの四十面相も、あまりのことに、あっけにとられてしまいました。そして、たまのないピストルを、地面にほうりだして、思わず両手をあげるのでした。

「すると、あの小人は……。」

「ごぞんじの小林少年さ。まっ暗ななかで、きびんに、はたらいたので、だれも、それとは気づかなかった。こういうときは、あのリスのように、すばしっこい少年が、いちばん、やくにたつのだよ。」

「ちくしょう。また、あのチンピラに、してやられたのかッ。」

 四十面相は、いかりにもえて、洞窟の中を、見まわしました。

「ハハハ……いくら、さがしたって、小林はもうここにはいないんだよ。小林もコーヒーはのまなかった。さっきまで、ねむったふりをしていたばかりだよ。エ、どこへ行ったというのか。察しが悪いね。小林は、ぼくの代理に、警官たちを、でむかえに行ったのだよ。しばらく、そうして、まっていたまえ。いまに、小林が十五人の警官を、ここへ、あんないしてくるはずだ。」

 四十面相は、もう、かんねんしたのか、そこに立ったまま、手むかいもしなければ、逃げだそうともしませんでした。顔色は死人のようにまっさおです。

 それから十分もたったころ、洞窟のはるかむこうから、おおぜいのクツ音が、ぶきみな反響をともなって、聞こえてきました。そして、そのクツ音は、だんだん高くなり、やがて、おびただしいひかりが、岩のまがりかどから、あらわれました。十五人の警官隊が、ふりてらす懐中電灯です。

 洞窟の中は、昼のように、明かるくなりました。そのひかりの洪水の中へ、いかめしい制服の警官隊が、列をなしてなだれこみ、その先頭に、われらの少年名探偵、小林君のいさましいすがたが見えました。かれは、リンゴのようなほおに、かわいらしい微笑をうかべ、まるで部隊長のように、とくいな顔つきでした。

 四十面相は、もうすっかりまいっていました。かれは明智のピストルと、警官隊のすがたに、おびえて、だんだん、あとじさりをし、いまは、黄金の大どくろの口のへんに、もたれかかって、肩で息をしながら、うつろな目で、こちらを見つめていました。

 どくろの斧のような巨大な歯ならびは、ちょうど、四十面相の肩のへんにかかっています。十いくつの懐中電灯が、そこに集中しました。ギラギラ光る黄金どくろの巨大な歯は、にくむべき怪人四十面相に、かみついています。心なき黄金どくろも、四十面相の悪念をにくんで、いま、最後の刑罰をくわえているかのように、見えるのでした。

 かくして、さしもの怪人四十面相も、ついに、ほばくせられ、小林少年のながいあいだの苦労が、むくいられる時がきたのでした。

底本:「怪奇四十面相/宇宙怪人」江戸川乱歩推理文庫、講談社

 1988(昭和63)年1月8日第1刷発行

初出:「少年」光文社

 1952(昭和27)年1月号~12月号

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